第245話3年B組落ち武者先生

 ちなみに移動は原付である飯塚と田所。もちろん黄色ナンバー。エンジンはそのままだけど書類だけは改ざんしてある。都会での移動は原付の黄色、もしくはピンクナンバーが最強である。二段階右折の制限もなく六十キロも出せる。白ナンバーの原付はおまわりの餌食であるのが現実。しかもエンジンを切れば歩行者扱い。停車も場所をとらない。なにより渋滞知らずなのがいい。スマホをカーナビ代わりに現地へ向かう飯塚、田所。しかもブルートゥースイヤフォン内臓のフルフェイスのメット。しかも目立つようなドラレコなんか付けてない。指一本で録画出来る『眼鏡』をそれぞれがかけている。移動中もスクープは逃さないとの飯塚の考えである。


「冴羽君!」


「あ、飯塚さん。こっちっす。今、エコが野郎についてますんで」


 そしてコンビニに原付を停め、シートにメットと『眼鏡』をしまう。カーナビ代わりのスマホも外す。


「エコ君が?」


「ええ。二対一、いや飯塚さん入れると三対一ってのは癪ですが。お願いっす!あの金八先生だきゃあ俺一人にやらせてください!」


 え?金八先生?と思う飯塚。と、同時に、うーん、冴羽君は口喧嘩で負けたのかなあ、あの人って何でも上手いこと言うもんなあと思う飯塚。


「ま、まあ。いい動画が撮れれば…。俺は…」


「任せてください!宮部の真剣白刃取りを超えるようなのかましたりますから!金八先生を落ち武者にしたりますよ!」


 それはそれで面白いと思うけど…、コンプライアンス的にどうなのだろうと思う飯塚。


「ま、まあ。とりあえずエコ君と合流しよう」


「ええ。じゃあ金八先生についてるエコに電話しますね」


 そしてスマホを取り出す冴羽。その瞬間。


 ドゴーン!


 ものすごい音がすぐ近くから聞こえる飯塚と冴羽。スマホを手にしたまま飯塚と目を合わせる冴羽。そして言う。


「始まったみたいっす。行きましょう。おらあ、エコ!人の獲物を獲るんじゃねええええええ!!」


 音がした方向へダッシュする冴羽。それを追う飯塚。コンビニの先の角を曲がったところで冴羽が固まる。ヤバいことが起こっているのは想像出来る。そして飯塚も角を曲がる。そしてその光景に体が固まる。


「あ?おめえ…確か…」


 片手にバス停の土台、重そうな石がついてるあれを持ったロン毛の男と壁際にしゃがみ込んでいるエコ。エコの後ろの壁にはその土台の一撃が破壊したであろう跡が。


「公共物を破壊しちゃあいかんなあ。金八っつあんよお」


 左手を右肩に乗せ、右手をぐるぐる回しながら冴羽が戦闘モードに入る。その時飯塚は。


(うわー。デンジャラスだ…。つーか、全然金八先生じゃないよ!むしろ『あんちゃん』だよーーー!)


 そう思っていた。




 その頃。


「おう。時間通りじゃねえか」


「あ?てめえには一ミリも貸しは作りたくねえんでな」


 夜の工場で対峙する軍紀と新藤。


「兵隊の一人も連れずによお。相変わらず馬鹿は変わんねえなあ」


「うちに『兵隊』はいねえのはてめえがよく知ってんだろ。それよりてめえこそ『兵隊』仕込んでるなら先に出せよ」


「んなもんいねえよ」


「は?人の単車にGPS仕込むようなクソが今更カッコつけんじゃねえよ」


「ああ。らしくねえな」


「あ?」


「らしくねえのは自分が一番分かってんよ。おりゃあそういうのにイライラしちまってよ。そういうのは後にしねえか」


「そのイライラ、まとめて殺してやんよ」


 新藤が言い終わるのと同時に軍紀の側頭部目掛けて右足を振り上げる。会心の蹴りを両掌でキャッチする軍紀。


「てめえ。エンジニアはどうしたあ!?」


「あ?てめえ相手にゃこれで充分」


 右足を掴まれたまま新藤が体を後ろに倒しながら同時に掴まれている右足を思い切り下へと体重を乗せ、下がった両手でがら空きになった軍紀の顔面へと左足をぶち込む。

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