第5話
砂漠から銃声が聞こえなくなってから、十五分ほどの時が流れた後、広大な砂漠を薄緑色の巨大なトラックが凄まじい速度で走行していた。
そして、そのトラックが砂漠の中心にある岩石地帯付近で急停車すると、すぐに助手席のドアが開き、一人の人物が車体の高いトラックから飛び降り、砂漠へと足をつけた。
「……学生時代、湿度の高い暑さの方が砂漠の暑さよりも絶対にきついと話していたが、あの国生まれの俺には真逆だったな。……この喉が焼けるような暑さは、何年経っても慣れない」
砂漠に降り立ったその人物は気温の高さに愚痴を零しながら、全身を覆う灰色のマントを着直した。
「……」
その人物はマントと同色のマスクもしていたため、声の低さから男であるということ以外は何もわからなかったが……。
「WHOOOOー!」
と、叫びながら運転席から降りてきた男性は、タンクトップに短パン、そして、サングラスというバカンスを楽しんでいるかのような格好をしており、マント男とは真逆の特徴だらけのその男性はシャワーを浴びるように肌を太陽光に晒し、太陽に負けないほどに輝く笑みを浮かべた。
「……ほんと、いつでもどこでも元気ですね、ジャミルさん」
マント男は露出の多い男をジャミルと呼び、そのジャミルのテンションの高さに若干引いていたが、まあ、このぐらい元気じゃないとここじゃやってけないよな。と、小さな声で呟いてから。
「それじゃあ、作業に取り掛かりましょうか」
と、マント男は落ち着いた声でジャミルに話し掛け、話し掛けられたことに気付いたジャミルは小さく頷いた後、口を動かした。
「Got it! Let's see... Please instruct me on what I should do!」
ジャミルの口から発せられた言葉は、マント男の言葉とは全く別の言語だったが、マント男の右耳に入っている小さな機械がその言葉を認識し。
「おうよ! それで、オレは何をすれば良い? 指示をくれ!」
ジャミルの声音のまま、マント男が得意とする言語に変換した。
「ジャミルさんは
そして、マント男の言葉もジャミルの耳に入っている機械を通し、ジャミルが得意とする言語に変換され、話の内容を理解したジャミルはマント男にサムズアップをしてから、トラックの中からバイクを引っ張り出し、砂漠を走り出した。
「……俺も行くとするか」
バイクに乗って砂漠を駆けるジャミルの背を見送ったマント男は、腕につけているウェアラブルデバイスに目を遣った。
「あいつがいるのは、Uー2地点だからここから……いや、少し寄り道して先に三馬鹿を回収するか。戦闘終了後のデータは見たが、何か嫌な予感がする」
そして、自身の行き先を決めたマント男は砂漠を一人歩き始め。
「オールキット! 付いてこい!」
『――――!』
マント男が歩きながらそう叫ぶとトラックのコンテナから車輪の付いた巨大な道具箱のようなものが飛び出してきて、その道具箱は忠犬のようにマント男に寄り添い、人間の歩行速度と同じスピードで自走を始めた。
「……」
そして、マント男が砂塵舞う世界を五分ほど歩くと。
「――――あら、大変。こんな所に全身をマントで隠した不審者が。砂漠の中でも見せつけたいナニかがあるんですか? それはきっと大層立派なものなのでしょうね」
小さな砂丘の上から、少女の声が聞こえ、マント男は少女の言葉の内容には、特にリアクションをせず、ゆっくりと顔を上げ。
「よう、
マント男は、球体関節を持つ黒髪の短いツインテールの少女、バルと視線を合わせ、砂丘を上り始めた。
「それは当然ですねー。バルは本気を出すタイミングぐらいは心得てますから」
「……その言葉を鵜呑みにできないぐらいには、お前との付き合いも長くなったな。お前は時々わけのわからないところでぶち切れて突っ込んで、大破して帰ってくるから、信用ならん」
「あら、乙女の癇癪を飲み干せない殿方はモテませんよ? それとも、バルが中古だからどうでもいいとお考えで?」
「俺はもう人にもJDにもモテなくて結構だ。そして、お前は中古じゃない。他の連中よりまともな経験を積むことができた、少し幸せなJDなだけだ」
「っ……。……ほんと、付き合いが長くなったことを実感してしまいますね。バルが軽口をたたけなくなるような返しがうまいこと、うまいこと」
「……? 俺は本心を語っただけだが……、まあ、何にしても」
お前との雑談は仕事中にするには長すぎるから、また後でな。と、会話を切り上げたマント男はバルの頭を軽く撫でてから、砂丘の上に立った。
「それで次は……
「あ、トキヤだ。やっほー」
そしてマント男は、砂の上に座り真っ青な空をぼんやりと眺めていた金髪碧眼の少女、サンに向かって軽く手を上げ。
「――――」
サンの二の腕よりも先が消失した左腕を見て、苦悶の表情を浮かべた。
「? トキヤ、どうかした?」
「あ、いや、……その、災難だったな。まさか反政府が、人格のないダーティネイキッドとはいえ、人間爆弾ならぬ、JD爆弾を使ってくるとは俺も思わなかった」
「JD爆弾? あ、あの攻撃方法のこと? 確かにちょっと斬新だったかも。……というか、人間爆弾って何だろ? ――――って、うわあ。昔の人間、こんな手法で敵を倒してたのー? JDのサンが言うのも変かもだけど、これ、酷いって言葉以外思いつかないよ」
「……ああ。そして、俺からしてみれば、JD爆弾も同レベルの下劣さだ。待ってろ、すぐに――――」
直してやる、とマント男が声を発しようとした時、砂丘の上に少し強い風が吹き。
「――――」
獣の肉を焼く臭いとゴムが熱によって溶ける臭いが混じったような異臭をマント男の鼻が感じ取った。
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