第315話中二病
「今田ってのはどいつや!」
「あ?ゾンビ寸前が今田さん呼び捨てにしてんじゃねえよ」
「おい、止めとけ。そいつは間宮さん直属の江戸川さんだぜ」
「え?」
「ほお、中山んとこの下は物分かりがええ。なら今から中山の代わりにわしが頭や。ええな」
「あ?てめえ何言ってんだ。あぶねえ薬でもやってんじゃねえの?」
「止めとけって。江戸川さん。ちょうど今話してたところなんだよ」
「話してたところだと。何の話や」
そこで奥から声が。
「あんたとは前に会ってるよな」
「あ?誰じゃ。われえ」
「俺ん中では『カレー好き』の人で覚えてるが」
「なんですかそれ」
「いや、この人は『カレー』が大好きでな」
「てめえは…」
そこで男が左掌をかざす。
「この傷を覚えてますよね。サランラップで引き裂いた」
「なんだあ。今度は右手もやってくれんのか?俺がやってやろうか」
男の名は慈道。『身二舞鵜須組』、『蜜気魔薄組」を間宮が相手している間に愚連隊連中の強化を命じられていた慈道は半グレ組織の強化に動いていた。
「あんたが間宮さんからどう言われてるか知らねえ。ただ現場のことは俺と福岡の二人に任せてもらってる。あんた、俺の下につくか?福岡の下でもいい。そっちがいいなら俺から福岡にナシつけとく。それともヤクザもんになるか」
「あああああああ?このドぐされがあああ!」
「ほお。そんな体で元気いいねえ。不良を引退するガラじゃねえよな」
そう言って慈道が立ち上がる。
「慈道さん!こいつはうちに!」
中山の下だったものの一人が叫ぶがそれを制する今田。
「まあ待てよ。この慈道さんのケンカってのを見せてもらおうじゃねえか。手負いだろうが江戸川も相当のもんだ」
「既読スルーや即ブロックは勘弁してくれよ」
「そんなことしないなりよ」
たなりんの頭の中で繰り返される言葉。間宮との会話。
うう…。宮部っちや長谷部っちは当事者じゃないからそんなこと言えるなりよ…。こうしてる間にも時は刻々と流れるでござる…。間宮君は…怒ってないなりか…。たなりんが今やってることは完全に既読スルーなり。既読スルーや即ブロックはやめて欲しいと言ってた間宮君にこのたなりんは「そんなことしないなりよ」と約束したなりよ…。うう…、心が…、心が痛むなり…。せめて返事ぐらい…。
「おい。たなりん」
「は、はいなり」
「どうした?たなりん君。大事な企画会議中にうわの空だぞ」
「んだよお。たなりん。まだあのラインのこと気にしてんのか?」
「ん?ライン?何かあったの?」
「それがですね。飯塚さん。間宮の野郎、たなりんにこんな動画送りつけてきやがったんですよ」
そこでまたもたなりんのスマホで間宮から送られてきた教育上よろしくない動画を再生させることに。田所と飯塚が興味深そうに画面へかぶりつく。
「うわー…、これは…、いくら間宮でもやりすぎでしょ…」
不快な気持ちになりながらそう呟く飯塚。田所は黙って動画を見る。
「と、まあ。これが今朝、たなりん宛に送ってこられたラインなんですよ。動画と一緒にメッセージも送ってきまして。この動画でおもちゃにされてるのが最初に間宮の野郎にタタキかましたのが理由とのことですが」
「まあ、俺も何度かあいつとは面識あるけど。知らない人ならあの見た目だから。一人で歩いてたらカツアゲにでもあったとかかな」
「飯塚さん。あいつは恐ろしく計算高い奴ですよ。それにこの動画に映ってるのはたなりんと同じ学校の奴らです」
「そうなの?たなりん」
「そうなり…」
「たなりんは学校とか関係ない俺や宮部っちとつるんでるから学校の連中とは合わないでしょ」
「そうでござるねえ…」
「話が見えてきましたね。たなりん君は学校では一匹狼的存在。自分も経験ありますが同級生がみんなお子ちゃまに見える年頃ってありましたね。あとでおやじから教わりましたが『中二病』って言うらしいんですよね」
神内さんの教えはどこまで広いんだ!と思う飯塚。京山さんも同じ教えを受けてるんだと思う宮部。たなりんは中二病なりか?と思うたなりん。
「まあ、そんなたなりんをよく思わない人間が学校には出てきますよね。自分もそうでしたので」
パンチパーマを7:3にした田所が元『中二病』…、深い…、深すぎる…と思う飯塚と宮部。
「それをいち早く察した間宮の野郎がたなりんのことをよく思っていない人たちをこの動画のようにお仕置きしたと。本来ならたなりんが『義理の妹が爆乳でいろいろ挟もうとローションを塗りたくって…』…あれ?たなりんの必殺技ってなんでしたっけ?」
「『義理の妹が爆乳なんだけどグイグイ迫ってくる拳』なり…」
「そうそう。それを繰り出す前に間宮の野郎が先走ったってことですね」
「田所のあんさん。ちょっとたなりんを馬鹿にしてませんか?」
「何を言いますか!飯塚ちゃんは!俺は真面目っすよ!」
「それで動画の内容でショックを受けて企画会議もうわの空である。ズバリそうですね!」
「違いますよー。田所さん。たなりんは律儀なんで間宮の野郎に返事をしてないことを気にしてるんですよ。あんな奴シカトしてりゃあいいんすよ」
「なるほど。でもたなりん君はそう簡単にシカトは出来ないと」
「そうなり…。約束したなりよ。既読スルーも即ブロックもしないなりと…」
「でも田所さんも飯塚さんも分かりますよね。あいつは何か企んでますよ。別に近い将来ぶっ潰すんだしシカトでいいと思うんですー」
「宮部っち君。それはあくまで君の考えであり。たなりん君は間宮の野郎を突き放すことが出来ない。でもそれがたなりん君の優しさであり、いいところなんじゃないか?」
「でもですね」
「よし!ここはこの漢・田所がたなりん君の気持ちを楽にしてあげよう!」
そう言ってたなりんのラインを弄る田所。
「あ!何やってんすか!田所のあんさん!」
「え、たなりん君に変わって間宮に返信しときました」
「えええええええええええええええ!」
急いで田所からスマホを奪い取る三人。そしてスマホの画面に注目する。
そこには『きめつヤイバ―』の『コイツ…やる奴だぜ』スタンプを送信した後が…。その後、企画会議は一時中断となり、飯塚は田所をコンコンと説教し、宮部はたなりんを何とか前向きにと励まし、たなりんは呆然と固まっていた…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます