魔王討伐のため、異世界召喚されたんですが、教官が大〇〇なんですけど……

 それは、ありふれた異世界召喚だった。

 授業中に突然現れた魔法陣に飲み込まれ、とある高校の一年A組の面々は、勇者として異世界に召喚。

 呼び出した張本人である、見るからに「王様です」みたいな感じの初老の男の話では、現在、この国は魔王軍に侵略されており、それを阻止するために、異世界から勇者――つまり、自分たちを召喚したらしい。テンプレである。


「ふざけるな! 俺たちは戦争なんかに参加しねぇぞ!」

「帰してよ! 私たちを帰してよ!」


 当然、クラスメイト達は騒ぎ出す。

 いきなり呼び出されて魔王と戦うなどできないと。

 だが、その時、クラス一のイケメンが「みんな、落ち着くんだ‼」と一喝。

 そして、彼の熱い演説が始まった。


「確かに、納得は出来ないかもしれない! だが、この世界の人々はそれだけ追い詰められてるんだ! 俺はそんな彼らを見捨てるなんてできない! それに、なにもただ戦えと言う訳じゃないだろう。ちゃんと、考えがあってのことですよね!?」

「うむ。お主の言う通りじゃ! まず、お主たちには時空を超えた際に、神より加護が与えられておる。その力を使えば、魔族とも戦えるじゃろう!」


 その証拠に「ステータスオープン」と呟くと、各々の目の前にステータスの書かれた画面が浮かんだ。テンプレである。


「さらに、我が国が誇る伝説の武器や名だたる名工の造った武器を、お主たちに託そう!」


 そう言って、騎士たちが豪華な剣や鎧を運んできた。テンプレである。


「さらに、我が国が誇る最強の戦士をお主たちの指導役に任命した。必ずやお主たちを導いてくれるはずじゃ!」

「なるほど! それなら、戦える!」

「うむ! では早速紹介しよう!」


 そう言って、国王が「入ってまいれ!」と言うと、扉から一人のローブを纏った男が現れた。

 瞬間、王座の間の空気が凍り付く。

 何故なら、彼からは禍々しい邪気がほとばしり、背中から生えた触手がうごうごと蠢いていた。

 さらに、よく見れば顔がブラックホールの様に黒く渦巻いており、見る者を発狂させんばかりの不気味さを顔しだしている。

 あまりの禍々しさに生徒の中には失禁・失神一歩手前の者まで出る始末だ。


「彼こそ、我が国最強の戦士。暗黒大邪神・カオス=ガ=ホトバシルじゃ」

「ちょっと待って」


 イケメンは「タイム」のジェスチャーを取り、くるりとクラスメイト達の方へ向き直る。


「……どういうこと?」

『知らんがな』


 突如、冷や水を浴びせられ、冷静さを取り戻した一同。

 さっきまでチート能力だ、なんだと浮かれていたテンションは一気に下がった。

 困惑する一同。イケメンは言い出しっぺの法則に従い、恐る恐る、国王に尋ねた。


「えぇっと……すいません、そちらの方は、聞き間違いでなければ、今、大邪神とおっしゃってませんでしたか?」

「うむ。そのとおりじゃ。な? カオス?」

「我こそは暗黒の大邪神・カオス=ガ=ホトバシル也」

「……えぇー」


 認めちゃった。嘘であって欲しかった。


「えぇと……暗黒の大邪神様が僕らを指導してくれると?」

「うむ。我が貴様らを導こう」


 導くどころか、クリア後のダンジョン深層部で待ち構えてそうなビジュアルなんだけど?

 しかし、そんなこと言った瞬間、殺されそうなので、みんな何も言わなかった。

 ってか言えなかった。それだけのレベル差を肌で感じ取れるからだ。


「あの……国王陛下? そもそも暗黒の大邪神ってことは神様ですよね?」

「うむ。そうなるの」

「なんで、下界の人間の下で働いてるんですか?」

「それには深い事情があってな」

「実は我はつい最近……1000年前くらいに天界から追放されたのだ」

「1000年前ってつい最近なんですか?」


 曰く、大邪神は元々、混沌を司っていた神であったそうだ。

 だが、ある日、いつものように混沌を司っていると、最近イキリ始めていた時空の神が、他所の世界の神と共謀し、異世界転移やら異世界転生やらの斡旋を行い始め、それを見咎めたら、あろうことか冤罪を着せられ、神界から追放されたと言う。


