第312話呼吸を止めて百秒あなた死にそうな目をしたから
「よっ」
放課後、宮部と合流するたなりん。
「あうあう…、宮部っちぃ!これなり!今日は一日中ずーーーーっとこれが気になってうわの空だったなりぃ!」
そう言って間宮からのラインを宮部に見せるたなりん。
「お、落ち着け!たなりん!あとでゆっくり見るから!それより間宮の野郎に返信はしてないよな?」
「出来るわけないなりよ!」
「そっか。そんなにヘビーな動画だったんだな。とりま、ケツに乗れよ」
そして宮部の単車のケツに乗るたなりん。
「飯塚さんとこ行く前にどっか静かなところで確認したいのもあるし。どうする?長谷部んところにツラ出しに行く?」
「あ、そうなりね。長谷部っちのお見舞いが大事なり。そう言えば『一日だけ』の約束で持って帰った『すかいりぶ』初期バージョンは持ってきたでござるか?」
「え?何?じゃあ行くぜ!」
たなりんの言葉は聞こえなかったフリをして宮部が単車を走らせる。
「ほれ、吸うか?」
世良兄から差し出されたタバコの箱から一本取り、それを咥える忍。こういうところから世良兄の『北風と太陽』は始まっている。火も差し出してやる。それに「すんません」と言いながらタバコを近付ける忍。久しぶりの一服を何とも言えない表情で吸う忍。
「なんだ?お前、うちの人間はタバコも吸わせてくれなかったのか?」
「あ、いえ…」
「ここに置いとくぜ。好きな時に吸えばいい。なくなる前にカートンで持ってきてやるよ」
そう言って手持ちのタバコを箱ごとテーブルに置く世良兄。
「すんません」
「気にするな。それよりこれから間宮を潰しにいくぞ」
「…はい」
「あんまり重く考えるな。確かに間宮はお前にとっては元頭なんだろう。だがその結果が今だ。お前は間宮のために動いてきたんだろう。間宮の下ってことでいいこともあったんだろうが結果は今が物語っている」
「…はい」
「それよりもお前と同じような立場で世良という奴がいたろ?」
「世良ですか?いましたね。あいつはちょっと特別って言うか。『模索模索』は元『藻府藻府』の人間とそうじゃない人間がいまして。俺は元『藻府藻府』です。間宮と一緒に今の『藻府藻府』を割ったんです。世良はそうじゃなく間宮の知り合いかなんかで。武闘派って言うよりブレーン的な立場だったと思います。あんまり強いとかそういうのは聞かなかったんで」
「その世良ってのは俺の弟なんだよ」
「え?そうなんですか?いや、瀬和さんと呼ばれてましたので…」
「瀬和ってのは俺の偽名だ。俺が本名を名乗るのは珍しい」
「そうだったんですか…。あの世良は世良さんの弟なんですね」
「そうだ。そしてお前らの中ではどういう評価なのかは知らん。ただ聞いてる限りでは猫被ってるように感じる」
そこで忍が一本目のタバコを吸い終える。世良兄が二本目を進める。そしてたて続けにタバコを吸う忍。
「じゃあ本当のあいつは」
「ああ。実の兄である俺の贔屓目ナシで強い。間宮ってのがどんだけのもんかは知らん。ただ、うちの弟が大人しく下についてるって事実だけで相当なもんだってことは分かる」
「そんなに世良は、あ、世良さんの弟は強いんですか」
「ああ。前にお前からチラッと聞いたが比留間にマシマシか。あれクラスなら瞬殺しちまうだろう」
「そんなにですか」
「そうだ。間宮の条件だった『敗けたら誰かほかの幹部の下につく』って選択肢。俺なら世良の下につくのが唯一の正解だと思うがな。まあ不良を続けたいならだが」
「でもあいつは何考えてるか分からないところもありますし。そんなに強いってのも実際は見たことありませんし」
「俺もあいつが何を考えているか分からん。ただ分かるだろ。兄として弟を間宮とつるませておくことは出来ない。間宮は危険すぎる」
忍が納得した表情を世良兄に見せる。
「だからお前は安心して全力で俺に協力することだ。間宮に切り捨てられたお前らがあいつを畏怖する気持ちも分かる。本職も操り、どんどん大きくなる巨悪。それに二刀流。頭もキレるし、腕もたつ。それもどちらも相当なもんなんだろう。ただ俺ならあいつを潰せるとも思っている。だから俺にのれ。まずは若林の件だ」
「田所のあんさん」
「はいな!」
「そろそろ宮部っちとたなりんが来る時間ですよ」
「あ、もうそんな時間っすか。でも田島公園の動画の編集は終わりました!たなりん君の活躍もリアリティ抜群です!」
「いや…、企画会議のアイデアですよ。『組チューバー』らしいアイデアをですね」
「そっちもばっちりですよ!」
「ホントですか!?」
「『呼吸を止めて百秒あなた死にそうな目をしたから』を検証してみた!って動画なんすが」
え?洗面器に水をためて拷問をしている昔気質で屈強な『肉球会』の組員の姿を想像する飯塚。いやいや、それってネタですよね?とも思う飯塚であった。
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