第289話作られた会話

「まあ見なよ。あんたからのラインだよ。これ」


 間宮がかざしたスマホを奪い取って画面を見る小泉。そしてその画面を見て信じられないものを見るような表情をする。


小泉『間宮さんから借りた三千万で薬の方の支払いのめどがたったわ。助かったわ。約束通り元金を倍にして返すからまた頼むで』


間宮『小泉さん。三千万円は確かにお貸ししましたが、薬の仕入れ代に使うとは聞いてませんでしたが』


小泉『すまんすまん。それは聞かんかったことにしといてや。ラインも消去しといてや。まあすぐに金は倍にして返すんでそんな真面目なこと言いなや』


間宮『薬のシノギは身二舞鵜須組さんではご法度ではないんですか?』


小泉『んなもん建前や。金入れりゃあ何の問題もない。バレへんようにやればええだけや。手っ取り早く稼ぐにゃこれが一番早いし確実や。組の方も黙認や』


間宮『黙認ということは本当ですか?』


小泉『ああ、金さえ入れりゃあ問題ない』


「なんじゃあこりゃあ!わしゃこんなやり取りした覚えなんかないぞお!」


 小泉が顔を真っ赤にしたまま焦りながら怒鳴る。


「覚えがないって言うならご自分のアカウントを確認してみてください」


 間宮の言葉に慌てて自分のスマホを取り出し確認する小泉。そこには間宮のかざしたスマホと一字一句同じ会話のログが。


「どういうことや。おどれ…、わしのスマホに細工しおったんか…」


「はい?小泉さんのスマホはご自分しか触れないと思うんですが。それに僕がもし何らかの方法で手にしてもセキュリティーかけてらっしゃるから弄るのは無理ですよ。指紋認証とか今なら顔認証、PINコード。他人のスマホを今の時代勝手に弄ることは不可能です」


「ああ?でもわしゃこんなライン見覚えないぞ!でたらめや!こんなのコンピューターに詳しい奴がハッキングってやつやろ!」


「小泉さん。ハッキングは『コンピューター』に詳しかろうが不可能だと思いますよ。そんなことが出来ればラインは使えなくなりますし犯罪の温床になります。こんなラインを人に送っといて今更何を言ってるんですかとしか…」


 間宮がラインライトで小泉のスマホに入ってある小泉のラインアカウントを好き勝手に弄った結果である。間宮はその仕組みを利用し、あのような会話を小泉のラインアカウントと自分のラインアカウントでさも当人同士が会話しているようにログを作ったのである。そしてラインライトから別の人間から送られたラインを読んでしまうと既読をつけてしまうことになるのでそれらに既読はつけない。


「小泉さん。だったら自分に送ったこれも違うと言うんですか」


 ここで慈道が追い打ちをかける。


「慈道ぉ!なんじゃわれ」


「これですよ」


 そして慈道がかかげたスマホも手に取る小泉。


小泉『薬の方はどうや。言うとくが金をごまかしたらぶち殺すからな』


慈道『そんなことしません。けれど薬を商売にするのはまずいんじゃないかと。うちのもんにも出所は言ってませんし、窓口である自分しか知らないことですが。こんなに大っぴらにやってますといずれバレるのも時間の問題だと思いますが』


小泉『そんなことお前が気にせんでええ。バレる?バラすような奴がいたら俺んところに連れて来い。わしが喋らんようによーくお仕置きしたるで』


慈道『分かりました。けど自分は反対ですが。これが小泉さんの命令なら仕方ないと割り切ってやります』


小泉『命令や。お前の取り分もあるやろが。下手につついてくるようならお前の代わりはいくらでもおることを忘れんな』


慈道『了解しました』


 慈道とのやり取りもまったく身に覚えのない小泉。自分のスマホのラインを見ながらテンパる。そして『削除』を何度も試みる。


「小泉さん。『削除』と『送信取り消し』は別物ですよ。それにやってしまったことは今更消せませんから」


 そして間宮が小泉へ引導を渡す。飴と鞭。


「だーかーら、小泉さん。何を慌てることがあるんですか。小泉さんは今まで通り金を毎月受け取ってればいいんですよ。そして『身二舞鵜須組』のトップに君臨する。そういうお話じゃないですか」


 小泉が間宮の言葉に観念したかのように、腹を決めたかのように鋭い眼差しで間宮を睨みながら言う。


「それでわしに何をせえっちゅうんや。おどれ」


「何も言いません。ただ」


「ただ?なんや。ハッキリ言え」


 今の小泉はなんでもやる目をしている。目の前の間宮と慈道さえも。怒りを通り越し殺意一色に染まる小泉。そんな小泉の殺意の矛先を誘導する。


「実は伊勢さんだけがこの画面を見てしまい…。スクショを寄こせと」


「伊勢ぇ…、あの野郎ぉ…」


 間宮の描いた『絵』が小泉を大きく狂わせる。

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