第49話

 自分が攻略されちゃうゲームの世界のようだけど、聞いていたのとは少し違っていた。

 ヴィオラは自室で一人考える。


「要するに、歴史小説とかそんな感じなのかな?」


 ヴィオラは自分の置かれている状況を考えた。


「戦国武将とか、三国志とか、幕末とか、新撰組とか、人気のあるコンテンツは色んな人が小説にしたりゲームにしたりオマージュ作品を作り出してきたもんね」


 あまり難しいことは分からないけれど、この世界があの乙女ゲームの基礎となった世界なのだと考えれば何となく理解はできる。ゲームのストーリーは可能性として紡がれる話のひとつ。だから選択肢がいくつも出てきていくつものエンドがある。

 だから、


「戦国武将との恋愛ゲームなんて、事実と異なるエンドに溢れていたものね」


 ヴィオラはそう言うと、勢いよく立ち上がった。


「私の生きたいようにやってみよう!」


 右手を拳にして高く突き上げ、左手を腰に当ててポーズを取った。宣言が部屋の壁だけどそれもまた良し。なんて思っていたら、


「あ…のぉ」


 部屋の扉の隙間からメイドさんたちが遠慮がちに声をかけてきた。うっかり忘れていたけれど、前世と違っていつも自分の周りには誰かが控えているのだった。

 そして、今日はカフェでバイトをする日だったのだ。つまり、メイドさんたちはヴィオラを可愛いカフェのメイドさんにするべく待機していたわけで……


「あっ、じ…時間よね?着替え、手伝ってもらえるかしら?」


 今更ながらに取り繕うように微笑むと、メイドさんたちは扉を大きく開けてヴィオラの部屋の中になだれ込んできた。


「本日の髪型は如何なさいましょうか?」


 メイドさんたちはヴィオラを可愛く仕上げることに余念が無い。街で流行りの髪型をヴィオラで再現しようと今日も色とりどりのリボンを手にしている。

 けれど、前世の記憶のあるヴィオラは、街で流行りの髪型なんぞに興味はなかった。やりたいようにやってみようと吹っ切れた今、メイドさんといえばツインテールだ。メイドカフェの可愛くメイドさんを再現してみよう。目指すは萌え萌えキュンキュンだ。


「えっと、今日はね、してみたい髪型があるんだけど…」


 ヴィオラがツインテールの説明を始めると、メイドさんたちは目を大きく見開いて黙ってしまった。髪を上に結い上げるのに、その全てが下に全て垂れ下がる髪型なんて斬新すぎる。

 リボンで髪を縛るけれど、垂れ下がる髪にもリボンを編み込むのはどうだろう?宝石を散りばめるのもいいかもしれない。メイドさんたちはヴィオラの髪を斬新なツインテールに仕上げてくれた。


「こ、これはもはやっ」


 メイドさんたちが大変満足した顔でヴィオラに鏡を向けてきた。

 そこに映るヴィオラは、大変可愛らしいツインテールのメイドさんだ。可愛らしいリボンが結ばれて、下に降りる髪は緩くリボンが編み込まれ所々に宝石が飾られていた。

 もはやヴィオラはいちいち驚くことをやめてみた。宝石しかないのだ。フェイクやイミテーションなんてものは存在しない世界なのだ。惜しげなく使えばいい。ヴィオラはそれが許される存在なのだから、悪役令嬢とし君臨することを良しとするのだ。


「うん、完璧ね」


 ヴィオラはそう言ってくるりと回転した。


「私が一番可愛いわ」


 メイドさんたちから惜しみのない拍手が沸き起こった。

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