第100話
――――君にはこれから日本へと向かって貰う。
強力な敵JD、アゲートとの激しい戦いの末、サンという大切な仲間が破壊され、
いきなり日本に行けとは一体どういうことなんだ……? と、あまりにも唐突な話にトキヤが戸惑っていると、通信の相手、国防副大臣リトル・ネロが任務の詳細を語り始め、その話を聞いたトキヤは、確かにこの任務には自分以上の適任者はいないと納得すると同時に、自分はもうこの任務を拒絶することができなくなったという事実に気づいた。
その任務は国家の最重要機密に触れる極秘任務の類いであり、その任務の詳細を知ってしまったトキヤがその任務を拒否した場合、情報漏洩等を防ぐため首都に連行され、拘置施設の独房へと入れられる。そして、他の誰かがその任務を完遂した後、軍法会議に掛けられ、よくて不行跡除隊、最悪、極刑となる。
何にしてもここで命令を拒否したら最低でも数ヶ月は拘束されることが確実であったため、サンが破壊され、理不尽な理由からシオンがブルーレースに狙われている今、自分が動けなくなることだけは絶対に避けなくてはならないと考えたトキヤはその任務を受けると決めた。
そして、トキヤが二つ返事で任務を受け入れると、申し訳なさそうな表情を浮かべたリトルが、任務を断った場合は確かに首都で一時的に軟禁することになるけど、絶対に満足できる衣食住を用意するし、軍から除隊もしないから考え直してもいいんだよ? というようなことを、かなりぼかしてトキヤに話した。
その言葉にリトルの優しさを感じたトキヤは、任務を断ることはしなかったものの、その優しさに甘え、自分の護衛として何人かのJDと人間を日本に連れて行きたいとリトルにお願いした。
トキヤが日本に連れて行きたいと言ったのは、シオン、バル、カロンのJD三人と人間のアイリスの計四人である。
特に
エースクラスのJDであるペルフェクシオンと特殊な装備が使用可能なカロンは強力な戦闘用JDにカテゴライズされており、色々と融通の利く国ならともかく、あの国の場合、友好関係を乱す火種になりかねないから同行を許可することはできない。と、シオンとカロンを日本連れて行くことは許可できないとリトルに断言されたトキヤは、ならせめてシオンとカロンを
スキャニングの手間が掛かる、首都に行かなければいけない等の理由から直属の上司であるグリージョに何度頼んでも断られていたことを、その更に上の人間であるリトルに頼んだところで同じ回答しかこないだろうとトキヤは予測していたが、それでも万に一つの可能性にかけてその事をリトルに頼んでみたところ。
――――ああ、それなら何の問題もない。と、あっさり承諾された。
今までのグリージョとの問答は何だったんだ……。もっと早くリトルさんと話せていればサンも……と、トキヤは途方もない虚無感に襲われながらも、そのままリトルと話し合い、二人だけでなく、後でバルも
そして、リトルとの会話を終え、司令室を出たトキヤはその足で技師仲間であるレタの部屋へと向かい、この国一番の兵器開発者と言われているシュルトという少女と通信で会話を始めた。
トキヤが長時間待たせすぎたということもあり、シュルトは入浴しながら通信をしていたため、シュルトの顔が映像に映ることはなかったが、少し言葉を交わしただけでトキヤはシュルトという少女から――――自分と同じ匂いを感じ取った。
JDならともかく、人間の心を理解することを得意としていない自分がすぐにそんな確信を持つことができた少女、シュルトにトキヤは信頼感を抱き、シュルトもトキヤに同じようなことを感じ取ったのか、二人は長年の付き合いがある友人同士のように会話を続けた。
そして、整備室でライズから話のさわりを聞いていた『開発中の新兵器を活用したJDの人格データ復元プラン』の詳細な説明を機密事項などを除いてシュルトから聞いたトキヤは、自分はもちろん、どんなに優秀なJD技師でも、JD専門の技術者という視点からでは絶対に直すことのできないサンの人格データを、兵器開発者であるシュルトならば直せるかも知れないと判断したトキヤは。
――――サンを、俺の大切な仲間を直してくれ。頼む……!
自分を映しているデバイスに向かって、深々と頭を下げ、シュルトに嘆願した。
そして、その心からの願いを聞いたシュルトが、出来る限りのことはすると約束してくれたため、トキヤはサンの身体をシュルトに預けると決めた。
そして、その通信が終わってから暫くして、トキヤが日本で、ある人物に渡すことになる物が基地に届けられた後、トキヤ達は行動を開始した。
トキヤ達が一時的な拠点としていた基地は強奪された基地の奪還作戦のために使う予定だったが、敵の動きが想定よりも早く、作戦の練り直しが必要になり、無理に今の小さな基地を守る意味がなくなったため敵が攻めてきたら基地を放棄し脱出するようにと特殊仕様のJD達に指示を出してからトキヤ達は基地を出た。
そして、基地を出た後、トキヤ達はすぐに二手に分かれた。
一つは、護衛にライズと援軍で来た三人のJDのうちの一人をつけ、サンの身体と、
そして、もう一つが日本に行くトキヤとその旅に同行する二人、それに隣国の空港までトキヤ達を護衛することになったJU、MPの任務組である。
「……」
その任務組のリーダーであるトキヤは、JUとMPと別れた後、すぐにセキュリティチェックを済ませ、搭乗待合室へと入った。
そして。
「…………」
「――――」
先に搭乗待合室に入っていた、先程までの自分と同じぐらい生気のない二人の顔を見て、トキヤは頭を悩ませた。
「…………」
自分の失態が、仲間を窮地に陥れ、敗北を招いたと思っている少女と。
「――――」
すぐ側にいたというのに、姉妹同然の大切な仲間を助けられなかったと思っているJD。
「……」
そんな二人のいつもとは全く違う表情を見てトキヤは、日本に向かう前にここで二人と少し話しておこうと考え。
「――――」
トキヤは落ち着いた足取りで、二人のもとへと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます