第385話ベルクソン味覚
タバコを吸いながら関谷が電話をかける。相手は『血湯血湯会』本家相談役の近藤。数コールで近藤が出る。
「お。関谷か。今どこにおる。あれからずっと連絡を待っとったんやが」
「すいません。ちょっといろいろありまして」
「いろいろ?」
「ええ。いろいろです」
「それで」
「今回の一件ですがすべて分かりました。今お時間大丈夫でしょうか?」
「構わん」
「すいませんでした。今回の一件の半分は『肉球会』の住友の言う通りでした」
「半分?どういうことや」
「ええ。今回の一件の絵はすべて小泉が描いていたってことでした」
「小泉が?」
「はい。すいません。これもすべて自分の管理不足が招いたことです。ケジメはしっかりうけますんで」
「おいおい。今時エンコなんぞ詰められてもケジメにはならんぞ。ケジメはええ。まずはしっかり分かるように説明せえ」
「はい。小泉には俺の存在が邪魔だったようです」
「欲が出たんか」
「はい。組のかしらと言っても名ばかりで跡目はしばらく回ってこねえ。下手したらそのまま舎弟に直されて跡目がなくなると考えたようでして。組に内緒でご法度の薬に手を出していたことも事実でした」
「あの間宮って言うたか。話に出てた半グレの」
「いえ。そこです。話が違った部分は。小泉の羽振りが随分とよくなったと思った時にもっと早く対応すべきでした。小泉は俺を通さず『蜜気魔薄組』に外部干渉してました。あそこが面倒見てます半グレです。そこのリーダー格なのが間宮です。小泉は間宮に金を稼ぐ才能があるのに気付きました。そして結構な額の上納を要求してました」
「それは筋が通らんやろ。お前んところは若林からキッチリとそれなりの上納を受け取ってたんやろう」
「はい。そこです。二重取りですね。小泉の」
「ちょっと待て。そんな話は通らんやろ。いくら下部団体とはいえ月々の上納を入れてさらに個人的に持ってこいではいくら若林でも突っぱねるやろ」
「はい。そこです。一見二重取りに見えますが小泉が寄生してたのは若林の子飼いの半グレにです。『蜜気魔薄組』にではありません」
「なるほどなあ…」
「そして間宮ってのは小泉からの要求がどんどん大きくなっていき」
「それで」
「はい。そこでボタンの掛け違いと言いますか。間宮は本来なら相談すべき若林にではなく小泉に相談にいったそうです」
「相談?」
「はい。今のままではこれ以上は無理です、と。その時に小泉が暴走しました。若林んところに入れてるのも俺に持って来ればいいと。邪魔になるなら自分が若林を消してやる。伊勢は自分の子飼いやからと」
「てことは…」
「はい。若林殺しのホンボシは小泉だったってことです」
「ちょっと待て。それは誰から聞いた?」
「小泉本人からです」
「なにぃ?」
「ここで俺が無様に小泉の罠に嵌まりまして」
「もしかしてやが…」
「はい。奴に拉致られて殺されかけました」
「それでお前が電話してきてるってことは。小泉がそこにおるんやな」
「はい」
「殺ったんか」
「はい」
「拉致られたってことはそれを見てた人間は他にもおるんやな」
「はい。と言っても伊勢とウチが面倒見てます半グレのリーダー格が一人だけです」
「そうか」
「ええ。それで今回の件はみっともなくて表に出せません。小泉は突然死ってことで診断書作らせます。病死ってことでいいですね」
「それはお前んとこの内輪揉めやから任すが…。そうか。間宮ってのはいねえのか」
「間宮ですか?途中で逃げましたね。銭集めの才能はあったようですが所詮は半グレです。怖くなったんでしょう」
「そっちから漏れることはないんやな」
「それも俺の方から圧をかけておきます。絶対です」
「分かった」
「ただ小泉が禁止されている薬物等での商いを行っていたのは事実です。そこは俺がしっかりとケジメをうけます」
「それは今はええ。第一それを馬鹿正直に報告してもお前の立場が悪うなるだけやろ。下手したら病死も他殺の疑いをかけられるわ」
「しかし…」
「ええから。今どこにおる。すぐに戻れるか」
「はい。かなり遠くまで運ばれましたがすぐに戻りますんで」
「迎えはいるか?」
「いえ。気持ちの整理もありますんで」
「分かった」
そして電話を切る関谷。
「これでええか?お前らのつつかれるいてえところは全部この小泉に被ってもろうた」
「上出来っすよ。関谷さん。あとさっき『ベルクソン味覚』の話をしたけど。あれはやっぱねえわ。不味いおにぎりは誰と食っても不味いっすわ。小泉さんとのお勉強ってやつっすね」
そう言って間宮がタバコを咥える。慈道が予備のライターを差し出す。
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