第243話今時珍しい極道
「おい。義経、間宮と二人。今ちょっと面倒な人たちがここに来る。こっちの部屋が空いてるからしばらくそこでいろ」
「世良さん。面倒な人たちって面白そうじゃないですか。ハブにするのはやめてくださいよ」
「間宮。正兄ぃを困らせちゃあれだから」
義経の説得で渋々と別室の個室待機所の一つへ移動する二人。さすがに自分の大事な書類が置いてある社長室には入れられない。
「おい。二人とも私物もあるから余計なことするんじゃねえぞ。ただそこに座ってろ」
そして駆けつけた『肉球会』田所を迎え入れる義正。
「さっき事務所の方へ電話くれた瀬和さんでよろしいですか?」
「ええ。ご苦労様です。早速中へどうぞ」
「失礼します」
そして池田やガムテープで両手足を縛りあげた強盗二人がいる電話番の部屋へと田所を案内する義正。部屋の中に入り、その光景を見て言う。
「瀬和さん。ここはデリだけじゃなく金融もやってるそうで」
「ええ。今はどっちかだけでは食べていけませんので。そのうち儲かる方に専念したいと思ってます」
「あ、いえいえ。うちはそういうお金を要求するなとおやじからきっちり教わってますんで。素人さんを泣かすような商売だけはやめてくださいとだけですね。あとは瀬和さんの自由ですんで。ほう。確かにこの二人の回状はうちにも来てますね。最近、この辺りだけでなく関東広域でタタキを繰り返してる連中です。大手組織を破門になった馬鹿どもです。この二人はきっちりうちの方で処分しときますんで」
「処分ですか?」
「ええ。まあ回状を流した組織に引き取りに来てもらうことになりますかね。それにしてもすごいですね。こいつらいろんなところで好き勝手やらかしてましたが、ボクサー崩れやそこそこ格闘技かじってる連中もひるんで一方的にやられたり言いなりになったりで、ショックの余り仕事をそのまま辞めた人が多いと聞いてます。まさか瀬和さんが一人で?」
まさか十四、五歳のガキ二人がやりましたとは言えない。それはガムテームで両手足を縛られた二人も同じであろう。
「まあ、たまたま隙をみてってやつです。うちの社員もよそと違って優秀な人間しかとりませんので」
「さすがですね。とりあえずこの件はうちに任せてください。この二人に『返し』などは一切させないとこの田所がお約束しますんで。他に被害などありましたら所轄の警察の方へ、と言ってもまあ動かないでしょうし。こっちとしてもややこしいのは…」
「ええ。うちうちで処理しておきます。被害もありませんし、何もなかったでいいと思います」
「助かります」
そう言って屈強な男二人を両肩に担ぎ上げる田所。念のため、再び暴れ出さないよう二人の腹に強烈な拳をのめり込ませる田所。
「手伝いますよ」
「いえ。大丈夫ですよ。下にうちのカシラが車で待ってますんで」
「え?住友さんがですか?」
「ええ。うちも小さい所帯でやってますんで」
「田所さん、この度はいろいろお世話になりました。若頭の住友さんの方にもよろしくお伝えください。このお礼はしっかりと近いうちに」
「そんな気は使わんでください。これが自分らの『役』ですから。それじゃあ何かありましたらまた」
そう言って二人の屈強な大男を両肩に担ぎその場を去る田所。
「正兄ぃ。あれってヤクザ?」
気が付くと義経と間宮が部屋から勝手に出て、義正の後ろに立っていた。
「ああ。今時珍しい極道だ」
「ふーん」
この事件の後、間宮は京山率いる九代目『藻府藻府』へ正式に加入する。世良義経も間宮から誘われるも集団で群れることが好きではなく、また暴力自体も好きではなかったのでその誘いを断るのであった。ただ個人的な友達付き合いはそのまま続けた。
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