第242話タタキ
「客と会ってくる」
「社長。問題客でもいましたか。なんなら私が」
「いや。デリの方じゃない。金融の方だ」
この頃には池田も義正が同じ事務所でデリヘルと並行して金融業を営んでいることを察していた。広告屋にしては生々しいやり取り。義正は常に冷静な口調で客を詰める。闇金に『届け出確認書』など必要ない。
外の喫茶店で紹介客の話を聞いていた。しばらくして事務所からの電話が鳴った。
「ちょっとすいません」
電話は店の営業電話ではなく女へのコール用の電話の番号。しかもスマホから池田の声は聞こえない。
「もしもし」
それでも返事はない。事務所で何かあった。それしかない。義正の勘が己に囁く。
「すいません。一時間ほどお待ちいただけますでしょうか。すぐに戻りますんで」
「ちょ、ちょっと!」
紹介客を喫茶店に残し急いで事務所へ戻る義正。
(今日は事務所へ来客の予定など他にはない。客に恨まれるようなこともしていない。タタキか?うちはホテヘルと違ってデリヘルだ。そう簡単に事務所の場所など特定は出来ないはず。辞めた女から漏れたのか?)
いろいろなこと想定しながら事務所へ走る義正。鍵をかけていないドアを開け、中に入る。そして奥の電話番の部屋へと歩く。用心しながら。金融業として使っている社長部屋には鍵をかけている。電話番の部屋の扉を開ける。
「池田」
「し、社長…」
目の前にはガタイのいい半グレどころかどう見ても本職であろう男二人が顔面から血を流しながら倒れ込んでいた。
「こいつらは…。池田。大丈夫か。何かされたか」
「いえ…。最初は社長の知り合いだと言ってたので。中で待ってもらおうと思いましたら。急に態度が変わりまして。…強盗です…。店の両替金から売り上げ、支払予定のお金まで…」
「そのタタキが何故血だらけで倒れている!?もしかしてお前が…?」
「いえ…、それが…」
その時背後から聞き覚えのある声が。
「俺だよ。正兄ぃ」
「義経!?」
義経とその後ろに退屈そうな表情で間宮が。
「世良さん。ご無沙汰してます」
「ああ、間宮。まさか義経とお前の二人でこいつらを?」
「そっすよ」
こういう風俗店や闇金へ強盗が入ることはたまにある。警察も堅気相手とは違ってこういう事件はろくに捜査もしない。被害届さえも受理しない場合が多い。いくら防犯カメラで犯人を特定出来るレベルで撮っていようが警察は動かない。それが現実。また、こういうタタキをするのは破門崩れの元ヤクザが多い。他にも不良外国人や半グレなど。そこに金があり、失敗してもリスクの少ないこういった業種を狙う。義正もその存在を噂には聞いていた。太い首に黒々と日焼けしたガタイのいい男二人を義経と間宮の二人で?その時、義正が思ったこと。義経は分かる。こういう見た目だが昔から柔道、そして合気道をやっていた。こいつをその見た目で舐めると自分でも勝てるかどうか。ただ間宮も傷一つ負ってない。こいつ…。
「池田。この二人がこいつらを」
「ええ。私が、とにかく二人がものすごい剣幕で怒鳴り散らしてまして…。なんかうちの店の女がシャブの金を払っていないと」
「それで」
「私もそれは当事者同士でお願いします。うちはそこまで管理してませんと言ったのですが…」
「それで二人組の片割れがお前を外に連れ出そうとする。外の車に女の写真があるから見て確認して欲しいと」
「そうです!」
「そしてお前を店の外に連れ出し、空っぽになった事務所でもう一人が金目のものを、まあ金だ。金をあるだけ回収する。それが終われば事務所に残った回収役がお前を拘束してる方に連絡してお前を開放する。その間に金を持ってこの場を立ち去るって算段だ。噂にゃ聞いてたが実際にうちがターゲットにされるとはな…。それにしても義経に間宮。助かったと言いたいが、こいつらは本職崩れだ。下手すりゃ命がなかったぞ」
「いや…、こいつらすげえ弱かったよ」
「世良さんが面白そうな店をやってるって義経から聞いたからさあ。暇だったんで来てみたら本当に面白かったですよ」
半分呆れながら、そして半分この二人に驚きながらとりあえず地場である『肉球会』へと電話する義正。こういう商売をしてようが『肉球会』はみかじめだとかうるさいことは言わない。
「はい。『肉球会』。はい?店にタタキですか?ええ。今からすぐに向かいますんで住所と電話番号いいですか。あとお名前も」
言われたことに答えながら「皮肉なもんだ。こういう時に連絡すべき警察ではなく地場のヤクザの方が頼りになるとは」と思う義正。そして四人で義経と間宮にぼっこぼこにされた男二人の手足をガムテープで縛る。『肉球会』が来る前に回復されて逃げられたら意味がない。それどころか恨みで再度狙われる。餅は餅屋。どうせ『肉球会』にも回状はいってるだろう。そして『通報』から五分とかからず現場に田所がやってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます