Case.9 停学になった場合
「なんでだ⁉︎」
「そりゃー、こうなるよねぇ〜」
久々の学校、の昼休み。
一週間休めてラッキー! なわけはなく、反省文の提出やら必要以上の課題やらで忙しかった。
そしてめちゃくちゃ両親に怒られて心配されて。血縁に土下座するなんて今までもこれからもないと思っていたのに。
にしても日向は反省を知らないのかケロッとしてるな。
主犯は俺だとしても真の黒幕はこいつだろ。
停学中も毎日毎日しつこく
文面も声も〝!〟が多用されまくってたから、さぞ楽しい一週間を過ごしたんだろうな。
当然クラスでは今まで以上に浮いたわけで。もはや空まで飛べる。
雲名もそうだし、あそこにいた同じクラスの部員によって俺の悪行は広められていた。
暴力を振るったとか、卑猥な写真を撮って脅していたとか、金を巻き上げているだとか……いや尾ひれ付きすぎ‼︎
ここまで嘘が広がると、さすがに戻る場所は完全になくなったか。
けれど、一人の女の子を守ることはできたのかなと。そう自己満足した。
とか、なんとか思っていると、俺たちが今いる失恋更生委員会本部に一人の訪問者が。
言わずもがな、初月だった。
「ういちゃん! ういちゃんは停学にならなくてよかったねー」
日向の言うように、初月も部の活動を妨げたことになるはずだが、雨宮をはじめとした生徒たちの弁明により不問とされた。
それに加え、初月も利用されただけの被害者として彼女を責める者は誰もおらず、むしろ最後の一喝で俺たちを黙らせた立役者として関係性は良くなったという。
全ては丸く収まったはずだ。
ところが初月は、俺たちを見るやいなや、涙をボロボロと流し始めてしまった。
「う、初月さん⁉︎」
「ういちゃん⁉︎ えぇ⁉︎ またフラれたぁ⁉︎ そんな時はワタシたちにお任せを! 失恋更生三三七拍子ー!」
「……ごめんなさい……‼︎」
初月は止まらない涙を手で拭いながら謝った。
「わたしのせいで、お二人が停学になっちゃって……ずっと、謝まりたかったですけど……」
俺たちは初月と会った日と告白した日の二日のみしか会っていなかったから、連絡先を知らない。
ずっと気になっていただろうけど、連絡取れずにいたから、今日まで一人自分を責め続けていただろう。
……そこまでは考えが及ばなかった。
「ううん、ういちゃんのせいじゃないよ。勝手に盛り上がって余計なことを言った七海くんのせいだから」
「おい」
全責任俺に押し付ける気か!
まぁ、完全に否定しがたいんだけどさ……。
「わたしが罰を受けるべきだったんです……! 傷付くべきだったんです! それなのにわたしの代わりに二人が傷付いて、そんなわたしは、可哀想だね、でも勇気を出して言ったよね、ってみんなからは励まされて、なのに……それなのにわたしは、二人が本当は優しいことを、何も知らないみんなに言えなくて……わたしにはそんなことを言ってもらえるような権利なんてないのに……!」
「──そんなこと言うなよ」
「……え?」
「権利がないだとか、罰を受けるべきはわたしだとか、そんなこと言うなよ。傷付いていい人間なんているわけないだろ! ……だから傷付こうとか、そんなこと思わなくていいんだよ」
「それなら尚更、お二人が傷付くことは……」
「傷は分かち合うものだよ、ういちゃん。悲しい時、苦しい時、そして失恋した時──ワタシたちはそんな人たちの話を聞いて、寄り添って、そして励ますんだ。ういちゃんが傷付くなら、ワタシたちも一緒に受けるよ。ナイフでお腹を刺されようとしても、七海くんが前を、ワタシが後ろから一緒に受けてあげる」
……致命傷俺しか負ってないんだけど⁉︎
「だから大丈夫!」
何が⁉︎ えっへんってしてるけど、傷付いたの俺だけだよ⁉︎
