第41話

 仕立てられたドレスや帽子がヴィオラの部屋に飾られていた。窓から見える美しい景色と相まって、とんでもなく贅沢な、異国のお姫様にでもなった気分になる。


「素敵」


 思わず簡単の声を漏らすと、仕立て屋たちが頭を下げる。依頼主からの褒め言葉は、何よりのご褒美だ。

 そんな様子を眺めながら、ゆっりとアルベルトが部屋に入ってきた。


「ああ、よく出来ているね」


 ゆっくりと、眺めながら歩き、ヴィオラを見て微笑むと、アルベルトは当たり前にソファーの真ん中に座った。


「早速見せてくれないか?」


 アルベルトの一言で、ヴィオラのファッションショーが始まった。

 普段使いのドレスは、どれも着心地がよく動きやすい仕上がりになっていた。


「ヴィオラはどんな色も良く似合うね」


 アルベルトが満面の笑みでそう言えば、仕立て屋たちはそれに追随する。依頼主であり、財布を握るのはアルベルトである。機嫌を損ねてはいけない。

 メイドたちも、わざわざヴィオラの髪を軽く結ったりして雰囲気を変えてくる。

 そのおかげで、アルベルトはいつになくご機嫌の様子だった。ソファーに座り、くつろいだ様子で、義妹に仕立てたドレスを吟味する辺境伯。落ち着いた様子と、悠然とした構え方がとても素晴らしく見えた。

 ヴィオラはようやく安心して、義兄に微笑むことが出来たのだった。



 もちろん、その夜にメイドたちがアルベルトに、あれこれ指導を入れたのは言うまでもない。


「ヴィオラが可愛かった」

「それはようございました」

「王宮の夜会に連れて行きたくない」

「そのために仕立てたドレスです」

「あんなに可愛いヴィオラを誰にも見せたくない」

「侯爵様とのお約束がございます」

「絶対に、王子が言いよってくる」

「それをかわすのがアルベルト様のお役目て でございましょう」

「王族から求められたらダンスの相手をするじゃないか」

「当たり前です」

「そうしたら、王子の方が有利だ」

「ヴィオラ様は地位をお求めではございません」

「王子の方が歳も近いし」

「歳上ならではの大人の対応をしてください」

「そーゆーのはライオネスが得意だ」

「当日のエスコートはアルベルト様なのですよ」

「分かってる。守ってみせるよ」

「その心構え、忘れないでくださいませ」


 メイドたちに焚き付けられても、アルベルトは不安しか無かった。何しろ王子もあの日からヴィオラに惹かれているし、王子はヴィオラから少しだけ年上で、見た目も本当に御伽噺の王子様なのだ。

 絶対に一回は踊るであろうダンスで、ヴィオラが恋に落ちないよう祈るしかないのである。

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