第419話カフカ
バキッ!
「ぐあっ!」
宮部の攻撃を受けた男が声をあげながらその場にしゃがみ込む。十代目『藻府藻府』の宮部と元『藻府藻府』の忍が先代から徹底的に叩き込まれていた習慣。
『暗闇でのケンカは声を出すな。自分は灯りを持つな』
これを知らずのうちに守る宮部と忍。人は暗闇だとなにかを目印代わりにする。声や灯り。それらを一切断つことで暗闇に自らを溶けこませる。ここは二階であり部屋の窓ガラスから侵入されることの可能性は低い。そう判断した宮部が侵入者を一気に片付けようとドアから外の廊下部分に出る。月の明かりに照らされる侵入者たちの群れ。自分に近い奴から順番に木刀を背負わせていく。そして覚える違和感。「こいつらは弱い。弱すぎる」。「こんな弱すぎる人間を間宮は送り込むか?」。そんなことを考えながら侵入者の一人が持っていたバールを奪い、木刀との二刀流で本気の攻撃を加えていく。
ドスッ!
バールが侵入者の肩にめり込む。
「あがっ!」
「散れえ!」
宮部から遠くにいた男がそう叫び、一斉に侵入者たちがその場から立ち去る。
「んのやろお…。夜襲だとお…。ふざけやがって、クソが…!」
急いで我先にと階段を下りていく男たちの背を見ながら呟く宮部。その後を追う必要はないとも思っていた宮部。部屋には最初に木刀を食らわせた男が残っているはず。そいつを捕まえて喋らせればいい、と。そう思いながらアドレナリンが全開のため気付かなかった裸足のままの自分に気付く宮部。部屋からは忍の威勢のいい声が聞こえる。
「おらあ!」
自分がとどめを刺すまでもないか。そんなことを考えながら部屋に戻ろうとする宮部。
ガチャ―ン。
え?と思う宮部。嫌な胸騒ぎを感じる宮部。ダッシュで部屋に戻り部屋の電気を点ける宮部。眼前には木刀でバールを持った男をのした忍の姿と割れた『いいやま』のパソコン用ディスプレイ。
「おらああああああああああああ!てんめええええええええええええええええ!」
光の速さで忍の胸倉を掴んで叫ぶ宮部。
「これ割ったのてめえかああああああああああああああ!?」
「いや…、俺じゃない。こいつのバールが…」
忍の言葉が終わらないうちにのびている男の胸倉を掴んで立たせる宮部。
「おらあ!てめええええええ!死んだぞ!この野郎!俺の命の次に大事な『いいやま』二十七インチディスプレイをオシャカにしやがってええええええええええ!弁償しろやああ!中古じゃねえぞ!新品でだあ!七万九千八百円だぞ!この野郎!」
怒りで中古で買ったことも、実は五万円で買ったことも棚上げして無茶を言う宮部。
パンパンパンパン!
伸びている男の両の頬を渾身の往復ビンタで目覚めさせる。
「ひっ!ひいいいいい!」
「ひいいいい!じゃねえ!てめえ!てめえにはすべて喋ってもらうからなあ!そして全部弁償させてやる!金がねえじゃねえぞぉ!誰のパソコンモニターを割っちゃってくれてんだああ!?ああ?」
「え、いや…、俺はなにも…」
男がそう言いかけた瞬間、忍が男の脳天に渾身の木刀を振り下ろす。
バキッ!
またも意識を失う男。
「おい!なにやってんだよ」
「いや…、そいつがポケットからなんか出そうとしてたからよお…。まあまあ。こいつのツラは見たことがねえ。新入りかなんかだろ。こいつにはいろいろと喋ってもらわねえと」
まさか自分が割ってしまったパソコンモニターのことでここまで宮部がキレるとは思っていなかった忍。と、同時に、「い、言えねえ…」とも思う忍。なんとか宮部を落ち着かせる忍。そして水に濡らしたタオルを男の顔に乗せ、無理やり男の意識を戻す宮部。
「がはっ!ごはっ!」
そこから尋問が始まる。
「おらあ。てめえ、誰の部屋にカチコミかけてんのか分かってんのか。死んだぞ」
「…すいませんでした」
「そういうのはいいからよ。聞かれたことにだけ馬鹿みたいに答えろや。誰に頼まれた」
「…『カフカ』です」
「舐めてんじゃねーぞ!」
男の言葉を聞いた宮部が男のわき腹にトゥーキックをめり込ませる。裸足の宮部は足でも拳が握れる。
「ぐわあっ!」
「ぐわっじゃねえよ」
「ホントなんです!本名は知らないんです!指示役の人の名前は『カフカ』って呼んでるんです!」
「ああん?『カフカ』だあ?指示役だ?てめえ…」
「はい…」
ここで忍が会話に入る。
「ちょっと待て。こいつはあれだろ。闇バイトで集められた奴だ。そうだろ?」
「はい…」
「ちっ、闇バイトだとお…。舐めやがって…。そうかよ。だったら話は早え。その『カフカ』ってのに全部弁償してもらおうか。俺様を舐めたことをきっちり泣いて後悔させてやんよ」
『いいやま』のディスプレイを割られた宮部の怒りが男をお喋りにさせる。
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