第232話人生相談

「それはわしの知らんことやで」


 間宮のリクエスト通り個室の店で間宮とメシを食う小泉が言う。


「でしょうね。自分も小泉さんには随分と可愛がってもらってますし、目をかけてもらってますんで。念のためです」


 高い酒、高いメシを前に、日本最大指定暴力団『血湯血湯会』の二次団体『身二舞鵜須組』若頭の小泉とサシで話をする間宮。ガードの人間もところ払いさせて二人だけの密談。


「まあ、桐山も瀬尾もうちの若い衆やが。おやじも言うとったわ。『素人のガキにええようにされてりゃあ世話ぁない』ってな。本来なら治療費やその辺をきっちり回収して終わる話やがわしの方からおやじにはきっちり説明しといた。『素人のガキじゃありませんよ。わしの大事な客人ですんで』とな」


「ありがとうございます。それで小泉さん」


「ん?何や?」


「ちょっと『河岸』変えませんか?」


「お、なんや。飯より女の方がええか」


「いえ。カラオケボックスですかね」


「カラオケ?そんなん女の店にあるやないか」


「まあ…。ただ、ちょっと大事なお話がありますんで。よく言うじゃないですか。『壁に耳あり障子に目あり』ですかね」


 個室の外には小泉のガードがいるのだろう。この話は小泉以外誰にも聞かせたくない間宮。念には念を入れる。


「ま、ええやろ。ほないこか。大事な話があるんやろ」


「そうですね」


 そして店を変える小泉と間宮。


「ご苦労様です!」


 案の定、店内のガードだけではなく店の外にまで『身二舞鵜須組』の若い衆が。ものすごい形相で睨まれる間宮。


「かしら」


「おう。なんやその目は。お前、わしに何ぞあるんか。いつでも聞いたんで、お」


「…いえ」


「ほないこか。間宮さん。おう、お前らカラオケボックスに案内せえ」


「はい!」


 そしてカラオケボックスの大部屋に二人きりで入る。歌う気などさらさらないが静かすぎるのもあれなので適当に大音量で曲を流す。そしてラインを取り出し小泉へ送る。


『一番これが安全です。今から会話はこのラインでお願いします。単刀直入に言います。『身二舞鵜須組』の若頭で満足してますか?』


 間宮のやり方に動揺し、そのメッセージを見てさらに動揺する小泉。そして返信。


『どういうことや』


『すでに小泉さんが今の関谷組長に退いてもらい次の組長の椅子に座る準備が出来てるってことです』


 そのメッセージを受け、視線をスマホから間宮へ移す。その表情はさっきまでの緩み切ったそれではない。




 軍紀の携帯が鳴る。


「なんだ」


 スマホには『世良』との表示。


「あ、軍紀?忍はどうしたの?知らない?電話でないんだけど。やられちゃったのかなあ」


「さあな。まあ電話に出ねえってことはそうなんじゃねえの」


「でよー。話は変わるんだけどさあ。あいつら負け犬が引退するのか伊勢さんの盃受けるのか俺らの下につくのか知らねえけどさあ。あいつらの『シノギ』はどうすんの?」


「それは…、間宮がそのまま引き継ぐんじゃねえの?知らんけど」


「でもそれって間宮君の余計な仕事を増やすことになんじゃね?金集めは下の俺らの仕事じゃね?」


「まあ、そうなるわな」


「じゃあよお。あの負け犬三人の『シノギ』は俺が引き継いでいいか?」


「あ?何寝ぼけたこと言ってんだ。あいつらがお前らの下についたってんなら筋は通るがまだそうと決まってねえだろ」


「そうなの?今、動画送るから見てくれる?」


 そう言って通話モードのまま画面をラインの画面にし、一本の動画を軍紀の携帯へ送る義経。同じく送られてきた動画を通話モードのまま確認する軍紀。そこには全裸で土下座している比留間と鹿島の頭を靴でぐりぐり踏みつける義経の姿が。


「お前…」


「いやさあ。俺、今、すっげえ迷ってんのよ。人生相談とか電話で聞いてくれるとことかあるじゃん。そこに電話しようと思ってるぐれえ迷っててさあ。とりあえずやれることをやるわ。忍はどうでもいいけどこの二人は俺がやったからさあ。好きにしていいよね?」


「…ああ。その二人を下につけたんなら二人の『シノギ』はおめえのもんだ…」


「え?こんなよええのいらねえよ。『シノギ』だけは引き継いであとはその辺に捨てるからさあ。街で見かけたらいじめてやってよ」


 世良義経は比留間、鹿島の二人を自らの手で叩きのめした。残された義経、軍紀、そして先にこの街へ戻ってくる三原、江戸川、天草の三人。間宮もまた名前を持たない最強の半グレ集団をコツコツと築き上げていた。

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