呪術師ですが勇者パーティーを追放されるそうです。でも……


「命令だ。呪術師、お前を追放する!」

「そんな! なんで今さら!?」

「上からの指示だ。『魔王討伐の任を受けた勇者パーティーに呪術師などと言う怪しげな存在を置いておく訳にはいかないから』だそうだ……」

「そんなの理不尽だ! しかもいまさらそんなこと言われても……」



「魔王はもう倒しちゃったじゃないか!」

「……言うなよ、それを」



 気まずそうな顔で呪術師から視線を逸らす勇者。

 そう、呪術師の言う通り、本日をもって魔王討伐完了!

 およそ一ヶ月での討伐。歴代勇者の記録を更新してしまった瞬間であった。


「どうすんだよ?」

「そもそも追放云々の前に、依頼達成ですからね……」

「……だってこの手紙が来たの今朝だし」


 へんじのないただのしかばねになった魔王を見て、全員のテンションは急降下。

 ホント。言うなら、もっと早く言って欲しかった。

 しかも、国はああ言うが、この短期間での討伐が完了したのは呪術師の力があってこそだった。


 魔王軍の強大さを目の当たりにした勇者一行は一計を案じ、暗殺者の伝手で闇市や魔王軍の裏切り者から仕入れた魔王軍幹部連中の毛髪を利用して、毎日様々な呪詛をかけたのだ。


 例を挙げると「毎朝、足がつる呪い」「タンスの角に足の小指をぶつける呪い」「犬の糞を踏む呪い」「鳥の糞を落とされる呪い」「誰もいない密室で数匹のゴキブリを発見する呪い」「冷蔵庫のめんつゆと麦茶を間違える呪い」etc……


 しょうもないものばかりだが、おぞましい数の呪いをかけることにより魔王をデバフ。

 度重なるストレスでフラフラになった魔王を討ち取り、勇者の務めを果たしたのだ。


 ぶっちゃけ、こっちの方が魔王っぽい。


「……いやそもそも、呪術師だけのせいではないよな。俺にも責任がある」


 そう言って勇者は頭を下げた。

 勇者は正義感と責任感が強い男だった。

 一刻も早く世界に平和を。民に安らぎを。そう思うあまり、修行に打ち込んだ。

 その過程で勇者に選ばれる前から山賊団だの悪逆皇帝だの邪竜だの魔神だのを討ち取る偉業を達成。

 そして、今回晴れて勇者に選ばれた訳だが……


「俺は強くなり過ぎたんだ……」


 この勇者パーティーのメンバーは勇者・呪術師・暗殺者・馬車御者&馬・遊び人、そして旅の途中で拾った転移者の六人だ。

 正直、勇者パーティーというにはバランスが悪すぎる。だが、そのハンデをものともしないほど勇者は強かった。


 正確に相手の隙を突き、クリティカルを連発。

 逃げる相手にも「知ってるか? 勇者からは逃げられない!」と回り込んで容赦なく斬捨て、最終的に魔王軍一個小隊を一人で壊滅するほどに強くなりすぎちまった。


 魔王とのラストバトルも圧勝。「そもそも呪いなくても勝てたんじゃね?」と言うレベルだった。


「いや、それを言うなら暗殺者である私にも責任があるっすよ。四天王含めた最有力幹部を裏から暗殺しましたもん」


 そう言って項垂れる勇者を庇うのは暗殺者だ。

 最年少の幼女でありながら、凄腕の暗殺者である彼女の活躍で魔王軍のみならず、自身を疎む権力者たちの妨害も事前に防ぐことができ、旅をスムーズに進めることができた。


「それを言うなら僕も、急ぎ過ぎたかもしませんねぇ」


 さらに馬車御者がフォローに入る。

 彼は平和を望む勇者の意を汲んで最速で馬車を走らせた。

 馬車の出せる速度を超え、時にコーナーを、時に峠を攻め……

 迷宮・砂漠・氷原・毒の沼……多種多様な難関をドリフト・壁走り・水上走行に空中走行などでひたすら走り抜け、魔王城へと向かう。

 仕舞いには魔王城すら馬車で爆走。先制攻撃とばかりに魔王を「よく来たな、勇者たry」と言い終える前に馬車で跳ね飛ばした。


「ヒンヒンヒヒン、ヒンヒン」


 すると落ち込む主人を庇うように馬が「主よ、己を攻めるな。非は自分にある」と言わんばかりに割り込んできた。

 馬車御者のドライビングテクニックもさることながら、この馬も大概おかしい。

 さらには後方から迫る魔王軍の軍勢を「ここは俺に任せて先に行け!」とばかりに足止めした剛の者……否、馬でもある。

 当然死亡フラグもきっちり圧し折った。


「いや、馬車御者や馬だけの所為じゃない。俺だって調子に乗って現代兵器チートしすぎたんだ……」


 さらにそれを転移者が、自分が悪いと言い出した。

 彼はとあるダンジョンで大した能力を持ってないからと言う理由でクラスメイトから奈落に落とされたところを「ここ抜けると近道!」と馬車を爆走させていた勇者パーティーに救われ、加入。

