第296話そんな腐った瞳でAVを見るのはやめろぉ!

「動画を見れば分かると思いますが。女の顔は一切映ってませんよね」


「ですね」


「『模索模索』の連中の店で働かされてる女。まあ、この業界で嫌々働くってのはあり得ないんですが。それがないように見えるところから『模索模索』が精神的に圧をかけてるんでしょう。まあそれは置いときます。動画を回していると知っているなら自分の顔を映らないようにするのが心理ですよね。ましてや盗撮機を回している場所も本人が置いたところですから。そして肝の部分です。うちもたまにこういう『オイタ』をする馬鹿がいます。まあ、こういうのをやってくる人間の挙動や違和感ですかね。そういうのをうちの在籍には教えてますので。うちには通用しません。それでそういう馬鹿の『作品集』を取り上げることもありますが、まあ馬鹿も馬鹿なりに苦労してますね。この手の動画を閲覧して楽しむ用に撮るのってかなり難しいんです。想像してみてください。この動画からです。最初から最後まで同一方向、同じ視点からのみの動画です。これで閲覧用に撮影するには『相手』を積極的にガンガン動かさないといけません。でもプレイ中に自然に相手の体勢を変えるのって難しいんですね。これがM男相手の女王様なら別ですが。『模索模索』の連中がやってる店は若いってのだけが売りの普通のデリですから。客側が『こうして』『ああして』は言いますが女から言うのはよほど上手く言わないと不自然になります。恐らく実験的な初期の段階でカモが言いなりになったからそこまで深く考えなかったんでしょう。1920×1080がいいとこです。今は携帯でも一億画素数のものがあります。二十年前レベルの画素数ではまず画質がきついです。見ててそう思いませんか」


「言われてみれば確かにそうですね」


「角田さんはどうです」


「世良さんがおっしゃる通りです。まあ逆に『盗撮もの』ならこれぐらいがリアリティがあっていいんでしょうけど」


「そういうもんですかねえ。そして致命的なほど作品としてはきつくないですか。汚いおっさんのケツとかは映ってますがそんなの一般の方は見ないと思いませんか」


「うーん。確かに固定カメラだからでしょうか。退屈と言いますか。そういう『行為』を隠し撮りしたものだとは分かりますが顔もよく見えませんね」


「住友さんのおっしゃる通りです。ベッドに水平に置かれてるカメラでは、これは足側に置いてるのが分かりますよね。恐らく設置されたテレビの台か冷蔵庫の上…、冷蔵庫の上だと意外と『ウィンウィン』と機械音がうるさいんです」


「へえ…。さすがですね」


「お恥ずかしいです。まあこれだとベッドで起き上がった時、あとはベッドインする時と終わってからシャワーに移動する時ですかね。それも一瞬です。全部は見てませんので断言はまだ出来ませんが。間宮でしたね。『模索模索』の頭は。間宮がこれを考え出したんでしょうが『たまたま』です。『たまたま』客の人間がろくに確認もせず一部を見て言いなりになっているのが現実でしょう。気持ちは分からなくもありません。この手の動画の男優ですからね。身に覚えがあればまず誰しもがハマる蟻地獄でしょう。でもこうやって第三者が冷静に見れば『蜘蛛の糸』が垂れているのが分かります」


「てことは被害者の方を救うことが出来ると?」


「はい。ただ先程も言いましたが全部はまだ見てませんので。すべて確認するまで何とも言えませんが。カメラの角度です。ベッドの真横から撮影された作品だとまた別だと思いますし、枕元から撮影した作品でも別だと思いますが。ただ…、これらを設置する女の心理を考えると自分の顔が映るリスクですね。そこには置かないかと。枕元、つまり頭からだと意外と男側の顔は一切映りませんし、女の顔はもろです。それはやらないでしょう。そして両方とも映るのが横からです。私が間宮の立場だったらせめてカメラは二か所。縦横両アングルで設置させますね。それなら確実です。まあ、でもそれをやるとなると自然に置くのは難しいですね。ハードルは一気に高くなります。何故ならこういうところは客が女を呼びますので。部屋に入るのは女が後からです。そして先に部屋を出るのも女です。その条件をクリアしながら二か所にカメラを設置するのは…、まあ難しいですかね。どうですか角田さんから見て。これは。楽しめますか?」


 ノートパソコンで動画を何度も巻き戻しながら世良兄が言う。


「ちょっとキツイですねえ。作品としては。それに世良さんがおっしゃる通りこれだと男性も女性も裸は見えますが顔は特定出来ないと思いますね」


「これが一般の方の見解と同じ意見です。住友さん」


「確かに私にも角田さんと同じように見えてます。男性の方は誰が映っているかを知ってますがそれでもなんとなく言われるとその方に見えなくもないレベルですね」


「ですよね。あとは声です。なので音量を最大にしてチェックしてます。声は拾ってます。プレイ中の声はどうでもいいですし『はあはあ』とか男が喘いでも特定はされないでしょうけど。しかしカメラはプレイ時間、設置から回収まで、もっと言えば回収して部屋を出ても回ってます。音は拾ってます。プレイ前、プレイ後の世間話は必ずします。黙って即プレイはそういう店だけですから。ちょっと厄介ですがこれは動画より音声が問題ですね」


「声、ですか?」


「はい。だから『蜘蛛の糸』と表現しました。間宮がそれに気付いているか。気付いていると思っていた方がいいでしょう。この場合。そのうえで何とかする方法はあります」


「なんとかなりますでしょうか。世良さん。その方法とは?」


「『蜘蛛の糸』です。すいませんが今夜は別のアポが入ってますので。まずは時間までは出来る限りの動画をチェックします。私の代わりに角田さんに残って続きはやってもらいます。まずはそれからです。いいですかね。角田さん。住友さん」


「よろしくお願いします。世良さん。角田さん」


「あ、いえ」


 そう言いながら角田が世良に向かって「聞いてないですよ」と視線を送る。



 一方その頃。


「そんな腐った瞳でAVを見るのはやめろぉ!とですね」


 田所が飯塚に神内の教えを説いていた。

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