追放された鍛冶師ですが――!


「なぁ、勇者様よ」

「なんだい、鍛冶師」

「俺、お前のパーティーから追放されたよな?」

「そうだよ」

「もう、俺、必要ないんだよな?」

「あぁ、少なくても僕たちのパーティーにはね」

「うん、そうだよな。そう言ったよな。それじゃあさぁ、ここどこよ?」


 言って鍛冶師は自分の足元……と言うよりいる場所を尋ねる。

 暗闇に覆われ、外には赤い月が昇り、奥の玉座には……


「よく来たな、勇者ども。待ちくたびれたぞ」


 圧倒的強者の貫録を見せつけている人類の敵・魔王の姿があった。


「もう一回、聞くぞ? ここどこよ!?」

「魔王城」

「そうだよな!? 最終目的地だよな!? ラスボスの御前だよな!?」

「言っただろう?『キミはもうパーティーには必要ない』って」

「あぁ、言ったな」

「だからキミの力を必要としている魔王軍に入隊してほしいんだ」

「OK、分かった。一回落ち着こう。……ホント、どういう事!?」


 訳が分からない!

 なんで敵対する勢力に自分を入隊させるのか。

 まったくもって分からない!

 仮にスパイ活動して来いという意味だとしても、魔王の目の前で言ったら意味がないだろう。

 混乱する鍛冶師。

 すると勇者がようやく説明を始める。


「先日、僕たちに女神さまが聖なる武器を与えてくれたのは覚えているかい?」

「覚えてるよ」


 思えば、あの時ほど腹が立った日はなかった。

 自分は勇者たちの武具の整備のため、非戦闘員にも関わらず神殿のお偉いさんから無理やり勇者パーティーに加入させられた。

 しかし、そんな自分の存在意義を奪うかのように女神は勇者たちに聖なる武器を与えたのだ。

 これらは女神の力によって破損も消耗もすることはない。

 まさに鍛冶師を必要としない武器だ。

 おまけに自分にはなにも与えてくれなかった。

 故に鍛冶師は荒れた。

 無理矢理自分をパーティーに入れておいて、用済みだと言わんばかりの仕打ちに耐えきれなかった。

 なので、その日の夜。メンバーの武器にこっそり細工を……


「そう。キミは聖なる武器に細工をした。しかし、それによって一つの真実を得ることができたんだ」


 そう言うと、勇者は聖剣を鞘から抜き柄の部分に取り付けられたスイッチを押した。

 聖剣に取り付けた動画再生機能である。

 勇者に盗撮疑惑を与えるためにつけたそれは、しかし、衝撃的な瞬間を捉えていた。


『クックック、人類と魔族を互いに争わせ、困窮したところに救いの手を差し伸べ、信仰させる……女神殿、お主も悪よのぉ』

『いえいえ、力を餌に魔族を手なずけた邪神様ほどではありませんよ』

「……なぁに、これ?」

「女神と邪神の密会現場だ。一時的に聖剣をお貸しした後に、偶然録画されてた」

「マジか!」

「やつらは、人間たちから信仰心を得るために手を組み、僕たちを苦しめていたんだ!」

「マジか!?」


 まさか、いたずらでつけといた機能がこんな世界の真実を撮影していたなんて、予想外にも程がある!


「え? これ、マジなの!? ドッキリじゃなくて!?」

「そう思い、私も神託を得た時に質問したのですが、そしたら……」


 そう言って聖女が取り出した錫杖が『ブッブー、アウトー』と間抜けな音を鳴らした。

 たしかあれは……


「この『うそ発見器付き錫杖』が嘘判定を鳴らしたのです」

「マジか!」


 それ神にも反応したの!?

 やべぇじゃん! 俺、知らないうちにトンデモネェもん創ってんじゃん!


