第393話『ラッキースケベを検証してみた!!』
「あーいてえ。まいったね。こりゃ…」
嫌な汗を感じながら義経が呟く。
「あ?兄弟揃ってこんなヘタレとはなあ。『たぴおか』を義正に任せたのはやっぱり間違ってた。半グレごときに事務所襲われてのんびりベッドの上で寝てりゃあなあ。それでメシが食えるってか」
「そのヘタレのすねかじりで遊んでたのがおめえだろ。いいご身分だな。そんな人間が後からしゃしゃって文句垂れてんじゃねえよ」
義経が血の流れ出す左手の甲を抑えながら応える。激痛と共に熱さを感じる。刃物での傷は痛みと同時に熱を感じる。小指から順番に動きを確認する。掴めるか。左手は使いモノにならなそうだと判断する義経。
「もう一回言ってやるよ。俺はメンツでメシ食ってんだ。それをこんな無様許してりゃあメシ食えなくなんだよお!」
「正兄ぃがよく言ってたよ。ケンカがつええとか、そういうのが通用するのは学生までだってな。あんたぁ、時代錯誤もいいとこじゃね。そんなだから経営から外されんだよ」
「黙れ!ガキぃ!」
真木が近くにあったクリスタルの灰皿を右手で掴む。庇っていた左手から右手を離し、構える。今の義経は手負い。投げ技は使えないと判断した真木がスピードを上げる。重いクリスタルの灰皿を軽々と扱いながら強烈な右フックを放つ。折れた人差し指を使わないと同時に守る。クリスタルの灰皿をボクシングのグローブのように使う。義経が真木の大きな動きをしっかりと見ながら右フックをかわす。そしてカウンターのように左手を合わせる。裏拳。義経が狙っていたのは使えない左手でのカウンターではない。
「ちっ!」
義経の左手から血が飛ぶ。裏拳での遠心力で放たれた鮮血が真木の顔面へ飛ぶ。
(たなりんよお。おめえの「技」ぁ、使わせてもらったぜ…)
田島公園でたなりんが三原相手に使った『ポン酢水鉄砲』の応用。己の血を使った目潰し。思わず攻撃の手を止めて目に入った血を拭おうとする真木目掛けて、裏拳の反動を利用した回し蹴りを繰り出す義経。斜め上から体重をかけた左足裏で真木の膝を打ち抜く。さらに右足を続けざまに真木の後頭部へと叩き込む。力の入っていない状態で膝へ負荷をかけられると膝は壊れる。意識が目にいっている真木の無防備な膝を狙った義経。そして後頭部へと大技二発。それでも倒れない真木。視力が戻るまで数秒から十数秒はかかる。ここから春麗ばりの脚技コンボを義経が繰り出す。
「たなりん君検事」
「はい!田所さん裁判長。どうぞなり」
「ところで先ほど出た言葉の『ラッキースケベ』とはどういう意味でしょうか?」
「質問の趣旨がよく分からないなりけど…」
「いや、おやじの教えで『ラッキー千石』は知ってますが。それと似たようなもんでしょうか?」
「田所さん。『ラッキースケベ』と言うのはですね…」
「宮部っち被告。発言を許可するなり」
「あ…(んだよ…。めんどくせえなあ…)」
「宮部っち被告。『ラッキースケベ』についてどうぞ」
「『ラッキースケベ』ってのは言葉通りたまたま偶然にエロいことに遭遇することっすよ」
「なるほど。それじゃあポケットティッシュを二個貰うのは?」
「いや、それは『ラッキースケベ』ではなく単なるラッキーでしょう」
「テレビで相撲を見てたら力士さんのケツがたまたまアップになることはどうでしょう?」
「いや…、それって嬉しいですか?」
「まあ、女性の立場からですよ。お相撲大好きガールが推しの力士のケツがアップで映れば嬉しいかなあって…」
「まあ判断の難しいとこですね」
「プールで泳いでたら前の女性が平泳ぎをしていてそれをついつい泳ぎながら顔を上げて見るのはラッキースケベでしょうか?」
「それはラッキーですが迷惑行為です。捕まりますよ」
「ヘルスで本番が出来たとかですかね?」
「それは…ラッキーですがそもそも最初からスケベ目的ですからちょっと趣旨が違いますね」
「うーん。難しいですね」
「そうですか?たなりん検事。理想のラッキースケベについて語ってもらえますか」
「そうなりねえ。水筒やバックの紐が巨乳に食い込んでるのはラッキースケベなりねえ」
「そうそう。それな」
神内組長ではなく若い二人から教わる田所。当然メモを取る。
「ちょっと待ってください。えーと、『すいとうやばっくのひもが…』」
「突然の大雨でびしょ濡れになった女の子がコンビニとかに雨宿りで飛び込んできて、制服が透けて下着が見えるのもラッキースケベなりねえ」
「ああ、いいねえ」
「ちょっと待ってくださいね。『おおあめでびしょぬれになった…』」
メモを取る田所を尻目にたなりんがガンガン飛ばす。
「足を伸ばしたまま靴下を直そうとしておパンツが見えるのはラッキースケベなりねえ」
「あるある」
一方その頃。
「これ見て!みんなー!」
「どうしたんですか?彩音さん」
「推しの舞の山力士のケツアップ動画を編集して総集編を作ってみたんだけどさあ」
「彩音さん。好きですねえ。相撲」
「ばーかやろーお!まわし姿はじゃぺんオンリーの文化だぞ!」
神宮司彩音は推しの力士である舞の山力士のケツアップ動画でさかっていた。
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