鑑定士ですが追放前に一仕事。
「あ~あ、まさか魔王城目前で追放されるとはなぁ……」
宿屋。荷造りを終えた鑑定士はため息交じりに呟いた。
先日、国王から『鑑定士を追放し、我が国の王子をパーティーに加えよ』と手紙が届いた。
どうやら国王は息子に箔をつけたいらしく、その為に非戦闘職の鑑定士を追放すると言う。
パーティーの誰もが渋い顔をするも、
結局、苦楽を共にした仲間を追い出すことに罪悪感を抱えながら、勇者は追放宣言をくだし、勇者の思いを汲んだ鑑定士は承諾。現在に至る。
「まぁ、潮時だったのかもなぁ。俺、戦力にならないし」
それに自分一人いなくても、彼らなら魔王を倒せるだろう。
念のため、鑑定によって魔王の弱点は把握済み。
聖剣でしか死なないこと。心臓が二個あること。角が魔力の源である他、最近浮気して夫婦間が冷めきっていること。ED、糖尿病、痛風を患っている。卵と花粉アレルギーで、酢の物とニンジン、玉ねぎ、ピーマンが苦手であることetc……
正直、ドン引きするくらい弱点が多かった。
とにかく、魔王の弱点をまとめたリストは既に勇者に渡している。
アイテムの鑑定も既に済んでおり盗賊に引き継いでいるので他にやることはない。
(職探しは……もう少し、ゆっくりしてからでもいいか)
なんだったら、農業でも始めてスローライフを送ろう。
そう考えながら荷造りしていると、誰かが部屋をノックしているのに気がついた。
誰だろうとドアを開けると、そこには神妙な顔をした勇者がいた。
「あれ? 勇者? どうしたの?」
「夜分遅くすまない……実はキミに頼みたいことがあって」
真剣な面持ちの勇者を訝しげに見ながら鑑定士は、話を聞くことにする。
「で、なんだ? 頼みって?」
「……実はキミに鑑定してほしいものがあるんだ」
「鑑定? アイテムか?」
「違う、仲間のステータスだ」
「ステータス? なんかあったのか?」
まさか、だれか呪われたか毒を食らったのか?
最悪の想像が頭をよぎるなか、勇者は重い口を開いた。
「僕に対する女子の好感度を鑑定してくれないだろうか?」
「帰れ、馬鹿勇者」
「ぐはっ!」
あまりにも低レベルな頼みを瞬殺し、鑑定士は勇者を蹴飛ばした。
「ま、待ってくれ! 話を聞いてくれ‼」
「聞くまでもないよ! なんだよ好感度を鑑定してくれって!? 俺はギャルゲーの親友キャラじゃねぇんだよ!」
「僕たち親友だろ!?」
「今、絶交した」
「そこをなんとかぁぁぁぁぁ!!」
ドアを閉めようとする鑑定士に縋りつく勇者。
最初は優勢だったが、戦闘職と非戦闘職の差は大きく、結局、侵入を許してしまった。
「あーもう! なんで俺がお前の好感度を鑑定しなきゃなんないんだよ!?」
「だ、だって、キミは今日で追放で、俺たちはこれから魔王城にカチコミだろ!? それなら最後にみんなの好感度を知っておきたいと思うじゃん!」
「思わねぇよ。そんなん気にする前に、アイテムの確認しとけ、ボケ」
「頼むよぉぉぉぉぉ! 決戦前に告白イベントは済ましときたいんだぁぁぁぁぁ‼」
果たしてこれが本当に勇者なのだろうか? 泣きながら縋りついてくる馬鹿を鬱陶し気に引きはがし鑑定士はため息を吐いた。
(……こんなんが勇者で世界は大丈夫だろうか?)
