第55話
色々あってレタの部屋から追い出されたトキヤは、取り敢えず自分のやるべきことをやろうと考え自室へと戻ったのだが、トキヤの自室には裸同然の凄まじく楽な格好でくつろいでいる二人の少女がおり、そんな二人の姿を目にしたトキヤは予定を変えて先に少し息抜きをすることにし、二人に欲しいものを聞いてから食糧配給所へと向かった。
そして、食糧配給所でフルーツ牛乳、クリームソーダ、フライドポテトを手に入れたトキヤは再び部屋へと戻り。
「ああ、ただいま」
おかえり! と元気よく出迎えてくれたアイリスとサンに挨拶をした。
この元敵前線基地は、奪われた基地に比べると狭く、個人に割り当てられる部屋も小さければ自由に動ける場所も少なかったため、比較的大きな部屋が割り当てられたトキヤは、狭い部屋にいることがストレスになるようだったら俺の部屋を好きに使って構わないと一緒に基地を脱出してきたメンバー達に自室の使用権限を与えた。
そうして、その権限を暇さえあれば使っているのが、この二人、アイリスとサンなのである。
元々、二人は仲が悪いというわけではなかったが、アイリスがJDではなく人間であるということをトキヤが皆に話した後からは、前よりも一緒に行動するようになり、特にトキヤの部屋に来るときは二人で一緒に来ることが殆どであった。
「ほら、これ」
そんな下手をしたらトキヤよりもこの部屋にいる時間が長い二人にトキヤが頼まれていたクリームソーダとフライドポテトを渡すと、二人は大きな声でありがとう! と、真っ直ぐな感謝の言葉を述べた。
「けど、ちょっと今、良いところだから、もう少ししたら食べるね」
「ん、そうか? 戻ってくるまで時間が掛かった俺が悪いんだが、メロンソーダの上に載ってるアイスがもう溶け始めているんだよな。混ざりきった方が好きとかじゃないなら、アイスだけでも先に食べたらどうだ?」
あ、そうだね。と、トキヤの言葉に頷いたアイリスは普通の食事に比べたらだいぶゆっくりに。けれども、十分に速いペースでメロンソーダの上に載っているバニラアイスをぱくぱくと食べ始めた。
おいしそうにアイスを頬張るアイリスの格好は、スポーツブラとスパッツというほぼ下着姿、というかスパッツの下に何も穿いていないので下着姿であった。
少し前のトキヤなら、そんなアイリスの刺激的な格好を見たらすぐに顔を赤くしながら服を着るように大声で注意していただろうが。
「それとアイリス、部屋に居るときは楽な格好でもいいが、外に出るときは着ていた服をちゃんと着ろよ」
「はーい」
と、注意はするものの、その言葉に照れはなく、トキヤは下着姿のアイリスを見ても冷静なままだった。
それはこの基地で生活するようになってからの、トキヤの一番の変化であった。
トキヤはアイリスを
「……さて、俺もやるか」
そのためトキヤは自室で
「トキヤ、トキヤ!」
「ん?」
人間ではないという些細な違いはあるが、アイリスに負けず劣らずの美少女であるサンに呼ばれ、トキヤは足を止めた。
「どうした、サン」
「トキヤ! サンはどうかな!?」
「……?」
どうかな、って何が? と、そのサンの発言の意図が読めなかったトキヤは首を捻りながらも技師としての習慣からサンの身体を隅々まで観察し。
「そういえば、最近、よく下着を着けてるな」
サンが黄緑色の布製品、下着を着けていることに意識を向けた。
「うん! どう、かわいい……!?」
「可愛い……のかはわからないが、子供っぽい下着だな、とは思う」
「子供っぽい……!?」
やったー! と、子供扱いをされて喜ぶサンの気持ちをトキヤは今一理解できなかったが。
「しかし、どういう心境の変化だ? この基地に来る前は戦闘用スーツを着てる時以外は適当な半袖半ズボンを着るだけで、その下に下着を着けるなんてことは殆どなかったよな?」
そもそも下着を着けるという習慣がなかったサンが急に下着を着けるようになったことの方が気になり、その事をサンに質問すると。
「だって、アイリスが着てるから!」
「……」
答えではあるのだが、答えになっていない言葉をサンは満面の笑みを浮かべて語り、その笑顔があまりにも綺麗だったため、あれこれ質問することに抵抗を感じたトキヤはその圧縮された言葉を脳内で解凍することにした。
……最近、アイリスと仲良くなったから真似たってところか?