「今思い出しても腹が立つ! おのれ、時空の神め! 最高神の盆栽割った罪をなすりつけおって!」

「そんな子供みたいな理由で追放されたの!?」

「お主らの世界でもウ〇コまき散らしたり、論破しまくって追放されたしょうもない神もおるじゃろう。それと同じだ」

「いや、それ言われると返答に困るんですけど……」


 日本神話のアレとか、北欧のソレとかやらかしてるから困る。


「その後、我を信仰する教団が我を復活させようと、悪さを始めてな。復活したのはいいが、国王に成敗されて、現在に至る訳だ」

「国王が!? 国王に成敗されたの!?」

「そうじゃよ。いや~あの時は大変じゃったな」

「我らが戦った邪教徒の本部跡地、見事にクレーターになったからな」

「……」


 朗らかに笑う国王に、クラス一同戦慄する。明らかに、自分たちいらないだろう。

 クラスメイト達の「お前、なんとかしろよ」的な視線を背後で浴びせられるイケメンは意を決して質問する。


「あの、すいません……敢えて聞きますけど、僕たち必要ですか? どう考えても、国王様か大邪神さん、片方いれば魔王如き片付きますよね?」

「うむ、そうなんじゃよ。儂にかかれば、迷惑魔王の一人くらい、瞬殺なんじゃが、何分、一国の王が長期間国を空けるのはいかんと言われての」

「我も、いかに神界を追放されたとはいえ、下界の争いに直々に介入しては色々と不味いからな」

「あの……でしたら、他の方に指導を頼む訳にはいかないんでしょうか?」

「なんじゃ、お主、邪神じゃからって差別する気か? 人種差別ならぬ神種差別か?」


 何気にうまい事を言いながら、叱責する国王。そんな国王を大邪神が宥める。


「まぁまぁ、国王。彼らも、いきなり召喚された上に、大邪神が指導する言われて困惑しているのだろう。あまり、無理を言わないでやってくれ」


 そこまで配慮してくれるなら、人選まで気を使って欲しかった。

 そんなことを考えるイケメンに、大邪神は申し訳なさそうに言った。


「すまない。キミたちの言い分も、もっともだ。しかし、こちらもいかんせん人手不足なのだ。その辺りは察してくれないだろうか?」

「いや、そんなこと言われても、こういう場合ってやっぱり、騎士団長とか賢者とかが指導するのがテンプレなんじゃ……?」

「生憎、騎士団長は辺境の町で暗躍していた死の商人たちがやらかした、バイオハザードを鎮圧しにゾンビ狩りに、賢者は外宇宙から侵略してきた宇宙人たちを退治に、戦争に向かってしまって、不在でな。残った我々で魔王に対処することになった」

「ゾンビ!? 宇宙人!? 魔王以前に、この世界大丈夫なんですか!?」


 山へ芝刈りに、川へ洗濯にいきました感覚でさらっと、終末規模の災厄が迫ってるのを説明する大邪神に、イケメンはツッコまざる負えなかった。


「他の勇者たちもやれ世界樹の暴走やら、やれ異次元人の侵略やら、その対応に追われていてな。ある勇者一派など東の国に現れた大怪獣の討伐に向かって、シーズンが終わるまで帰ってこれない」

「大怪獣の出現を台風の季節みたいに言わないで下さい」


 そりゃ、異世界召喚に頼っても仕方がない。

 やるだけやって、人手不足では文句のつけようがないではないか。


「加えて近隣魔王城からも今回の一件でクレームが相次いでいるから、早急に討伐したいのだ」

「近隣魔王城ってなに!? 魔王城密集してんの!?」

「あぁ、108世帯ある魔王城のうちの一つが、今回の混乱に乗じて、世界征服に乗り出してな。他の魔王城を無断で進行して困ってるそうだ」

「そんなの袋叩きにすればいいじゃないですか……」

「土地狭いから合戦になると建物とか損壊しちゃうのだ。魔王軍のモチベーションも上がってないし、異世界勇者を送り込んで魔王を討伐。早急に鎮圧するのが一番かなって」

「そんな感覚で呼ばれたのか、僕たち……」


 なんともやるせなくなる話である。


「それもこれも神界が我を追放するからだ。混沌を司るのは一朝一夕で出来るものじゃないのに、また新米神に任せたな?」

「混沌を司るってそんな、専門的な技術的な話なんですか!?」


 やめてくれ。神界とか、かなり高次元な存在出しておいて、一気にスケールダウンしてるではないか。


「まぁ、とにもかくにも、現状、対応できる人間がおらんのでな。大変申し訳ないが勇者召喚させてもらった。報酬は一人につき金の延べ棒一本となっておる。魔王討伐次第、受け取った者から送還する」

