第309話教育上よろしくない動画

「悪かったな。付き合わせて。そのままうちの事務所まで頼む」


「分かりました。瀬和さん」


「少し寝る。着いたら起こしてくれ」


「分かりました」


 部下である池田が運転するプリウスでその日のうちに『身二舞鵜須組』のシマから自分のホームグラウンドへ戻る世良兄。後部座席で目を瞑りながら眠らずに考えをあれこれと頭の中で巡らせる。



「小泉さんは間宮から月々、どれぐらいの金額を受け取っていらっしゃったのでしょうか?」


「あ?」


「いえ。ここは正確な金額をお聞かせ願いたいところです。何しろ『単独スポンサー』を名乗り出ている身ですので」


「せやったなあ」


「『正確な』金額をお教えいただければ幸いです」


「一億や」


「…小泉さん。私を試しているのでしたらこちらも『ある筋から入手したあくまでも噂レベルの間宮が小泉さんにお支払いしていた金額』を言いましょうか」


「はんっ。知っとるなら聞かんでもええがな。瀬和さんも人が悪い」


「『三千万円』と伺ってますが」


「そうや。よお調べとるな。ジャストや」


「今の半グレは随分と稼ぐんですね」


「あれは特別やろ。うちがケツ持っとった半グレとはゼロの数が二つ違うわ」


「そうですか。では私が『単独スポンサー』になる前に。私の仕事を見てから決めてください。間宮の件は私があいつを潰しましょう。それでいいですね」


「あんたがやるんかい。なんやったらうちのもんを何人か回すで」


「いえ。それはありがたいですが。それで誤解されないよう前以て言っておきます。私は『肉球会』さんとそれなりに長いお付き合いをしてきました。今もそのお付き合いは続いております。今回の件ですが。小泉さんとのことは『肉球会』さんには一切お話しません。もちろん間接的にもです」


「ん?何が言いたい?」


「私として『肉球会』さんと『小泉』さん、『身二舞鵜須組』さんを天秤にかけるつもりはサラサラないということです。そして間宮とずぶずぶの関係である『蜜気魔薄組』とはぶつかるでしょうということです」


「まあ、あんたは堅気さんや。その辺は気にせんでええで。逆に変な動きした方がどういうことになるかはあんたが一番よお分かっとるやろ」


「はい。存分に。では間宮の件は早急に対応します。では今日はこの辺で」


 そして財布を取り出そうとする世良兄。


「おいおい。今日はわざわざ足運んでもろとる。それにわしが瀬和さんに時間を作ってもらっとる立場や」


「では。ご馳走になります」


「飛ばしの携帯やが。また都合つくなら用意してくれるか」


「今はライン以外で機密性の高いアプリもいくつか出てますが。了解しました」



 夜の高速を走る中、車中で考える世良兄。中山のガラを抑えたのはデカい。恐らくあの小僧が今回の件では大きなカギを握っているのは確か。中山の携帯が『ギャラクシー』であったこと。通話録音機能は『ナイセンクラウト』に始まり、過去にもいろいろ試したがちゃちいアプリよりも通話内容をサーバーに残せる『ナイセンクラウド』が一番使えた。契約すればスマホに『03番号』も『0120』のフリーダイヤルも持たせることが出来る。月々の金額もしれたものだった。それが『ギャラクシー』の通話録音機能の登場で一気に変わる。サーバーを操作するパソコンも必要ない。ボタン一つでスマホに通話内容を録音させられる『ギャラクシー』は使える。そして中山の使っていたスマホも『ギャラクシー』であった。今はまだずっと電源を切っているが、中山はその通話録音機能を使っていたと言った。これは賭けに近い。間宮も中山への指示をすべて直接口頭でということはないだろう。ラインのログ、そして通話をラインではなくスマホでしていたら通話が残っているはず。可能性の問題。ただ垂れている糸がどんなに細い糸でもそれがある限り自分は登りきる。



 間宮からとんでもない動画を送られたたなりんはすぐに宮部へ連絡する。


「ん?たなりん?何?こんな朝早くから。…寝てたわ」


「もしもーし!なり!目を覚ますなりよ!」


「わーった、わーったよ。起きてるって。なんかあったの?」


「ま、間宮君が!ラインで!」


 そこで初めて『あ、いじめっ子のことを宮部っちにどう説明しようか?』と気付くたなりん。


「間宮がライン!?どうした!?詳しく教えてくれ!たなりん!」


「あ、いや…、教育上…よろしくないような…動画を…」


「何ぃ!?動画ぁ!?あとは!?メッセージとか送ってこなかったか!?」


「あ、送って…きた…なり…ような…」


「それをスクショして動画も一緒に転送してくれるか!?」


「あ、あ、いや…」


「どうした?たなりん?あいつに何か脅されてる?」


「いや、それはないなり…」


「んだよ!なんか訳アリっぽいな。じゃあ今日の夕方また昨日と同じところに迎えにいっから。直で会って話した方がよさそうだしな。それでいい?」


「そうなりね。う、う…」


「じゃあ何かあればすぐに連絡してくれよ」


 そして電話を切るたなりんと宮部。恐る恐る学校へ行くもいじめっ子は三人とも休みであった。いつも頭の中で残酷な方法で何百回、何千回と殺してきたいじめっ子が。間宮はあの三人を殺したのかなあ…、え?夢じゃないなりよね…、と思うたなりん。嬉しいはずなのに何故か心が落ち着かないたなりん。宮部っちにはどうやって説明しようかなり…。もやもやしたまま授業を受け、放課後を迎える。

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