第230話ふりおふらんこ
「いらっしゃ…ふん、お前らか。まあええ」
「狭山さん…、客としてコーヒーを飲みにきました!」
「狭山のおじき…、二人ですがよろしいでしょうか?」
「いらっしゃいませー。お二人様ですね。あら」
「あれ…?」
狭山のおじきの喫茶店で若い女の子が。
「お久しぶりですね。飯塚さん」
「あ!」
悪徳デリヘルで無理やり働かされていた山本愛子であった。
「その節はお世話になりました」
いやいやいや、こちらこそ『その節くす』とかいろいろお世話になりました!と思う飯塚。と、同時に、何うまいこと言ってるんだ!俺は!男の屑か!と思う飯塚。と、同時に、普通に接するんだ!普通にと思う飯塚。
「あ、今はここで、あ、あ、アルバイトをされてるんですか?」
「はい。マスターが一人ウエイターを募集していると言ってくれまして」
「ふん、ホントに客として来たんか。うちの従業員目当てじゃなかろうな」
「いえ!コーヒーが飲みたくてです!」
「どうぞ。こちらのテーブルへ」
「はい」
そして注文する前にコーヒーと決めつけられ二人の元へと愛子が狭山の淹れたコーヒーを運んでくる。互いにタバコを吸いながら話始める。
「そっちはどうよ」
「うん。まあ、今はスタッフも増えて俺も入れて四人かな。何とか一日でも早くと頑張ってるよ」
「え、田所のアニキ以外にあと二人増えたん?」
「ああ。健司もよーく知ってる奴だよ」
「俺もよーく知ってる奴?え?誰や?」
「あの真剣白刃取りで有名な」
「宮部か!?」
「正解」
「じゃあもう一人は?まさか新藤?」
「ブブ―」
「え?じゃあ誰やろ…」
「たなりんって言って宮部っちと俺の共通のツレだよ」
「『たなりん』?…『たなりん』って…あの『たなりん千ミリグラム配合!うわ!めっちゃ入ってる!けど千ミリグラムって一グラムやん。それ言いだしたら私0・001トン痩せたわーって言われたらとっさに分からんやろ!』とおやじの教えにあるあの?」
神内さん…、的を得てますが…なんてことを…と思う飯塚。
「まあ…、ちょっと違うけど今度紹介するよ。あの宮部っちのツレであり、俺のツレでもあるからね。それよりちょうどよかった。健司にいろいろ聞きたいことがあってさあ」
「聞きたいこと?何や?」
「井上さんの歌う『ラルク』とか『宇多田』とか『エックス』って実際に聴けるかなあ?」
「あ…、まあ今はちょっとごたごたしてるんであれやけど。リクエストしたら聴けると思うで。他にも『ボヘミアンラプソディー』とかも本物と違いが分からんぐらいやし」
え!あの『ボヘミアンラプソディー』まで!めっちゃ聴きたい!聴きたい!と思う飯塚。ここんところ本当にいろいろあった、自分の招いた不始末で組や補佐である裕木にまで迷惑をかけてしまった、自分のことなど顧みず何とか補佐である裕木を守ったことで少しは自分の責を挽回した、けどまだまだこれから、それにしても疲れたと思っていた京山。ツレとの会話はそんないろいろを忘れさせてくれる。自分の後輩であった中山忍さえも数時間前に殺そうとしていた。今は大事なものが、守るものがある。堅気の皆さんを守ることが一番であるとの神内の教え。それでもやはり今回の件は自分の後輩である間宮がすべての元凶である。今後も同じような場面に遭遇するであろう。間宮とも一度タイマンをはったがあの時は伊勢の邪魔が入った。昔から率先して『キチガイになれ』と暴力の世界で生きてきた。今もそれは同じだが。目の前で無邪気に話している昔からのツレである飯塚と馬鹿なことを話していると心が落ち着く。
(こういうのも悪くねえなあ)
そう思う飯塚。住友の配慮に感謝しながら飯塚と昔話に興じる。
「お前あの時さあ」
「健司…、それはもう忘れてくれよ」
「いーや。忘れへんで」
「だったら健司のあのことも忘れんよ」
「あ!飯塚!それは忘れろよ!」
カランカラーン。
「いらっしゃいませー」
「いらっしゃ、ふん、今度はお前か」
「あれ?愛子ちゃん?」
「田所のあんさん!」
田所が狭山の店へ入ってくる。
「おう、健司久しぶり。飯塚ちゃん。こいつ昔『不二子ちゃん』を『フリオフランコ』って言ってましたからね」
そう言いながら二人の席へ合流する田所。
「いや、『ふーじこちゃーん』と『ふーりおふらーんこ』って似てるじゃないっすか!」
「似てねえよ!それより知ってます?田所のあんさん。健司って昔」
「飯塚ぁ!言うなあ!!」
狭山のおじきの店で束の間の平和を楽しむ京山であった。
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