「あまりにも雑過ぎませんか!? 僕らの扱い‼ あとアルバイト感覚で金の延べ棒を渡さないで下さい!」

「仕方ないじゃろう。お主らの世界じゃ、ワシらの通貨は使えんし、宝石とかも安く買いたたかれる恐れもあるから、金が一番安定して換金できるんじゃから」

「夢も希望もない……」

「じゃあ、ワシ、巨大隕石を破壊してくるから、大邪神の言うことをキチンと聞いて、怪我をしないように、魔王討伐に臨んでくれ。じゃ!」

「隕石!? 隕石も迫ってんの!?」


 軽く、ヤバめの情報を残しながら、国王はその場を後にした。

 残された生徒たちは、なんとも言えない顔をしながら見送る。


「……まぁ、そう言う訳じゃから、我がお主らを導くので、安心して魔王討伐してくれ」

「あなた、今、どんな感情で言ってます?」


 少なくても、情報量が多すぎてみんな、ついていけてない。

 顔も( ゜д゜)ってなっている。


 だが、ここまでお膳立てされては、やるしかない。

 腹をくくり、イケメンは大邪神に向かい、頭を下げて言った。


「まぁ、こうなったらやるしかない! みんな! 魔王を討伐して、元の世界に戻るんだ!」

『お、おう‼』

「そう言う訳で、大邪神さん! ご指導お願いします‼」

「うむ! では、早速、お主らに能力の制御方法を教えよう‼ 先ほども言ったが、お主らには時空を超えた影響で、いわゆるチート能力が備わっている! まずはそれを制御する方法を教えよう‼」

「分かりました‼」


 ようやく、異世界転移ものらしくなってきたと、生徒たちのテンションが再び上昇する。

 大邪神も満足そうに頷く。


「そして、制御が終わったら……」

「いよいよ、実戦ですね!? みんな! 頑張るぞ‼」

「いや? 違う」

「え?」


 大邪神の意外な言葉に場の空気が凍り付く。なんか嫌な予感がする。

 それを裏付けるかの如く、室内に巨大な大砲のようなものが運ばれてきた。


「制御方法を習得次第、この『チート能力エネルギー変換衛星兵器』にチート能力を流し込んでもらう」

「ちょっと待って!」


 二度目のタイムをかけるイケメン。

 しかし、大邪神は構わず続ける。


「この衛星兵器は文字通り、異世界人のチート能力をエネルギーへ変換・融合し、対象を原子レベルで分解する、驚異の兵器だ」

「あの」

「全員分のエネルギーをチャージ次第、宇宙空間へ打ち上げ、そこから魔王に照準をロックオン。対象以外の物体をすり抜け、余計な損害を出さず、魔王を討伐できる」

「待って‼ お願い! 話聞いて!」

「そして、魔王を討伐次第、お主らを元の世界に送還する。あぁ、親御さんには事情を説明しておるから安心してくれ」

「もう、訳わかんないよ‼」


 サクサクと進める大邪神の言葉を遮り、全員の心境を代弁したツッコミが、王宮内に木霊したのであった。




 数日後、チート能力を操作し、エネルギーへと変換した衛星兵器により、魔王は無事討伐。

 生徒たちは無事、地球へと送還されたのであった。




「なに? 神界で内乱が勃発? 人類を根絶しようと最高神と時空の神一派が乱心。仕方ない、我、言って来るわ」

「もう好きにしてください」


 別れ際に発生した新たな危機を見送りながら、一年A組は、もうこの世界に召喚されないようにと、心の底から願ったとさ。




◆登場人物◆


【大邪神 カオス=ガ=ホトバシル】

 かつて神界で混沌を司っていたが、姦計にハマり追放された神。

 現在は紆余屈折を経て、王国で人々の生活を見守っている。

 だが、時代は彼を放っておこなかった。

 神界での内乱にて、功績を上げた彼は、後に新たな最高神となるだろう。


【国王】

 昔は勇者として名を馳せていたが、なんやかんやあって、新興国家の国王に。

 毎月の様に起こる世界の危機に「やれやれ」と言いながらも、立ち向かう。

 隕石は無事に粉砕した。


【イケメン】

 クラス一のイケメン。それ以上でも以下でもない。

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