Case.76 慕われる場合
「いいじゃーん、ここ俺らの庭みたいなもんだから出口分かるよ? 一緒に行こうぜ」
「お断りすると言っているなの」
「ほんと、しつこいですよ! 私たちだけで大丈夫ですから!」
ミストフォレストにて、兄を捜していた二美は偶然五十嵐と合流していた。
兄の元に連れて行って欲しいと強めに懇願されたので、五十嵐は元の場所に戻ろうとするが、霧のせいでどこか分からなくなってしまった。
それから一度出ようとしたが、本当に広くて出られないこのエリア。
途方に暮れていたところを道案内と称してナンパされていた。
「ていうか、あなたたちも本当は迷ってませんか?」
「えっ⁉︎ いやいや! そんなことないよ〜、うんうん……ん? あれ、君ってそういや……」
「え? ……あ」
「あ! あん時のガキか‼︎」
ナンパをしていた男三人組。
それは以前、二美たちに対して車が傷付いたからと嘘を付き揺すっていた男たちだった。
「んだよ、今日はお母さんと一緒かよ」
「私は高校生なの」
「マジかよ! それで高校生⁉︎ おぉ、いいねぇ‼︎」
五十嵐は実年齢よりかなり上に見られてしまった。
しかし男たちはむしろ興奮した様子で盛り上がっている。
「あぁ、ガキの方は帰っていいぞ」
「はぁ⁉︎ それはそれで失礼でしょ!」
「んだよ! 何かお前がいると邪魔が入りそうな気がすんだよ、とっとと行けよ!」
「邪魔ね……確かにその人は私にとって邪魔者ですよ。お兄ちゃんを取っていこうとするし。けどその邪魔者、ほんととても頼りになるお姉ちゃんなんです」
「は? いきなり何言ってやがる?」
二美が何か呟いたことに疑問を持った男たちに、思いもしない冷や汗が流れる。
二度も感じたことがあるその殺気に、恐る恐る背後を振り向くと──
「「「ひぇっ⁉︎」」」
「よう。妹たちが世話になったな」
火炎寺急襲。
またも邪魔された男たちはすぐに霧の中へと逃げて行った。
「──ありがとうなの。お姉様」
「別にアタシは来ただけでまだ何もしてねぇよ。それよりいきなり呼び方変えてきたな」
「私じゃないですけど」
二美は語尾に〝なの〟なんて付けるわけがない。
当然それは五十嵐になる。
「先輩が言っていたのはこういうことだったなのね。こんなにもすぐに現れるなんてなの。お姉様、いいえご主人様」
「ご主人様⁉︎」
「私を性奴隷に──」
「しねぇよ⁉︎」
◇ ◇ ◇
「お姉様、なんなりと命じてくださいませなの。ご希望でしたら紐に縄に鎖に縛られるなの」
「お姉ちゃん、言っとくけど私はお姉ちゃんとして認めはしたけど、お義姉ちゃんとしては認めはしないですからね」
捜しに行った人たちがみんな一時帰ってきたところに火炎寺が二人を連れて帰ってきた。
良かったと安堵するも、何だか様子がおかしい。
火炎寺の右腕に五十嵐、左腕に二美がしがみついているのだ。奇しくも、最初に雪浦がされていたことを火炎寺が代わりにされていたのだ。
皆、気持ちは同じだった。
(((何がどうしてそうなった……⁉︎)))
──その後、各々好きなものを食べ、グループが立ち替わり入れ替わりながらも閉園時間になるまで遊び尽くしたのだった。
こうして失恋更生委員会(PURE参入)のプール遠征は終わったのであった。
**
帰り道、みんなとはそれぞれの最寄り駅で別れた。
火炎寺の家には雪浦家総出で帰っているところだった。
太陽は沈み、住宅街は既に街灯と家の灯りで行く道を照らしてくれていた。
「二美が俺以外の背中で寝るのは珍しいな」
「何だ嫉妬かー?」
「別にそうではない。三葉、四郎ちゃんと付いてこい」
「「はーい‼︎」」
と、二人は雪浦たちを追い抜かして先に先にと行ってしまう。
