第332話『組チューバー』!第一回チキチキ!

「世良ぁ…。んの野郎ぉ…」


 グループライン「『真・七つ目の大罪』の会」の規律を乱す行為(許可なく勝手な先走り)に怒りの言葉を口にする宮部。


「ああ。義経君に先越されちゃったねえ。どうしよ?」


 世良兄から「くれぐれも弟のことを頼みます」と言われている飯塚。「おお。なんだかんだで田島公園の一件から義経君はこっち側に来てるよー。あとは宮部っちと仲良くなってくれれば。たなりんとはマブダチみたいだしー。めでたしーめでたしーだよねー」と思う飯塚。


「あ、もしもしなり。つねりんなりか」


 うお!知らない間にたなりんが義経君に電話してるよ!と驚く飯塚。宮部も驚く。ついでに田所も驚くふりをする。


「(おお!)」


 そして宮部がなんとか会話を聞こうと田所と飯塚に「(しーっ!しーっ!)」とジェスチャー付きの小声で周りを静かにさせる。しかしたなりんも大事にスマホを耳にあてながら聞かれないよう喋る。


「あ、大丈夫なりよ。今は飯塚さんと宮部っちと…」


「(たなりん!田所さんはたなりんの長兄である僕の兄貴分だから…、えーと、あれ?兄貴の兄貴は何と呼ぶんでしたっけ?)」


「(飯塚ちゃん。兄貴の兄貴は兄貴ですよ。自分が健司の兄貴でカシラや補佐も自分の兄貴ですから。健司の兄貴でもありますよね)」


 そうだった!何をテンパっているんだ!と思う飯塚。


「(え?えーと…、『おじさん』じゃねえの?)」


 宮部っち!話を聞いてるのかああああ!『おじさん』はおやじの兄弟分のことだよー!と心で叫ぶ飯塚。


「あ、あとは『おじさん』っといっしょなりよ」


 ああ…。田所のあんさんが『おじさん』扱いだよ…。まだ二十代前半なのに…、と思う飯塚。ガーン…となる田所。あれ?違いました?と思う宮部。


「それよりつねりんは彩音ちゃんからラインでも『君付け』なりよね?たなりんも同じく『君付け』でござるよね。飯塚さんは年長者だからいいなりとして。宮部っちだけが何故彩音ちゃんに『さん付け』なのか疑問に思わないでござるか?」


 それをあの義経君に聞きますかあ!と思う飯塚。そして。


「なりよねえー。たなりんもつねりんとまったく同じ意見なり」


 義経君はなんて言ってるんだろう?と思う飯塚。


「ふんふん。なりよねえ…。だから今もコンコンとお説教をかましてたなり。ふんふん。なりなり」


 うわー、意気投合してるよー。まあ、義経君は『リア充』っていうか。女に不自由してるように見えないし。そもそも趣味が合うし、そんなにガツガツしてないよね。あ、でもあんなライトなメッセージを彩音ちゃんに速攻で送るところを見るとやり手なのか?と思う飯塚。


「そうなり。今はたなりんのことを『たなりんさん』と呼ばせてるなりよ。ちょっと待つなり」


 そう言ってスマホを耳から離しながらたなりんが言う。


「宮部っち。たなりんの名前を呼んでみるなり。呼び捨てでいいなりよ」


「たなりん…さん…」


「あれ?二人いるなりか?さんさんって人がいるなりか?さんさーん。何をたなりん、で一回止めてるなり。ナチュラルに言えないなりか。そうなりか…。リア充は譲らないなりねえ…」


