第313話『オレオレ』に続く太いシノギ

 世良兄とはまた別の場所で密談をする二人。『蜜気魔薄組』の伊勢組長と間宮である。


「なんや。しばらくは電話でもええやろ。それとも直で会うってのはええ話か」


「まあ。今は直で会っての『通話』が一番安全安心ですんで」


「なんやそれ。で。小泉のおっさんは型に嵌めたんかい」


「まだ途中ですね」


「途中か。いつ終わるんや」


「『身二舞鵜須組』のところですかね。あそこで活躍してる半グレ連中のリーダーから小泉さんと世良さんが直で会ってるって報告がありまして」


「世良かあ。あいつがおったのお。なんや、あのボンクラが小泉のおっさんに接触しよったんか」


「状況から考えて俺の追い込みに小泉さんが藁にも縋る思いで世良さんに助けを求めたんじゃないっすかねえ」


「ちっ。あいつ…。あの晩、そのままさろたったらよかったか…」


「伊勢さん。世良さんは堅気っすよ」


「あ?あのボンクラは堅気じゃねえよ」


「でも伊勢さんが手にかければアウトっす。あの人も半グレ以上に自分の立場を上手く利用してますよね。まあ、上手ですよ」


「随分余裕ぶっこいとるやないけ。ワレぇ」


「そう見えますかね」


「まあそれがお前なんやろうけどなあ。あ、そういや見たで。おめえも随分とエグイことやんなあ」


「何すか?」


「しらばっくれんなよ。SNSの懸賞クビのやつや。おめえんとこのテカぁ個人情報と顔出しで晒しとったなあ」


「あ、あれっすか。まあ実験的な要素もありますんで」


「実験やと?」


「ええ。うちのシノギもこれからどんどん大きくしたいと思ってますんで。なんせ金がものを言うご時世っすからね」


「ほお。なんやええ話の匂いがするのお」


「はい。美人局も焼き畑農業みたいなもんすからね。まああれはあれでしゃぶれるとこまでしゃぶり倒すつもりですが。売れっ子の芸能人がテレビに出れなくなってユーチューブで活動ってあるじゃないですか」


「おう?ああ、黒い交際ってやつか」


「そうです。今は『反社』との付き合いは即『社会的な死』を意味する時代っす」


「なるほど。つまりは」


「はい。身に覚えがあろうとなかろうとその『事実』を作っちまえばいいんですよ。酒の席だろうとメシの席だろうと。仲良く握手してツーショット写真を撮ってしまえば。芸能人だろうとプロ野球選手だろうと金を積むでしょう。そこらの先生と呼ばれる方より美味いんじゃないっすか」


「うめえなあ。そりゃあ美味そうだわ。でもまあ芸能はどこぞがバックについとるやろ」


「だったらそれを撮ればいいだけです。それが怖いから今はクリーンなところが多いんでしょう。他にも個人情報の美味い抜き方もありますんで」


「ほお。やっぱおめえはこっちに向いてるわ。世良の件はお前に任せてええんか」


「ええ。伊勢さんには伊勢さんにしか出来ないことの時に動いてもらいますよ」


「ほおか。ま、世良のシノギは太い。それを根こそぎこっちにぶんどってまえ」


「いまどき『風俗』に『闇金』じゃあ割りに合わないでしょう」


「半グレさんの世界はそうなんやろうなあ。わしらは正業で食わんとな」


「よく言いますよ」


「そりゃあお互い様やろ」



 間宮が慈道を使って最近励んでいるのが『ポスティング』である。地域の名簿作り。


『アンケートにご協力ください


 拝啓、皆様には益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。この度、より一層の生活環境向上のため、アンケートのご協力を頂いております。お答え頂いた方にはクーオカード3000円分を進呈致します。何卒、ご協力のほどお願い致します。

(スマートフォンでQRコードをスキャンしてください。アンケート画面にご記入をお願い致します)』


 法人名や電話番号などなんとでも出来る。大きく『最短1分』、『ハズレなし!』と謳えばまあほとんどの乞食がアンケートに答えてくれる。個人情報を送ってくれる。目をつけたターゲットがいればそいつ一人のためにそういう葉書を作る。コンビニで公共料金を支払う若い女の住所を抜くより手っ取り早いし足が付かない。『オレオレ』に続く太いシノギはすでに完成されつつあるのである。

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