第361話へいたくしー
「関谷さん。ちょっと待ってください」
伊勢が関谷を止めに入る。
「あ?お前はこいつの次や。きっちりやったるからおとなしゅう待っとけや」
怒りを押し殺しながらドスの効いた声で言う関谷。
「そうじゃありません。ここでやられるとまずいんです」
「ああ?掃除屋ぐらいすぐに呼べるぞ」
「それは『身二舞鵜須組』さんならですよね。ウチはそんな生々しいもんは抱えておりませんので。呼ぶにしても時間がかかります。せめて山でも海でもいいんで場所だけは変えてください。あとは関谷さんの言う通りにウチも協力しますんで」
「そうか…。じゃあウチのシマまでご足労願おうか。ガキ。寿命がちぃとながなったのお」
そう言って間宮へ向かって「よこせ」と言わんばかりに手を差し出す関谷。それに応じて黙って手に持っていたドスの刃の部分を持って握る部分を関谷へ差し出す間宮。
「おい兄ちゃん。それは間違いや。俺に気を遣ってそうしてるんやろうけどそれじゃああかん。五十点もやれん」
「…それじゃあ正解が分かりませんので百点のやり方を教えて貰えませんでしょうか?」
「兄ちゃんの渡し方やと兄ちゃんはドスをしっかり握っとらんやろ。その持ち方やと落としてまう可能性もあるやろ。ボールペンやろうとリレーのバトンやろうとしっかりと握って相手に渡さんと落としてしまうこともあるやろ」
「…確かに。関谷さんのおっしゃる通りですね…」
そう言ってドスの刃の部分を右手でしっかりと握り締める間宮。
「そうやそうや。それなら落とさんわな。やろ。百点や。満点の渡し方や。ほな」
そう言ってドスの柄の部分を握って思い切り手前に引っ張る関谷。「うっ」という間宮の声と共に間宮の右手から血が流れる。それを見ながら関谷が言う。
「あかんわあ。兄ちゃん。それじゃあ減点や。一本も切り落とせてないがな。やっぱ安もんはこれやからなあ」
「すいません…」
右手を庇いながら間宮が謝る。
「ええから。こんなんで謝ってたらこれからもたんで。ウチにはよお切れるんがあるから」
「おい。車回してこい」
「伊勢。お前は信用ならん。お前の車に爆弾が仕掛けられててもお前を疑う。それほどなんや。車はウチで用意しとる」
「…分かりました」
「他のをぞろぞろ連れてこんでええぞ。伊勢と間宮。二人でええ」
「分かりました。お前ら!関谷さんの言う通りにせえ!あとぉ!今日のこと!ウチの事務所には誰も来てない。何もなかった。お前らも何も見てない。ええな!」
「はい!」
「これでよろしいでしょうか。関谷さん」
「ふん。お前は信用がねえと言ってるだろうが。お前らがチョロチョロ動いたとしても全部俺がなかったことに出来る。ただ俺の反目に回った人間はとことんやったるのが俺のやり方や。そうやって今の今までやってきた。それが『身二舞鵜須組』関谷や」
「はい!」
そして間宮と伊勢を連れてビルの外へと出る関谷。間宮は右手の血を隠すためにポケットへ手を突っ込んでいる。
「兄ちゃん賢いなぁ。そうや。下手な真似しても現実では通用せん。黙って俺にバカみてえについて来ればええ。伊勢もや」
そしてタクシーを拾う関谷。すぐに止まるタクシー。
「おう。伊勢は前に乗れ。兄ちゃんはわしと後ろや」
そしてタクシーの運転手にも指示を出す関谷。
「ご苦労さん。近くて悪いが〇〇駅の〇〇ホテルまで行ってくれるか。分かるな」
「かしこまりました」
そして走り出すタクシー。ホテルには近藤もいる。テカもいる。車もある。そこから伊勢と間宮を『身二舞鵜須組』のシマへ運んで好きにすればいい。関谷はそう考えていた。そして異変に気付く関谷。
「おい」
「はい?」
「運ちゃん、ちと遠回りしとらんか。ナビ見てりゃあ俺でも分かる。地元じゃねえけど土地勘はあるで」
「いえ。お客さんのおっしゃった○○駅の○○ホテルへ向かってます」
「そうか。だったらええんやが」
そして高速に乗るタクシー。
「おい!なんで高速乗っ取んじゃ!」
そこで間宮と伊勢が車内で初めて口を開ける。
「関谷さーん。甘すぎっすよ。こいつはこっち側なんで」
タクシーの運転手は間宮の飼い犬の一人であった。
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