まぁ、これ以上拒絶しても埒が明かない。
やる気がまったく湧かないながらも、鑑定士は言われた通り勇者の好感度を鑑定する。
【勇者に対する好感度】
・聖女:♡♡
・魔法使い:
・商人:♡
・村のオババ:♡♡♡♡♡
……見なきゃ良かった。
「えー……勇者の好感度は聖女が二、魔法使いがゼロ、商人が一、村のオババが最高の五です」
「マジでWhyッ!?」
ショックのあまりこの世の終わりのような顔をする勇者。
「マジマジ。このままだと告白イベントに現れるのは村のオババです」
「なん……だと……」
勇者は崩れ落ち、絶望の表情を浮かべる。まぁ、これは仕方ないなと思う。
なんせ魔法使いが髪切った時に「今日のあたしどこか違わない?」と聞いてきたのに対して「あ! 少し太った?」とデリカシーの欠片もない返答したくらいだ。
当然、勇者はボコボコにされた。
「はい。じゃあ鑑定終了。帰れ」
「ひどいいいいい! ならせめて、攻略ルートを! どうすればいいか攻略ルートをプリーズ!」
「無理です」
もうラスボス直前なので攻略イベントを起こしようがない。
項垂れ膝をつきOrzの体勢になる勇者を無視し鑑定士は、荷造りを再開する。
と、そこへまた別の人物が尋ねてきた。
「おう、鑑定士。ちょっといいか?」
「あ、盗賊。どうした?」
「あれ? 勇者、どうしたん?」
「気にするな。放っておいてくれ」
部屋に訪れた盗賊を招き入れ「で、要件は?」と聞くと、途端に神妙な面を浮かべ「実は大切な話があるんだ……」と話を切り出した。
「最後になるからな……お前にどうしても頼みたいことがあるんだ……」
――こんな盗賊は今まで見たことなかった。
普段から軽薄で女好き。
女性絡みのトラブルに巻き込まれ、尻拭いをしたのは星の数。
いつもいつも考えてるのはエロいこと。
端的に言えばただのロクでなしのクズ。
そんな彼が真剣な表情を浮かべている。
その迫力に思わず生唾を飲み込む鑑定士に対し、意を決したように盗賊は言った。
「女子のスリーサイズを鑑定してくれ!」
「地獄に落ちろ、馬鹿野郎!」
……やはり、クズはどこまで行ってもクズだった。
「なんでだよぉ~、最後に一仕事やってくれよ~、これを逃したらもうチャンスはねぇんだよぉ~」
「知るかボケ!」
「頼むッ! この通りだ!」
「床でも舐めてろ!」
くだらねぇことに土下座までしてくる盗賊を冷淡な目で睨みつける鑑定士。
もうやだ、コイツ。ほんとなんなの? ばかなの? 死ぬの?
すると、項垂れていた勇者が復活。
「僕からも頼むッ!」
「おい、勇者」
まさかの土下座で頼み込んできた。
もうやだ、こいつら。
「女性陣のスリーサイズ次第で俺は攻略対象を変えざるをえないんだ‼」
「今さら無理だって言ってんだろうが! あとそんなんだからオババがメインヒロインになるんだ」
そのままバッドエンドに直行しろと勇者を切り捨てる。
……とは言え、このままだと、こいつらずっと土下座してそうだし、仕方なく女性陣のスリーサイズを鑑定することにした。
ちなみに、これはあくまで頼まれただけだからであって、自身の好奇心を満たすためではない。
ないったらないのであるッッッ‼
「じゃあ、“ステータス鑑定”」
【スリーサイズ】
・聖女:89・54・90
・魔法使い:73・57・79
・商人:84・60・87
「……と、こんな感じだが」
「「お、おぉ~~~~~~……ッ!」
鑑定結果に感嘆の声を上げる勇者と盗賊。
「やはりダントツは聖女だったか……‼」
「あぁ……! あの乳、あの尻……! まさに天からの宝物と言っていいくらいだもんなぁ……!」
「……それに引き換え魔法使いは」
「まったく、どうしてこんなに貧相なんだ?」
聖女を褒めたたえ、魔法使いをディスる二人に呆れた視線を向ける鑑定士。
本人にバレたら惨たらしく殺されるだろう。
(それにしても商人、意外とスタイルいいんだな……)
まぁ、彼も男の子なので関心がないわけではないが。
とにかくこれで最後の一仕事は終わった。
もうこれ以上、余計な仕事は来ないだろう。
「鑑定士! ちょっといいか!?」
……そう思っていた時期がありました。
「ぶ、武闘家ッ!? どうした急に!?」
「実はお前が出ていく前に鑑定してほしくてな……」
「鑑定してほしいってなにを?」
嫌な予感がする。果てしなく嫌な予感が。
すると武闘家は真顔で鑑定士に言った。
「俺たちの中で誰のちん〇が一番デカ「死ね」まだ言い終わってないだろう!?」
「言わんでも分かるわ!」
なにが悲しくて勇者パーティー最後の日に、野郎の生殖器の測定をせにゃならんのだ!?
「さっさと帰れ。もしくは死ね」と一刀両断するも、納豆かオクラ並みの粘着力で食い下がってきた。
「頼む! この通りだ!」
「なんなんだよ。なにがお前を駆り立てるんだよ!?」
「だって気になるじゃん! 誰のちん〇が一番デカいか!? 男だったら誰だって‼」
「なんねーよ」
なるのは男子高校生くらいだ。
もうあほらしいわ、とそのまま無視する方向の鑑定士だが、そこへまさかの乱入者。
「おもしろい。雌雄を決する時が来たようだな?」
「勇者さま?」
「おうよ! 俺の本気を見せてやるぜ‼」
「盗賊くん!?」
予想外だった。まさか、コイツら同レベルだったとか、予想出来なかったよ。
「ふっ……まさかお前らも想いは一緒だったとはな……」
「おもしれぇ、白黒つけてやろうじゃねぇか!」
「僕の【聖剣】のホントの力を見せてやる‼」
「なに言ってんのお前ら?」
あきれ果てる鑑定士に反してノリノリの三馬鹿は、全員、おもむろにズボンを下げてポロリする。
「おい、コラ! 汚いモノ見せんな」
「さぁ、鑑定士!」
「俺たちの中で誰が!」
「デカい!?」
そう言って、プラプラさせながら迫る三馬鹿。
信じられるだろうか?