「わーったよー。たなりんさん!」


 そして急いでスマホを耳に当てるたなりん。


「あ、つねりん?聞こえたなりか?そうそう。お行儀の悪い末弟を持つと苦労するなりよ」


「(飯塚さん…。これ、ちょっと調子に乗り過ぎですよね…)」


「(いいから!器だよ!器!宮部っちの器が問われる場面!)」


 釈然としない宮部ととにかく義経友好安保条約を結ぶために尽力したい飯塚。


「ああそうなりね。。ふふふ…。つねりん、お主も悪よのお…なり。ふぁふぁふぁふぁ…。じゃあまたなりね」


 そして電話を切るたなりん。


「どうだった?何話してたの?」


「それは…プライベートなり」


「たなりん『さん』。ここはみんなの前でいいましょうよ。たなりん『さん』」


「ほう。宮部っちも分かってきたなりね。それでは少しだけヒントなりね。つねりんはたなりんの幸福に全力でアシストを約束してくれたなりよ」


「え?アシスト?それって彩音ちゃんのこと?」


「それは言えないなりよー。たなりんの部屋で鑑賞会をするだなんて口が裂けても言えないでござるよー」


「え?」


 驚く飯塚。


「たなりんの部屋で?」


 驚く宮部。


「イエス!イエス!イエス!オーマイゴッ」


 おやじの教え通り『オラオラですかーっ』の続きを右手で顔を覆いながら呟く田所。そして。


「こうなりゃたなりんの部屋に一回行きましょうよ!」


 と宮部。


「あ、それいいね。いつも打ち合わせってことで俺の部屋にばっかだし。たまには『みんな』の部屋へ遊びに行くのもいいねえ」


「えええええ。自分の部屋は何もないですよー」


「あ、田所のあんさんの部屋は前に行きましたからいいです」


「あ、そうですか。無駄無駄ですか?ドットコムですか?」


 もう慣れた田所の言葉を放置し、宮部、たなりんと盛り上がる飯塚。


「いいっすねえ。たなりんの部屋巡り。お宝ありそうですもんね」


「いや。宮部っちの部屋も行くよ」


「マジっすか…」


「いいじゃーん。みんながどんな環境ですちーるをプレイしてるとか知りたいしー。こっそりお宝隠してるかもだしー。なんならお宝持ち寄ってトレード会もいいよねえ」


「あ、じゃあ自分は『優しさ』を持ち寄りますよ」


「田所のあんさん本気で来るんですか?何も楽しいことなんかないと思いますけど…」


 そういうわけで『組チューバー』!第一回チキチキ!お部屋巡り!突撃!オタクのおかずちぇーっく!が開催されることとなった。目的はあくまでも彩音ちゃんが来る前にお部屋を綺麗にしとこうね!との目的で。



 家賃十七万円の新築マンション。オートロックに宅配ボックス付きの広い1DK。世良兄の自宅である。自ら車を運転し帰宅。駐車場に車を停め、ポストをチェックし、七階にある部屋。徒歩三十秒のコンビニで購入した弁当をレンジに突っ込み、タバコを咥え、それに火を点ける。そして咥えタバコでバスルームへ向かう。外から沸かした湯船に浸かりながらタバコを吸う。頭の中は空っぽにする。それが大事。自宅では何も考えずに時間を過ごす。シャワーで頭を洗い、体中をボディソープで泡だらけにする。バスルームに備え付けてある防水シガーケースからタバコを取り出し二本目に火を点ける。バスルームでも顔と頭を洗っている時以外はタバコを吸う。灰皿もきっちり置いてある。ヤニ臭くならないよう一回毎に灰皿は綺麗に洗う。風呂からあがると自動乾燥機でパリパリになったバスタオルで体を拭いてやる。そしてドライヤーの風を頭にあてる。しっかりと『温風』と『冷風』を使う。その間もタバコは絶やさない。キッチンでコンビニ弁当を温めている間に冷蔵庫から買い溜めてある炭酸水を取り出す。そして一気にテーブルでそれらをたいらげる。携帯は部屋に入った時に電源を切ってある。世良兄が自宅にいる時はどんなに大事な電話も繋がらない。それはどんなに大事な用事であろうと緊急事態であろうと自分が自宅にいる時にかけてくる奴が悪いと考えている。そして平らげたコンビニ弁当のゴミと空になったペットボトルをそれぞれのゴミ箱に放り込み、歯を磨く。その時には強烈な睡魔が襲ってくる。そういうふうに体がなっている。世良兄の『長い一日』は本人の自覚がないまま終わる。ベッドに倒れ込んだ世良兄は泥のように眠る。

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