「これを見て確信した。僕たちは人間と魔族と争っている場合じゃないと」

「その通り! 我々が戦うべき相手は神! 奴らがいる限り我々に自由はない!」


 魔王は玉座から立ち上がり、勇者に向かって歩み寄る。

 そして手を差し出し、勇者もそれに答えた。


「障害は多い! 互いの種族が手を取り合うまで時間はかかるだろう! だが、ここで神々を倒さねば、僕たちはずっと神の奴隷のままだ!」

「未来の為、子孫の為! 我らはここに同盟を結ぶ!」


 ――こうして、人と魔族は一つとなった。


「いや、おかしいだろぉぉぉぉぉ! 完全にこの流れはおかしいだろぉぉぉぉぉぉ!」

「まぁまぁ、これでも飲んで落ち着け」


 すると聖騎士が聖槍の穂先から冷たい麦茶を注いでくれた。

 聖槍に取り付けた【ドリンクバー機能】である。


「いや、お前もなに使いこなしてんの!?」

「ははは、最初は驚いたが慣れると便利でな。近々聖騎士団でも正式採用される予定だ」

「すんな。お前ら、寛容すぎだろ」


 普通、神から授けられたものにしょうもない機能つけたら、ぶち殺されても文句はいえない。

 まぁ、その神もしょうもない連中だったわけだが。


「まぁ、と言う訳で僕たちは同盟を結んだわけだが、ここでキミに頼みがあるんだ!」

「な、なんだよ……」

「鍛冶師、キミを追放する。その代わりに魔王軍で対神兵器の開発責任者として力を振るってほしい!」


 ……これ、追放じゃなくて転属じゃね?


「現在、我々魔王軍では最終戦争に向けて、神殺しの武器を製作中なのだ。だが、一向に開発が進まん。故に貴様の手を借りたい」

「いや、魔王様? 無理ですよ? ボク、普通の鍛冶師ですよ?」

「謙遜するな。聖剣や聖槍といった人類にとってブラックボックスそのものである神の武器に改良を施したのだ。そんな貴重な人材を放置しておくのは惜しい。ぜひ、魔王軍で才を発揮してくれ」


 ――そうだった。普通にしょうもない機能を付けたけど、よくよく考えたら、技術的にもトンデモネェことしてたわ。俺。


「頼む鍛冶師よ! 力を貸してくれ!」


『頭を下げる魔王。魔族の頂点に立つ漢が頭を下げるその姿は、鍛冶師の心を揺るがした』

「ちょっと、狩人さん。聖なる弓に取り付けた『ボイスチェンジャー』でナレーション流さないでください?」

『~~♪』

「ついでに『音楽再生機能』で大陸の情熱的な音楽流すな」


 ここぞとばかりに狩人が場の流れを持っていこうとするのを咎め、鍛冶師ははっきり断ろうとする。だが……


「そんなことを言わないでください! 鍛冶師さん!」

「誰!?」


 いつの間にいたのか、そこには夥しい数の魔族の姿があった。


「俺たちはアンタの技術力にほれ込んだ、魔王軍工兵部隊の者です!」

「あんたの技術力は人類の未来を切り開くものだ!」

「ただの鍛冶師が神をも倒せるところ見せてやろうぜ!」


 職人魂を燃やし、瞳に炎を灯した魔王軍の兵士たちに迫られ、鍛冶師は逃げ場をなくした。

 完全に「NO!」と言える空気ではない。


「鍛冶師よ! 頼む!」「僕からも頼むよ鍛冶師!」「鍛冶師さん!」「鍛冶師!」


 魔王やパーティーの仲間からも迫られる。

 狩人は再びBGMを流すタイミングを見計らっている。喋れや。


 ――結局、鍛冶師は勇者パーティーを追放され、魔王軍にてその腕を振るうこととなる。


 人類に反逆された神々は怒り狂い、その牙を向けてきたが、鍛冶師率いる魔王軍工兵隊の作り上げた対神兵器に討ち取られていく。


 そして、最終決戦にて。

 邪神と融合した女神に苦戦する同盟軍を助けるため、最終兵器『聖魔合体巨人・エクスカイザー・ダークキングSP』を起動。

 魔王と勇者パーティーの乗り込んだエクスカイザーの一撃により、神々との戦いに終止符は打たれたのだった。


『晩年、仲間の狩人と結ばれた鍛冶師はこう語る。『アレ、もう剣じゃないよね?』と……』

「いや、お前が締めるのかよ!?」


 『ちゃんちゃん☆』

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