第325話リア充とはなんぞや

「じゃあ俺らはこの辺で」


「え?もう帰られるんですかあ?えーーー」


「(そうだよ。宮部っち。我々は予算も持って電車に乗ってまで来たんだよ。○○屋をもっと堪能しようよ)」


「(はあ。でも…、まずはあの子を帰らせた方がよくないですか?)」


「(そうだなあ。たなりんもなんかおかしいし)」


「(ですよね。やっぱりこういうところは野郎だけで楽しむのが正しいかと)」


「彩音ちゃんも目的のブツは手に入ったでしょ?」


「はい!でもホントにいいんですかぁ?『七つ目の大罪』無修正バージョンブルーレイを奢って貰ってしかも特典入りのブルーレイの方を…」


「あ、それはたなりんにお礼を言ってよ。金出したのもたなりんだし。DVDを選んだのもたなりんだし。パッケージも譲ったのはたなりんだし」


「いえいえ。こちらこそ神宮寺さんが先にゲットされたものを神宮司さんのご配慮でおめこぼしをいただき感謝してます。はい」


「(やっぱ壊れてますよ)」


「(ねえー)」


「じゃあせっかくだしぃ。ご迷惑じゃなかったら『ライン』の交換だけでもお願い出来ませんかぁ?」


「はい?」


 まさかこんな展開になるとは思ってもみなかった飯塚がすっとんきょうな声で返事をする。彩音ちゃんの本命は宮部とのライン交換である。それは分かっている!と飯塚。でも僕も『藻府藻府』ですよー、彩音ちゃーんと思う飯塚。


「そんな初対面の男と簡単に連絡先を交換してんじゃねえよ」


 オタクモードではなく『漢』モードの宮部が彩音ちゃんに辛く当たる。


「うーん、でも彩音ちゃんも勇気を出してだね」


 せっかくのチャンスを無駄にしたくないと思う飯塚。よく見ると彩音ちゃんはかわいいよ、と思う飯塚。素人っていいよなあと思う飯塚。


「宮部君。そうやって『男だから』とか『女だとか』で区別するのはよくないと思います。今はコンプライアンスもうるさいです。なにより『同じ趣味を持つ仲間』じゃないですか?」


「そうだそうだ!たなりん君いいぞ!」


どっぎゅーん、ずっぎゅーんと胸打つ、グッパオンと階段を転げ落ちる、メメタアとカエルを打ち抜く、レロレロレロレロと舌上で転がす、眼差しはかなり挑発的な彩音ちゃんとたなりん。ゴゴゴゴゴゴ…。


「よければこのたなりんとラインを交換していただき、そこから我々のグループラインに神宮司さんをご招待するのではどうですか?」


(うーん。この『まるおすえお』な人は…本当に『藻府藻府』の人?まあホントなんでしょうけど。あの宮部様が言ってるんだし…。まあ、ここはグループで距離を縮めてそこから宮部様と…)


「えええええ!?ホントですかぁ!?ありがとうございますぅ!たなりん君、彩音、尊敬しちゃいます♡」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…。


 そして。


「なになに?グループライン?僕も招待してよー」


「うるせえー。世良ぁ。お前も関係ぇねえだろ。用件が済んだらとっとと帰れよ」


「まあまあ、『同じ趣味を持つ仲間』は大事でしょ!?ね!ね!」


 そして新しく飯塚が「『真・七つ目の大罪』の会」のグループを作り、そこにたなりんと宮部を招待する。続いてたなりんが義経と彩音を招待する。


「うわー、宮部さんのアイコンってこんななんですね。カッコいいですぅ。彩音、尊敬しちゃいます♡」


「オホン!じゃあ今日のところはこの辺でお開きということで」


「はい!飯塚さん。宮部さんもありがとうございましたぁ。世良君もまたねえー。たなりん君もねー」


 手を振りながら『七つ目の大罪』無修正バージョンブルーレイの入った〇〇屋のビニールの袋を大事そうに抱え、だんだん姿が小さくなっていく彩音ちゃん。それを見送る四人も手を振る。そして彩音ちゃんが視界から消えた瞬間、たなりんが虎になる。


「宮部っち。正座するなりよ」


「へ?」


「あ、つねりんは帰った方がいいなりよ。あんまり見せたくないでござるから」


「そうなの?ま、いっか。じゃあたなりん、今度そのDVD貸してくれよー」


 バイクでこの場から義経もいなくなる。そしてもう一度。


「聞こえないなりか?宮部っち。正座するなりよ」


 冷静で冷たい口調のたなりんが繰り返す。


「え?なんか悪いことした?俺?」


「宮部っちは『リア充』なりか?答えよ」


「へ?」


「随分とおモテになってるなりねえ。ラインでいろんな女の子を呼び出して遊んでるなりか?今日もあなぽこ確定なりか?」


「はい?」


「そうなり。『はい』しか言っちゃダメなり。『決まり』なり。『罰』なりよ」


「は、はい…」


「なんで彩音ちゃんは宮部『さん』なりか?たなりん『君』なりか?関羽『君』、張飛『さん』と呼ぶなりか?『関さん』は『かんさん』なりよ」


「はい」


「彩音ちゃんのグループラインでも暫くは『はい』のみしか発言は許可しないなりよ」


「え?」


「返事は『はい』のみとの『決まり』なりよ」


「はい…」


「リア充とはなんぞやなり」


「はい…」


「彩音ちゃんも『ぶっかけれびーたん』を見てないなりよね」


「はい…」


 十代目『藻府藻府』頭の宮部はこの日たなりんからコンコンと説教を受けたのであった。

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