第4話
◇◇
大森先生は芝生広場の中央でレジャーシートを敷いて、数人の男子と一緒にお弁当を食べている。私、モエッチ、ヒナは少し離れたところで様子をうかがう。
「大森先生、作りすぎてしまったの。食べてくれないかな?」
事前のすり合わせ通り、アスカ先生が大森先生の横に座ってお重を開く。
大森先生の顔に苦笑いが浮かぶ。
「どうしてこんなに作ったんですか……」
「まあ、いいじゃないですか。さあ、食べてみて。すごく美味しいから」
アスカ先生が強引にサンドイッチを持たせる。
言うまでもなくその中には、トマトが入っている。
でも彼はそのことを知らない。
「そ、そうですか。そこまで言うなら……」
観念した大森先生がサンドイッチを両手に持って、大きく口を開く。
胸がドキドキと高鳴ってきた。
ゆっくりと口に近づくサンドイッチ。
そしてついにかぶりついた。
「うっ……」
先生の目が大きく見開かれた。
やった!
そう確信した直後。
「うまいっ!!」
そう大声をあげた大森先生は、ぺろりと平らげてしまったのだ。
「へっ?」
何が起きたのか分からず、時が止まったかのように感じる。
私の推理が……外れた……?
「もう一つどうぞ」
「ありがとうございます、渡辺先生。ほんと美味しいですよ!」
「ふふ、そう言ってもらえると嬉しい」
アスカ先生が手渡したサンドイッチを再びほおばる大森先生。
私は小刻みに首を横に振ることしかできなかった。
けど私にとっての試練はこれからだった。
「おーい、おまえたちも一緒に食べよう!」
大森先生が私たちに向かって手招きをした。断る理由はない。むしろ断れば「反抗的」と思われかねない。
けど私は動かなかった。いや、動けなかったのだ。
「琴音ちゃん、どうしたの?」
モエッチが不思議そうに私を見る。
私はうつむいたまま、ただ固まるしかなかった。
「もしかして推理が外れたことに納得がいかないの?」
「違う……」
「大丈夫だよ。失敗したらまた頑張ればいいんだから」
「だから違うの!」
私が大きな声をあげたものだからモエッチが目をぱちくりさせる。
そんな私たちの間に入ったヒナが、声をひそめて『真相』を話したのだった。
「琴音はね。トマトが嫌いなのよ」
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