それを見て溜息をつく雪浦とこの瞬間を幸せに噛み締めていた火炎寺。
「……嬉しそうだな」
「そりゃ、まぁな。こう、遊んだ帰りってなんかよくね?」
「そうだな」
二美が少し寝息を立てる。
起こさないようにと火炎寺は揺れないように気をつける。
「──本当は俺からチケットを渡すつもりだった」
「へ?」
「チケットを二枚、用意してたんだ。だが火炎寺から貰い、五十嵐からも受け取り、予定より三枚余ってしまった。だから二美たちも呼んだ」
「いやいやちょっと待てって! え、つまりなんだ……ゆ、雪浦はアタシと二人きりでプールに行きたかったのか?」
「それが有効らしいからな」
「有効?」
自分の気持ちを出すためには肌を晒せば効果的だと以前雪浦が図書室で偶然借りた本に書いてあったという。見識を広げるために無料で借りられる本を無作為に選んだらしいが、何ともソースの分からない書籍を手に取ってしまった。
ただその本がキッカケで、返却の際に五十嵐と少し話が盛り上がったという。
「上手く気持ちが伝えられない相手がいるなの」
それはあいにくにも雪浦本人ではあったが、今日あったようにただ言葉で伝えるだけでは満足できない故の悩みだったのだろう。
二転三転して何故か火炎寺に仕えることとなったが。
「そうだったのか。じゃあ、雪浦もアタシと同じ考えだったてわけか……お、おう、ならよ、いっそのこと──」
「俺たちはもう家族だろ」
食い気味に口を開く雪浦。
まだ言葉にはしていなかった。しかし、まだ何も伝えていないのに、気持ちが伝わったのならば、一緒になる日は近いかもしれない。
歩幅が揃うようになった二人は、帰り道を進んだ。
◇ ◇ ◇
『来週の土曜、花火大会行かねぇか──』
『お前いつも暇だよな──』
『うぇーい、今度YO花火見に行こうZE』
ダメだ‼︎ 誘い文句が決まらねぇ‼︎
俺は来週の土曜に開催される花火大会に日向を誘おうと文章を打っては消し、打っては消してを繰り返していた。
もっとこうスッと言えばいいんだろうが、一字一句おかしくないかと推敲してしまう。
失恋更生委員会の活動として……いや、それじゃ二人きりの時間を……ってうぉっ⁉︎
『あ、もしもーし! 七海くんどうせ暇でしょー? 来週の土曜に花火大会あるから一緒に行こうYO‼︎』
突然の着信。もちろんアポなしに電話してくるのは日向だけだ。さっきまで俺が考えてた文章全部言いやがった。
「まぁ、いいけどよ。失恋更生のついででだろ? 花火大会とか絶好の失恋する時だからな」
『あーそれはもちろんなんだけどー……』
なんだか歯切れが悪い日向。
プールの時と同じように、ただ祭りを楽しみたいという魂胆が見え透いてるぞ。
『なんかー、ういちゃんは塾で、あゆゆはなんか学年一位と過ごすみたいだし、生徒カイチョーは生徒会だからー。ワタシたち二人で失恋更生になるね!』
「そうか。んん⁉︎」
『じゃ! また連絡するねー! おやすみんごす〜』
よく分からん語尾が付いた挨拶をして日向から電話を切った。
ま、まさか向こうから二人きりで誘われるとは……いや、活動ついでだけどさ。
今日、プールでの火炎寺の失恋更生は一定の成果を得られたようだ。次は俺の番……
……よし、決めた。
俺は花火大会で、告白する。
こ、告白の言葉どうすっか。てか、会場のどこでするか⁉︎ 下見いるよな⁉︎ 人少ない方がいいよな⁉︎
と、俺がああだこうだと思案している時にピロンと通知が来た。
日向から追加情報かと思ったが、相手は意外な奴だった。
「……ん? 雨宮?」
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