トキヤも極東で暮らしていた頃に
そして、これが重要な話であるとは思えず、そろそろ仕事も始めたかったため、トキヤはこの話を終わらせることにした。
「あー……、まあ、JDも下着姿で出歩くのはよくないから、アイリスと同じように部屋から出るときはちゃんと服を着て出ろよ」
「はーい!」
と、サンが元気よく返事をするのとほぼ同じタイミングでアイリスがアイスを食べ終わり、二人は軽く頷きあってから、トキヤが来る前に見ていた大型のデバイスに視線を戻した。
そして、二人の興味が自分から逸れたことによって解放されたトキヤは今度こそ仕事用のデスクに向かい、鋼の獅子のデータを開いて資料作りを始めた。
「……」
それからトキヤは暫くの間、黙々と仕事を続け、区切りの良いところで軽く肩を回し、横目で大型デバイスと睨めっこをしながらまるで姉妹のように仲良く喋っているアイリスとサンを見て。
……子守をしながらの在宅勤務ってこんな感じなのかもな。
ふと、トキヤはそんなことを思ったが、すぐに首を横に振った。
……いや、違うか。アイリス達は仕事の邪魔をしないし、危険なこともしないから仕事に集中できるが、本当の子守はきっと、こんなに穏やかなものじゃない。それに、そもそも……。
「――――で、サンちゃん。こういうケースでダーティネイキッドじゃなく、通常のJDに包囲された時にはどう立ち回ればいいと思う?」
「そういう場合はね、とりあえず適当な敵JDを半壊させて盾にするといいと思うな! そうすると弱いJDはちょっと戸惑うんだよね。仲間ごと撃って良いんだろうかって。でも、強いJDは迷うことなく撃ってくるから、そこで敵の強さを見分けて、強い敵JDとは距離を取りながら、迷った弱い敵JDを叩いて包囲を抜け出すのがいいんじゃないかな! ね、ね! アイリス! サンも聞きたいことがあるんだ! 大型装備を使う場合って――――」
「……」
こいつらが話している内容は、子供が話す内容としては血なまぐさ過ぎる。と、デバイスを使って戦闘シミュレーションを行っている二人を眺め、トキヤはなんともいえない感情を抱いた。
……極東生まれの人間にはゲームの話をしているようにしか思えないだろうが。
これは命を懸けた戦いに赴くために必要な話し合いなんだよな。と、トキヤは二人の話し合いの有用性を認めた上で。
……けど、こいつらが次に出撃する前に、戦争なんか終わって欲しい……。
二人のこういった話し合いが無駄になることを心の中で強く願った。
……人間のアイリスはもちろん、人格データを身体に入れたままのサン達も、戦場で敗れれば、終わる。それだけは絶対に避けなければいけない。
この前は何とかなった。だが、次も何とかなる保証なんてどこにもないのだから、戦争なんてさっさと終わってくれ。と、トキヤは本当に強く願ったが、ただ願うだけでは叶う筈がないとトキヤは理解していた。
だから。
「ねえ、トキヤ! 今後の戦闘で使えそうな新しい戦い方を二人で考えていたら、ちょっと質問したいことができたんだけど、今、聞いていい?」
「……俺が戦術で語れることなんてたかが知れてるぞ。……それでもいいなら言ってみろ」
二人が死ぬ可能性を少しでも下げられるのなら、願うのではなく、頭を使って努力をしよう。トキヤはそう考え、サンの言葉に頷いた。
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