「そんな、わたしなんかのために……」
「……俺たちはあの時にやりたいことを、好きなことをやっただけだ。だから別に、好きになってはいけない人を好きになったって、いいじゃないか。心のままに好きでいようぜ」
「……心のままに、好きで……」
「そうそう!」と、日向はグッと指を立てる。
初月は自分の想いに正直でいられるか。それができるのは彼女だけだ。
俺たちは応援することしかできない。
初月は最後に、深々と頭を下げた。
次に顔を上げた時、目は腫れていたが、表情は晴れ渡っていた。
◇ ◇ ◇
「失恋した人! 恋が叶わない人! ワタシたちが全力で励ますよ! 失恋更生委員会をよろしくおねがいしまーす!」
放課後、俺たちはいつも通り、宣伝活動をしていた。
俺たちが停学になった騒動は効果的面。知名度は上がった。
だが、それは無視から軽蔑になった。
でも、どこかの誰かが言っていた。好きの反対は無関心だと。
「だから別にオッケー!」
日向は前向きだ。
けれども見事、厄介者となった俺たちには逆風しか吹いていない。
「うーん、なかなか失恋の匂いしないなー」
そう簡単に失恋が起きるわけでもないし、俺たちに相談しようとする人はいないだろう。
そんな中、新しい風が吹き出す。
『……失恋更生したい方いらっしゃいませんか! わたしたち失恋更生委員会が全力で更生させますっ……!』
「あ! ういちゃん!」
初月が拡声器を持って現れた。
一緒に宣伝してくれようというのだ。
「もしかしてういちゃん…………拡声器返しに来てくれたの? 別にいいのに〜拡声器もいっぱいあるからさー」
「いや、そうじゃねぇだろこの流れは! ……でも、いいのか初月さん。俺たち嫌われ者になったし、一緒にいたら初月さんも──」
『心のままに、好きなことをしたいって思ったんです。わたしがここにいたら、せっかくお二人が守ってくれたわたしの関係性は壊れてしまうかもしれません……。でも、それでも、こんなわたしでも誰かを励ますことができるなら応援したい……! そして、失恋更生委員会のみなさんのお役に立ちたい、日向さんと七海くんを応援したいです……!』
「う、ういちゃーん‼︎」
日向は初月にフライングハグ。
めちゃくちゃ驚いていたけど、それでも初月は嬉しそうだ。
『日向さん。七海くん。これからよろしくお願いします……!』
「あぁ、よろしくな」
「よろしくー‼︎ って、まだ拡声器は手放さないんだねー」
『ま、まだ、大きな声は出せないので……』
「そうか。まぁ、ゆっくりやっていこうぜ」
初月はいつもみたく、恥ずかしそうに二度頷いた。
「じゃあ〜、ワタシのことはひなたちゃんって呼んでよ! いつか生で聴けるの楽しみだなぁ〜」
『う、うん。頑張るね、ひなたちゃん』
「そして、これからも拡声器持ちとしてよろしく!」
ひなたちゃんっていきなり強引な……。
けど、初月にはそんな日向と案外相性はいいのかもな。
「よーし! これで失恋更生委員会も三人目! もっともっとメンバー増やして、もっともーっとたくさん失恋更生させるぞー! えいえい──」
「──そんなことはさせません。日向日向さん」
「おー!」を、遮る新たな登場人物。
「ん? だれー?」
「げっ⁉︎」
日向は知らないようだが、俺はこいつのことをよく知っている。
大和撫子の代名詞といっても過言ではないほどに、美しい彼女は黒髪ロングがよく似合う。
お世辞じゃない。この学校にいるやつなら誰もが尊敬し、敬い、憧れる存在。
「ひ、
この友出居高校に君臨する生徒会長。
そして、俺の幼馴染だ。
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