第341話自己資金ゼロで始められる詐欺

(飯塚ちゃん。いいんですか?『組チューバー』といってもまだ一本の動画も上げてませんし、チャンネル自体まだ開設してないですよ)


(いいんです。まずたなりんには面白いアイデアが、宮部っちには『藻府藻府』というおもしろコンテンツがあります。そして二人ともオタクというキラーコンテンツを持ってます。ほら。たなりんにしてもごついパソコン持ってますよね。宮部っちも同じくごっついの持ってますから。撮影も出来るし下手に人を雇うより育てる手間もかからず手っ取り早いですから)


(それは…、遠回しにまったくの素人だった自分をディスってないっすか?)


(ディスってません!あの二人が素晴らしいっていうことです!)


「いや、でもまだ『組チューバー』はチャンネルも開設してませんし。金が入ってくるようになればでいいですよ。その時は『暖簾分け』って形で『族チューバー』をやりたいと思ってますし。自分にとっては『組チューバー』が成功した方がなにかと都合がいいんですよね」


「宮部っち!」


「んだよ。たなりん」


「せっかく『給料を払う』といってくれてるなりよ。宮部っちは『いりゅーじゃん』に就職したとして、『自分が作ったゲームが売れるまで給料はいいなりよ』というなりか!?」


「まあ、その理屈は分かるけど…飯塚さん。そんなに余裕あるんですか?」


「とりあえず『組チューバー』の自己資金は一千万円。そこからスタートしてるんで。当然二人のお給料も当分そこから持ち出しになりますが」


「飯塚さん。二人に月二十万払ったとして。二十×二×十二は四百八十ですよ。『組チューバー』の自己資金っていっても他にも使う経費とか考えると収入がないと二年もたないですよ」


 おふ…。厳しい現実…と思う飯塚。と、同時に、いやいや、二人ではなく『四人』だからね。俺も一念発起で会社辞めたけど自分の給料出てないよー!とも思う飯塚。でも、その方がケツに火が点いて逆にいいかもなあとも思う飯塚。


「でもそれだけあれば『ホビーショップ』とか『グッズ専門店』とかネットでやれるなりでは…」


「たなりん君。『ホビーショップ』ではモテませんよ」


「そ、そうなりか…。はいなり!」


「はい。たなりん君」


「『なけなしの一千万でユーチューバーに挑戦してみた。ダメなら即人生終了してみた!』はどうなり?」


 たなりんくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん。今、まさにその状態なんだよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉと思う飯塚。と、同時に、『オタクと反社の融合』…、面白そうだよなあ…、なにかアイデア出そうだよなあ…、さっきの7・3パンチパーマの田所のあんさんがVRエロゲでああいう素のリアクションとか受けると思うんだけどなあ…と思う飯塚。




「ほらよ。こうやって『会員保証書』まで出してやればまあ信用する」


 そう言って世良兄がプリントアウトした紙を手に取り、それを忍へ差し出す。それを受け取ってまじまじと眺める忍。


「株式会社アーカイブ人材部?」


 住所とフリーダイヤルの電話番号まで記入された『会員保証書』。


『〇〇殿


 あなたは弊社の会員様であることを認定し、サポートさせていただくことを保証致します


      保証番号〇〇〇〇―〇〇〇〇〇―〇〇〇―〇〇〇〇


      株式会社アーカイブ


        東京都渋谷区渋谷〇―〇〇―〇―○○ビル〇階


        フリーダイヤル 0120―〇〇〇―〇〇〇』


「ああ。これは一石二鳥で効率のいい詐欺だ。まず二枚目の『保証内容確認書』を読んでみろ」


 世良兄に言われて二枚目の用紙に目を通す忍。タバコを咥えたまま世良兄が続ける。


「甲はウチで乙はカモを指す。そしてこれが肝。1の『甲は乙に対し、乙に収入が無かった場合に関して、甲は乙に対し役務提供料を契約内容に対し払い戻しの対応を行うものとする』とある。どういう意味か分かるか」


「在宅ワーク詐欺だろ。儲かるっていってホームページを持たせて商品を売らせると言って実際には売れるわけがない。で、最初に積んだ金を返せとなる。でも迷ってるカモはこの契約書の一文があれば売り上げ保証を意味するとなって大金払うよな…。預り金の一部を返すってことっすか?」


「返すわけねえだろ。馬鹿かお前は。よく読め。収入が無かったイコールゼロってことだ」


「あ!」


「そうだ。十円でも売り上げが発生すれば無収入にはならん。収入が多い少ないは個人の頑張り次第だろ」


「そっかあ…」


「後の項目は『甲は乙に対して全面的にサポートする』とか『アドバイスをする』とか『二度目の金銭請求はしない』とか無難なことばかりだ」


「これが『一石二鳥』ってのは」


「ああ。これはこの詐欺に出資する人間も騙す。これは自己資金ゼロでやれる詐欺なんだよ」


 世良兄が遠い目で昔に骨までしゃぶりつくしてやった弱者たちの顔を思い出す。

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