第281話うちはブラックだな
自分をいじめている学校の連中とは違う。それだけの感覚がたなりんの耳を間宮の言葉へと傾けさせる。
「ほら見てみなよ。つねりんだっけ。世良はつええでしょ」
「そうでござるね…」
「だからあいつもさあ、普段はなかなか対等に接してくれる奴がいねえのよ。俺もあいつとは長いからさあ。ほら、そういうのって複雑じゃん。あいつが自分のことをつねりんって呼ばせるって正直俺もびっくりしたもん」
「いや…、でも宮部っちとの友情もあるなりし…。マックで会った時は宮部っちと間宮君はそんなに仲がよさそうには見えなかったでござるなりよ」
見える距離で宮部が江戸川を、義経が三原を圧倒しているのが分かる。宮部が剛なら義経は柔。江戸川を両手で固定してガンガン蹴りを入れる宮部に対し、ゲームのように魔法使いのように何度も三原を宙に浮かせては地面に叩きつける義経。新藤はそこまで天草を圧倒していない。むしろ慎重に戦っている。
「宮部かあ。たなりん君もなかなか痛いところを突いてくるね」
「宮部っちはいい奴なりよ」
「そうだね。あいつはいい奴だ」
「じゃあ何で仲良くしないでござるか。いい奴って分かってるなら仲良くすればいいなりよ」
「たなりん君は『どらごんぼーる』知ってるよね」
「え?当然なりよ。知らない人はいないでござらんか?」
「あれっと一緒。悟空もクリリンとは最初仲良くなかったでしょ。仲間とはほぼ全員最初は敵だったじゃん。あれに似てるかなあ。まあ一番悪いのは素直になれねえ俺なんだろうけどなあ」
「間宮君…」
「まあ今日のところはここまでにしようか。俺もいきなりたなりんって呼び捨てには出来ねえし。そのつもりもなかったし」
「へ?」
「朝は俺がいたから世良、いや、つねりんとゆっくり話出来なかったろ。見てりゃあ結果は誰でも分かるし。俺は先にふけるよ」
「…間宮君」
「あ、そうだ。連絡先だけでも交換しとく?次いつ会えるか分かんないし。ここもいつサツが来るか分かんねえよ」
「ら、ラインでいいなりか?」
「うん。ラインでいいよ。でも即ブロックや既読スルーは勘弁してくれよ。俺って傷付きやすいからさあ」
「そんなことしないなりよ」
そして間宮とラインを交換するたなりん。
「じゃあ。あとマジで通報されてるかもしんねえからサツが来たらすぐに逃げろよな。またね。たなりん君」
「あ、またねなり…」
そして三原のバイクに跨り、この場から去る間宮。それを不思議なドキドキした気持ちで見送るたなりん。そして勝がたなりんの元へ駆け寄る。
「大丈夫だったか?たなりん。何か言われた?」
「うん。なんか、たなりんと友達になりたいと言われたなり…」
「はあ?」
意外な返事にすっとんきょうな声を出す勝。そして言う。
「たなりん。あいつと友達ってのだけはやめとけ。悪いことは言わねえ。あいつはとんでもねえ悪党だ。口もうめえからよ。なんか騙されてるんじゃねえか」
「うん…」
うわの空の返事しか出来ないたなりん。いじめられるのが当たり前のたなりんにとって自分を一人の人間として対等に接してくれる相手はどうしても大事にしたい。
「まあ、その件は後だ。こんなケンカはあんまりお目にかかれねえからよ。行こうぜ」
「うん…」
「んだごらああ!世良ぁ!そんなんばっかじゃあ全然効かねえぞ!これっぽっちかあああ!」
「あ?これでも精一杯加減してやってんのが分かんねえのな。てかお前声でけえよ」
「あああ!?」
「じゃあ順番にオシャカにしてやんよ。まずはその右手。↑↗→↘↓+A」
「あ?」
その瞬間、超スピードで三原に背負い投げと見せかけて小内狩り。体勢の崩れた三原の左腕を掴み『グンッ』と逆へと捻る。
「ぐはあっ!」
「コンボ。あ、わりい。こっちから見て右だった」
そして片手パロスペシャル状態から思い切り力を入れる。
ゴキッ!
「うぐうわ!」
「次は逆。たなりんの分」
離した三原の左手がぶらりと垂れ下がる。
ゴキッ!
三原の両肩の関節が外れる。
「あれ。おめえ『こんなもん』持ってたのかよ」
三原からメリケンサックを取り上げる義経。そしてそれを右手に装着し思い切り三原の顎へ打ち込む。
「んべえっ!」
「んべえじゃねえんだよ。舌出せよ。おい」
再度顎へメリケンサック。
「舌出せよ」
顎へメリケンサック。
「舌出せよ」
そして舌を出す三原。そこへ思い切り再度メリケンサックアッパー。
ブチッ。
三原の口から小さい破片が飛ぶ。
「んごおおおお!んがあああん!」
「拾ってこいよ。今ならくっつくんじゃね」
義経対三原。義経圧勝。
三原のバイクで待ち合わせの店へ向かう間宮。『模索模索』が経営していたキャバクラに到着する。
「路駐でいいっしょ」
そのまま店内へ入る間宮。
「お疲れ様です!」
「おう。うちはブラックだな」
「はい?」
「ああ、いい。小泉さんや伊勢さんは」
「奥のテーブルです」
「小泉さんは誰か連れてきてんの?」
「はい。身内の方を二人です」
「二人ね」
そのまま小泉と伊勢が待つテーブルへ向かう。
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