Case.64 手を出した場合
「え、ちょ、大丈夫⁉︎」
ポジションとしては隣にいた雲名が心木を心配する。
鈍い音がして、見るからに痛そうだったからな。みんなも不安そうだし、サーブを放った相手チームの子もオロオロしている。
「へ、平気平気。これくらいの痛み、自分慣れてますから」
不幸体質が故に身につけた頑丈さ。これくらいで心木の心は折れやしない。
「次こそはしっかり取ってみせぐびゅっ⁉︎」
「こ、心木さぁぁぁん⁉︎」
隣のコートからレシーブミスで飛んできたボールが心木の側頭部にクリーンヒット。
さすがに二度目は耐えきれず、心木はその場で倒れてしまった。
恐るべし不幸体質……。
一時、試合は中断となった。始まって間もないけど。
「わ、わたしが保健室に連れていきます!」
クラスでは保健委員である初月が名乗り上げた。
心木は一応意識はしっかりしているものの、大事を取って保健室に連れて行かれた。
「……仄果、大丈夫かな?」
「ふむ、よくあることではあるが、やはり心配だな。仕方ない。ここはさっさと勝って見舞いにでも伺うとしよう。彼女の勇姿は必ずやあの男に見せつけられたであろう!」
心木の代わりの生徒がコートに入って、試合は再開された。
俺から見て手前に7組、奥側に2組。ボールを落とさぬようパスを繋げて、お互い点を取り合っているものの、やや2組の方が優勢であった。
2組にはバレー部が二人いるに加えて、金城と土神がかなり動けていた。
土神はどんな厳しい位置に落ちようとしても、飛び込んでボールを拾い上げる。リベロの才能あるな。受け身がしっかりしているので、怪我なくすぐに次の行動に移せている。
金城は土神が拾い上げたボールを、仲間が打ちやすい場所へとトスを上げる。時にはフェイントで自分が決めるなどとても器用なことをしている。
「さすがだ花」
「ゆとりこそ♪」
「よし、一気に畳み掛けるぞ!」
土神が加速して動き出したその時、胸が爆発した。
普段、晒などで押さえ付けられているその胸はちょっとやそっとでは外れたりしないものだが、こんなにも大々的に活躍して動きまくっているのだ。
擦れ、削れ、取れてしまった。
あまりにも突然のことに固まった土神の目の前にボールが落ち、7組に点が入った。
「……わー、やっぱり大きいね」
一人のクラスメイトがそう呟いた。土神の胸が実はとても大きいというのは噂のような形で広まってはいた。
いや、まぁ確かに体操服越しだとより際立つというか、とにかくデカいよな……という感じで見ていると、土神と遠くながらも目が合ってしまった。
「くっ……! 殺せ! ボクを見るなぁぁぁあ‼︎」
「ちょ、ゆとり⁉︎」
顔を隠して胸隠さず。土神は真っ赤になりながら体育館からすんごいスピードで逃げ出した。金城が慌ててその後を追う。
「何がしたかったんだあいつら」
俺を落とすとか言ってたけど、PUREは全員ここからいなくなってしまった。てか、日向も初月も保健室って、女子の知り合い半分が保健室行きって何事?
とりあえずいる意味はなくなったので、大人しく運動場に戻ることにした。
**
男子が行うサッカーコートに戻ると俺たちのクラスは負けていて、次は敗者組同士で試合すると知った。
相手は6組──雨宮がいるところだ。向こうも負けたのか。バスケならあいつ一人だろうと勝っていただろうが、サッカーはダメだったか。
試合は大体1チーム15人で行う。いやサッカーが本来11人なのは知ってるぞ? 一クラス34〜35人、男子はその半分だからな。なるべくみんなが一度に出れるようになっているけど、休憩する人や欠席者を鑑みてそれくらいになっている。だから俺は一試合目出場していなかった。次は出るので安心してほしい。
ちなみに女子は1セットごとにメンバーを変えているらしい。
「おい! こっちだ!」
とかなんとか考えている内に、俺のところにボールが来た。誰もマークしていなかったので、ひとまずこっちに蹴ったという感じか。
俺は敵チーム側のコーナーにいる。さすがにここからシュートは狙えないから、ゴール前で激闘を繰り広げているクラスメイトのところに力強く蹴り込んだ。
ボールは大きな弧を描き、反対側のコーナーに落ちて相手チームに取られてしまう。
ま、こんなもんだよなと、一応ボールを追いかける。
にしても暑いな……。
毎年暑くなっていってねぇか? このままだと季節が夏から業火へと名前が変わるぞ。
これならずっと補欠でよかった。まぁ、どこにいても暑いのには変わりないが、影もないグラウンドで動き続けるのはしんどい。
一応、こう見えてモテたいと思って腹筋腕立て伏せぐらいはやっていた時期があったが、筋肉は暑さには敵わないみたいだ。筋肉が全て解決してくれねぇのかよ。
時間は進み、試合終了直後。自クラスは絶好のチャンスを迎えていた。
試合が全く進まない0対0の展開だったが、ここ数分は7組が絶え間なく攻め続けていた。
暇な女子たちの黄色い声援が飛んできている。ここは是非とも決めたいとみんな思っている。
サッカー部の次期主将となった委員長が強烈なシュートを撃つが、ゴールキーパーに弾かれてしまう。
そのボールは大きく跳ね返り、7組のもう一人のサッカー部の元へと落ちた。
「っしゃぁあ!」
雄叫びと共に撃った長距離のボレーシュートは真っ直ぐゴールへと飛んで行く、が、俺のすぐ近くにいた相手チームの生徒の顔面にぶつかりそうになっていた。
さっき心木の顔面受けを見て痛そうだと思った俺は咄嗟に手を出して守った。
「いっつ……大丈夫、か……」
「あ、ああ。ありがとう」
相手が誰だが見ていなかったが、俺が守ったのは雨宮だった。ディフェンスとして相手をマークすることに集中し、ボールが飛んできていたことに気付いてなかったらしい。
「おい何やってんだよ!」
あと気付いた。俺めちゃめちゃハンドじゃん⁉︎
クラスメイトから大ブーイングを受けて、控えと自主的に交代した。
ちなみにボールの所有権が相手チームに移った後、すぐさま点を入れられてしまい7組は負けてしまった。
**
「っすぅー……、やっちまったなぁ」
俺は運動場と体育館の間にある手洗い所で一人反省をしていた。
別にもう浮いている身としてこれ以上厳しい目が向けられようと構わないが……いや、あんまよくねぇな。
なんかことごとく間が悪いというか、俺たち失恋更生委員会は球技と相性が悪いのかまったく……。
「七海くん……だったね」
「え? あ、あぁ……」
一人ぼっちでいる俺に声をかけてきたのは、雨宮だった。
彼も俺と同じように汗をかいているはずだが、なんだ、爽やかさが違うなおい。
「………………」
「……え、なに?」
「いや、少しだけいいかな?」
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