 以降、覚醒したスキル『取り寄せ』で地球から様々なものを取り寄せ、無双。

 魔王城を攻めるときもミサイルやRPGで魔王軍の戦線を崩壊させた。

 ちなみにクラスメイト達は未だに召喚された国から出てすらいない。

 完全に召喚され損だこれ。


「み、みなさんのせいじゃないですよ! 私だって……あ、なにもしてないや……」


 そう言って一人、違う意味で落ち込むのは遊び人だ。

 以前国王へ「うちのパーティー、魔術使える奴がいないんだけど?」と苦情を言ったところ「じゃあ、コイツ育てて賢者にでもしろ」と数合わせ的に放り込まれたのだ。

 しかし、勇者たちが強すぎるせいで転職の機会を逃して現在に至る。

 みんなが戦う中、一人オセロや一人七並べしてる彼女の後姿は哀愁が漂っていた。


 とにかく、国の指示を無視して討伐を完了したのはまずいだろう。


「……なぁ、呪術師はクビにして、俺たちだけで魔王討伐したって伝えたらいいんじゃないか? 呪術師への報酬は俺が立て替えるからさ」

「無理。既に国に報告済みっす。って言うか、そう簡単な話じゃないっす」


 魔王討伐の功績は隠そうと思って隠せるものではない。

 冒険者ギルドの発行したタグの仕掛けにより、魔王討伐の実績はギルドにも報告済み。

 加えて、勇者はその誠実さを女神から見込まれ、神託を受けて魔王討伐に赴いた。

 これをもみ消した日には国民や同業者だけではなく神からも大顰蹙を買いかねない。


「な、なぁ、魔王って生き返らないのか!? 生き返らせて、今度は呪術師を抜いてもう一回戦うとか」

「無理だよ……魔王ミンチ状態じゃん……それに」

『もう勘弁してください……』

「本人も無理って言ってるし」


 昇天しかけの魔王の魂を見送りながら呪術師は首を横に振る。

 一応、第五形態まで粘ったからワンチャンあるかと期待したが、無理らしい。

 そりゃ「ワシはまだ四回変身を残してる!」と豪語してたのに、変身した瞬間瞬間を一撃で仕留められたのだから、トラウマにもなるだろう。

 そもそも蘇生の奇跡を使える聖女はこのパーティーにはいないし、復活の薬も在庫切れだったりする。


「あ、じゃあ魔王の背後にいる黒幕を呪術師追放して倒せばいいじゃん」

「黒幕!? そんなのいんの!?」


 暗殺者の発言に、全員が驚く。

 なんでも魔王城内に潜入した際に得た情報だそうだ。

 魔王は大魔王という存在の傀儡に過ぎず、今回の侵略も大魔王に命令によるものらしい。


「ちなみにこれが大魔王の写真っす! こいつが黒幕っす!」

「おぉ! じゃあ、呪術師を追放してこいつを倒せば、国も納得してくれるって訳だ!」

「よし、じゃあ、その手で……あれ? こいつ……」


 今後の方針も決まり、安堵しかけた時、勇者が写真をまじまじと見て青ざめる。


「え? 勇者? どうしたんだい?」


 様子のおかしい勇者に呪術師が尋ねると、勇者は気まずげに答えた。




「……ごめん、この大魔王、一ヶ月前に倒してた」

『……マジか』




 どうやら武者修行中、既に討伐してたらしい。

 真のボスすら倒す勇者。さすがに女神から選ばれたことだけはある。



 ……結局、勇者パーティーは正直に事の顛末を報告。

 国王は「うそ……ウチの勇者仕事早すぎ……!」と愕然。

 なお呪術師の追放に関しては一部の貴族の独断だったらしく、丁重に詫びを入れ、正当な報酬を支払った。


 それから暫くして、またしても新たなる魔王が出現。

 今回は流石にゆとりをもって討伐に赴いたのだが……




「呪術師! お前を追放するッ!」

「……だから、それは魔王討伐前に言ってよ」



 ……歴史は繰り返されるのであった。

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