第259話黒塗りの高級車に追突
『身二舞鵜須組』若頭・小泉と約束した『三日』より一日早く街へ戻ってきた間宮。そこそこどころかかなり高額となったタクシー料金を現金で支払う。
「ありがとね。釣りも領収書もいらねえから」
「お客さん!お釣りどころかこんなの受け取れませんよ!」
十万の束が一つ。そんな声を無視し、タクシーから降り久しぶりの街に立つ。
「なーんか懐かしいネエ。さて、どうなってるやら」
そう呟きながらタバコを取り出し、口に咥え火を点ける。そのまま旧『模索模索』事務所へと向かう。
「お疲れ様です!」
「あ、疲れ?疲れからか黒塗りの高級車に追突しちまったよ」
間宮の下についた半グレたちが間宮を出迎える。そして自分用の机の前に行き、椅子に腰かける。タバコを取り出し咥えながらいろいろと指示を出す。
「レッブルある?」
「はい!」
「あと水な」
「はい!」
冷えたミネラルウォーターとレッブルを運んでくる半グレたち。
「で。今どうなってる。伊勢さんとこから何かあった?」
「いえ。特には」
「幹部連中、いや、『元』か。あいつらは何してる」
「はい。中山さんは行方が分からないそうです」
「へえー。あいつ飛んだの?」
「いや…、そこまでは分かりません。『肉球会』の裕木です。入院中の裕木を狙ってたのは聞いてますが…。そこから一切の連絡が取れなくなりまして…」
「あいつの兵隊は?」
「はい。今のところは集金とか普通にやってるようです」
「ほかには?」
「はい。福岡さんは『藻府藻府』の新藤とやり合ったと聞いてます。鹿島さんと比留間さんは『藻府藻府』に潰されました。世良さんは特にいつも通りと聞いてます」
「へえ。お前さあ」
「はい」
「鹿島『さん』とか比留間『さん』ってなんだよ。負け犬に『さん』付けしなくていいよ」
「はい!」
「あとは」
レッブルを一気飲みし、大きなげっぷをしながら間宮の質問が続く。
「はい。江戸川さ、江戸川は宮部にボコボコにされました。顔面修羅場状態です」
「へえ。江戸川が顔面修羅場にねえ」
「はい。パチ屋で襲撃されたみたいでして」
「はは。それで顔面修羅場か。なんか分かるわ。で。サツは?」
「はい。監視カメラとかに映ってるはずなんですが。現行犯じゃなく証拠として弱いと。あと、『藻府藻府』の偽の特攻服を着た人間の疑いもあるとかで…」
「ま、そんなもんだろ。サツなんざあ。で、三原はあの動画見たけど。あの後どうなったの」
「はい。分が悪いと逃げたようです」
「なるほどね。天草は?」
「それなんですが…」
そこで世良に天草が一方的にやられたこと、簡単な経緯を聞かされる。
「ふーん。世良のやつがねえ。てか、天草が世良を舐めたんだろなあ。おい。スマホ貸してくれよ」
「はい」
そう言ってポケットからスマホを取り出し、画面を服で綺麗に拭きとってから間宮へ手渡す半グレの一人。
「いいよ。スピーカーで話すから」
そして自分のスマホを取り出し番号を借りたスマホに打ち込む間宮。
プルルル、プルルル。
「繋がるけど出ないね。忍は飛んだか…」
そしてすぐに違う番号を打ち込む。
「もしもし」
いかつい声で相手が電話に出る。
「おう。オレオレ」
「あ?誰じゃてめえ。オレオレじゃ分からんわい」
「お前さあ。中山んとこの兵隊だろ。俺は間宮ってえんだけど。分かる?」
「え?はい!分かります!」
「お前んとこの頭の中山忍?あいつは今何してんの?」
「それが…。何回鳴らしても携帯は繋がるんですが出ないんです」
「あ、そう。もうあいつに連絡すんのは止めろ。こっちでやるから。今田だっけ。お前」
「はい。今田です」
「次の頭はお前がやれ。近いうちにそっちの事務所に顔出すからよ」
「は、はい!自分が」
ガチャ。
会話の途中で電話を切る間宮。そして次の番号。
「おう。軍紀。どうなってんの?」
「ああ。新藤の野郎とやり合った」
「で」
「途中で『肉球会』の邪魔が入った」
「ふーん。すげえじゃん。で?」
「ああ。京山さんからも拳もらったわ。つええな。あそこは」
「ふーん。いいなあ。ま、今度またな」
そして次の番号。
「おう。三原。元気?」
「なんだよ。お前か。今どこ?」
「質問を質問で返すなよなあ。地元だよ。お前さあ、敗けてねえよな」
「んだあ?俺が誰に敗けんだよ」
「あれ?動画見てねえの?」
「あ?動画ってなんだよ?」
「お前がコージの『かかと落とし』を食らってブザマさらしてる動画」
「んだとお!?そんな動画が出回ってんのかよお!?」
「『出回ってる』って…。知らねえの?ま、いいや。今から事務所にツラ出せよ」
そう言って一方的に電話を切る間宮。そして次の番号。
「世良か?」
「あれえ?その声は間宮君?んだよお。知らねえ番号だから分かんなかったよ。どうしたの?ひょっとして地元?」
「ああ。予定よりちょい早いけど帰ってきちった。飯でもいかねえ?腹減ったしよお」
「今から?いいねえ!それじゃあ待ち合わせ場所は…」
「前の事務所でいるから。待ってるよ」
「分かった。すぐ行くから」
そしてスマホをポンっと半グレの一人へ投げ返す間宮。
「さて。何からやるかい。とりあえずレッブルもう一本頼むわ」
「はい!」
そしてミネラルウォーターを飲みながらタバコを吸う間宮。火を点けたばかりのタバコを灰皿に押し付け、レッブルが来る前に一言。
「寝みい。ちっと寝るわ」
そう言って椅子の背もたれを倒し、目を閉じる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます