第227話飼い猫が野良猫に吠える時

 地下室から一階へ上がりそのまま外に出る住友と京山。住友に聞きたいことがいくつかあった京山。


「でもかしら。なんで俺がここにいることを…」


 そう言いかけた京山はそのものの姿を見て言葉を止める。驚きと共に様々な想いが。


「健司…」


「飯塚…、お前…、なんでここに…」


 そして住友が言う。


「まあまあお二人さん。感動の再開はいいとして。とりあえずこの場を離れようや。小僧どものことや。サツがすでに動いてるかもしれん。飯塚さんは悪いがこっちのボロイ方を運転してくれるか。自分は健司の方に乗せてもらいますんで」


「はい!住友さん」


「かしら…」


「飯塚さんとはあとでゆっくり話せ。今はここをやな。分かるな」


「はい」


 そして住友が用意した車に一人で乗り込む飯塚。京山のプリウスに乗り込む住友と京山。運転は京山がする。


「健司」


「はい」


「この車はタバコ吸えるか?」


「ええ。どうぞ」


 そう言って灰皿を引き出す京山。そしてマルボロを取り出しそれを咥え自分で火を点ける住友。


「健司よ。お前の聞きたいことは大体分かる。何故あの場所にわしがって顔やな」


「ええ」


 プリウスを運転しながら住友の言葉に返事する京山。


「おじきや」


「おじき…?ですか?井上のおじきですか?それとも二ノ宮のおじきが」


「違う。あの美味いコーヒーを淹れる喫茶店の」


「狭山のおじきですか!?」


「ああ。あの街の情報はやはり狭山のおじきの早耳に聞くんが一番や。健司がなにかある時はあそこを使うってのも狭山のおじきからや。聞いた通りホンマに防音であそこなら何やっても聞こえんやろなあ」


「ええ。もともとあそこはツレがバンドの練習用にと作った部屋なんです」


「そうか」


「はい。ツレはあそこの会社に今は勤めてたか…辞めたのかは知りませんが、まああそこは自由に使えるよう仲間内で鍵も持ち合ってまして。今回はそれを借りておきました」


「そうか。あの小僧がだいぶ汚しとったようやが」


「ええ。まあ、今はほとんど使ってないと聞いてますんで。ほとぼりが冷める頃にきっちりと掃除は手配しておきます」


「ま、ま。その辺はええ。それよりわしが驚いたんは」


「かしらが驚いたんですか?」


「そうや。狭山のおじきから健司が無理して裕木のガードにほぼ二十四時間体制で入ってることは聞かされとった。おやじも言うてくださってたやろ。自分を責めるな、背負い込むなと」


「…はい。すいませんでした」


「まあええ。それよりわしがびっくりしたんは飯塚さんのことや」


「飯塚ですか?」


「そうや。達志から連絡があってすぐに車回してもろて。わし一人で行くってなってな。他の学や達志らが俺も連れてってくださいってうるさい中、飯塚さんが現れよった。達志は敦にも連絡したんやろ。相当焦っとったからなあ」




「飯塚さん…。どうしてここに?」


「それは…、言えません。勘弁してください」


「…それで。飯塚さんはユーチューバーですよね。これは確かに面白いネタなのかもですが撮影用のカメラは飯塚さんから預かっとります。それに今日の現場は飯塚さん向きではないかと」


「健司に、健司は人を殺すかもしれないんですか?」


「…、それは分かりません」


「住友さん、僕はヤクザの方のメンツとか筋とかそういうのは分かりません。ただ神内さんの教えは田所のあんさんからいつも聞かされてます」


「…」


「相手は確かに極悪非道な連中なんでしょう。半グレであり他のヤクザともつるんでる奴らかもしれません」


「でしょうね」


「これは甘えた考えかもしれませんし、『肉球会』の皆さんに意見することになるかもしれません。どうか健司に人を殺させるような真似はさせないでください」


「飯塚さん…。ヤクザは所詮ヤクザですよ。映画や漫画の世界とは違います。組のため、親のためなら懲役にも行きますし人を殺めます」


「…でしょうね。ただ…、ただ、それは僕が見てないところでやってください!健司は僕の大事なツレなんです!ツレに人殺しなんてさせないでください!お願いします!」




 ほんの数時間前のことを京山に語る住友。


「飯塚がそんなことを…」


「そうや。飯塚さんは普通に生きてきた人やろ」


「ええ。そうですね」


「それがお前のことを『大事なツレ』と吠えた。どヤクザのお前に『人殺しをさせるな』と吠えた。あの人はすごいのお」


「…ええ。そうですね」


「健司、お前堅気に戻るか」


「いえ。それはありません」


「そうか。まあ、飯塚さんの言葉があったからのお。間に合ってよかったが。お前あれ、一発目に弾ぁ入ってたらどうしてたんや。飯塚さんもさぞ落ち込んだやろうな」


「…はい」


「まあ、わしも甘いんは好きやがな。狭山のおじきのコーヒーも甘いんが美味いんや。今度一緒に飲みに行くか?」


「はい!お願いします!」


 そしてそのまま地元へと車を走らせる京山と飯塚であった。

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