こいつら世界を救う勇者なんだぜ?
(あぁ……もう、誰か助けてくれ……‼)
あまりの馬鹿らしさにめまいがしてきた鑑定士。
しかし、神は彼を見捨てなかった。
「ねぇ、鑑定士。お客さんが来てry」
そう言って入ってきたのは、魔法使いだった。
不幸な彼女は部屋の中で下半身丸出しにした三人のバカの粗末なものをバッチリシッカリ見てしまい、硬直してしまう。
そして、少し固まったあと、おもむろに最強装備である伝説の杖+10を取り出すと……
「“
「「「ぎゃああああああああああああああああああああああああ‼」」」
――感情の籠らない冷え切った声で炎系最強魔法を発射した。
「まったく……勇者パーティーの一員ともあろう方が情けない……」
「「「はい、すいません」」」
「大体あなた方はすぐに鑑定士様に下らないことを頼んで、申し訳ないと思わないんですか?」」」
「「「はい、すいません」」」
「いいですか? 今後はもっと己の立場と言うものを考えてください!」
「「「はい、すいません」」」
一時間後、なんとか一命を取りとめた勇者たち三馬鹿は聖女によるお説教フルコースの刑に処されていた。
最早、足がしびれて限界らしく、三人ともプルプルし始めている。
同情はしないが。
「……それで、俺にお客さんっていうのは?」
「あぁ、商人が今、接客してるよ。なんか身分は明かせないらしいけど……」
「待たせているから早くいってあげて」と促され、鑑定士は商人の部屋に向かう。
入ると、そこには商人と一人の青年がいた。
フードを深くかぶり、顔は見えないが気配から只者ではないと感じる。
「あの……どちら様でしょうか?」
「夜分遅く申し訳ない。キミに鑑定をお願いしたい」
恐る恐る尋ねる鑑定士に、目の前の人物はフードを取り、その正体を現した。
「キミに国王を鑑定してもらいたい」
「王子様!?」
そう、目の前の人物はこの度、自分と入れ替えでパーティーに加入する王子であった。
「な、なんでこんなところに!? って言うか、加入は明日だって……」
「奴らの目を掻い潜り、キミに接触するための偽情報だ」
「奴ら!? 奴らって誰よ!?」
そう言って笑う王子に、困惑する鑑定士。
って言うか、王様を鑑定ってどういうこと!?
そして商人、お前なんでドアを閉めてんの!?
なんで自分の体でドアガードして、俺が逃げられないようにしてんの!?
ヤバい。嫌な予感がする。
「わが国は今、嘆いている」
なんか始まった。まずい。もう引き返せない。
「魔王討伐にかこつけた増税、それにより私腹を肥やす貴族たち。善良な民は飢え、悪しき者がはびこり始めている。このままでは魔王を討伐したところで、国は滅んでしまう。そこで、知り合いである商人からキミのことを聞いた」
バッと商人の方を向く鑑定士。露骨に目を逸らす商人。
――間違いない! こいつ、厄介ごとに俺を巻き込みやがった!
ワザとらしく吹けない口笛を鳴らす商人に恨みの籠った視線を向けるも、最早、後戻りはできない。
「キミに鑑定してもらいたいのは王のスキャンダルだ。それを手に入れ、私は国を改革するッ‼」
力強く宣言する王子に気おされる鑑定士。
このままだと、国の暗部に突入させられかねない。
どうしようと考えていると商人が耳元で囁いた。
「騙されたと思って、王子様を鑑定してみ?」
「え?」
なんだろう? まさか王子の弱みを手に入れてそれでこの窮地を打開せよというのだろうか?
言われた通り、鑑定してみる。
王女:91・55・90
……見てはいけないものを真実を知ってしまった。
見れば「公言したら殺すぞ☆」と訴えている王子――王女と「してやったり」とどや顔してる商人の姿があった。ハメやがったコイツ。
知ったらいけないタイプの秘密を教えやがった。
あえて教えたのは、これをネタに揺すっても権力でもみ消させるからだろう。
ついでに自分の存在ももみ消されかねない。
「わが国のために、キミの力を貸してくれ(ニッコリ)」
……最早、逃げ道はなかった。
こうして鑑定士は王子の指示のもと国王を鑑定。
叩けばほこりが出るわ出るわ。
脱税・人身売買・麻薬の違法取引etc……
こいつが魔王なんじゃないかと思ったくらいの悪事の山が暴かれた。
そのスキャンダルを手に革命を起こし、国王は処刑。
王子は玉座に就くや否や自身の素性を暴露。
革命の中心人物であった鑑定士を婿にとり、歴代初の女王として瞬く間に国を建て直したとさ。
ちなみに魔王は勇者が普通に倒したとさ。
めでたしめでたし☆
「それで、いったい誰のちん〇が一番デカかったんだ!?」
「大臣、コイツ処刑してくれ」
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