第391話こらこら
沈黙を破って関谷が口を開く。
「狭山さんでしたね。うちの近藤によお言うときます。狭山さんにキツう怒られましたって」
「わしが怒って問題解決するんならいくらでも怒ったるわい。そうやないやろ」
「おじき。すいません。きちっとさせますんで」
「ほお。『きちっと』ねえ」
「伊勢」
「そちらの伊勢さんもあんまり問題を重ぅ考えてねえみたいなんで。関谷さん。改めて言いましょう。この街の堅気の女の子が自分らどヤクザを見るより半グレの名前聞く方が恐怖感じてるんです」
「そりゃあ主観の話でしょうが。怖い映画を見たから夜トイレに行くのが怖いってなあ。じゃあハナから見るなって話とちゃいますか」
「関谷さん。そっちの新しいカシラですか。どうも想像力がないようで」
「ああ?そりゃあ俺に言ってんのかい?住友さんよお」
「言ってんじゃねえよ。ケンカ売ってんだよ。ボケがあ」
住友が伊勢へ視線を送りながらテーブルを拳で叩く。
「おやじ。もうええでしょ」
住友の睨みを真っ向から受けながら伊勢が言う。
「まあ待てよ。伊勢ぇ。住友さんもすんません。今日は揉めに来たわけじゃありません。伊勢もごちゃごちゃ言うてんな」
「それで」
「半グレの間宮のことはこっちで処理します」
「『します』じゃねえよ。そっちがやらねえならウチがやる。その時は関谷さん、そちらのシマにウチが入りますが筋は通したってことで」
住友のブラフ。『逆盗撮』の件が片付かない限り『肉球会』も動けないのが現実。そのカギを握る世良兄も今は病院。
「こりゃあ言い方が悪かったな。『処理してる』と言えば正解だ」
「間宮は『血湯血湯会』さん、そっちでカタぁつける。そういうことでいいですね」
「ああ」
「それじゃあその金はそれがカタぁつくまで保留ってことで。それでいいですね。関谷さん」
「…ああ。じゃあそういうことで」
狭山の店からシマへ車で戻る関谷。スマホを取り出し電話をかける。相手は間宮。数コールで間宮が電話に出る。
「俺や」
「はい。大丈夫っすよ」
「おめえが言うた通りやった。金は受け取らんかった」
「へえ、さすがっすね。まあ『組チューバー』が当たればって夢見てんでしょう」
「ん?なんだその『組チューバー』って。ウチの相談役も同じこと言うてたが」
「『肉球会』さんはヤーさんの新しいシノギとしてユーチューブで真っ当にってね。自前でユーチューバーを育ててるんすよ。だから『組チューバー』だそうで」
「なんやそりゃ。本気か。それともそんなにユーチューバーってのは儲かるんかい」
「当たりゃあデカいんじゃないすか。今のガキどものなりたい職業ナンバーワンがユーチューバーですからね。見てる分には簡単そうですが芸能の世界よりシビアっすよ。それにユーチューブってのは先がねえコンテンツっすよ。今はかったるい広告やCMをブロックするアプリも多いっす。そういうのが充実してくれば趣味のブログと同じになるんじゃないすか。見たい奴だけが見るってね」
「どヤクザがユーチューバーをねえ…。まあええ。それよりおめえや。あちらさんもやっぱりおめえを潰せとな」
「堅気のガキ一人に拘るんですねえ」
「これだけヤーさん転がしてきてよお言う」
「『模索模索』の看板は必要ねえんでそれでも差し出しときますか」
「そんなことしても意味ねえ。それより…」
「『土名琉度組』のシマに入って暴れりゃあいいんすよね」
「そういうこっちゃ。あそこはオモロイで」
「みたいですねえ」
間宮の次のターゲットが決まる。『土名琉度組』のシマ。
宮部っち裁判が続く宮部の部屋。
「これは…、なり」
「もういいだろうよお」
「田所さん裁判長!押し入れの壁をなり。自前の『カレンダー』なり!」
宮部の部屋の押し入れの壁にはプリンターでプリントアウトした自前の二次元美少女カレンダーが。
「カレンダーを自前で…」
「コミケも毎回は行けねえだろ。『しゅるが屋』で買うにしても高いし、お気に入りに入れててもライバルに取られて買えないってよくあるだろ」
「それなり!『しゅるが屋』の通販カートにキープしても早い者勝ちなり。今は百均やプリンターで安く自前で作るのも手段の一つなりね。ネットではカレンダーを自分でデザインできるサイトも増えているなりよ。それを利用して上手にやり繰りしてるなりよ。同じようにラミネート加工でペラペラにして画鋲で壁に刺してるなりよ」
「ラミネートだと上からマジックで書けるだろ」
「ふおおおおおおお!工夫なり!オタクの経済事情に優しい工夫なりよ!」
「こらこら!特攻服にシールを貼るのはやめろおおおおおおおおお!」
興奮して自前の二次元美少女エチエチシールを『藻府藻府』の特攻服にペタペタと貼り付けるたなりんと田所を怒る宮部であった。
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