第199話それナリ
「伊勢さんさあ。今はヤクザも人手不足なんすよね」
「ん。まあな。今は不良がそのまま組に入る時代じゃねえのはお前がよく分かってんじゃねえのか」
「そっすね。半グレの方が古いしきたりやサツの縛りを考えればすね。バイト感覚で辞めるのもラインで済む時代ですしね。エンコ詰めるのも今はないでしょ」
「あんなのしてりゃあ即逮捕や」
「それに伊勢さんところの人たちは…」
「ええぞ。そのまま言え。お前の言う通りや」
「金を稼ぐのも腕っぷしも中途半端と言いますか」
「このガキゃあ、ホントに口にしやがって。まあ、うちの小沢もガキの族に瞬殺されてるからなあ。反論も出来ねえよ」
「それでなんですが。うちの幹部クラス。まあ、うちの幹部連中は俺から見て『それなり』っす。うちもいつまでも組織としてつるむつもりもないっす。半グレもそろそろそれに見合った法律が出来るでしょ。点と点が線にならない組織を作ります。『模索模索』もそろそろ割りますんで」
「何が言いてえ」
「うちに『負け犬』はいらねえ。ただうちにいた『負け犬』はその辺の本職より使えます。伊勢さんにはその『受け皿』になって欲しい」
「あ?どういうことだ?」
「とりあえず『模索模索』の幹部五人に『藻府藻府』を割らせました。五人ともそれなりの『シノギ』も持ってます。また一人一人が『それなり』っす。そいつらには列を組むのも自由、この街のてっぺん目指して争うのも自由、俺に歯向かうのも自由と伝えてます。ただ、負けた奴ですね。これだけの『好条件』で負ける奴はうちにはいりません。ただ『それなり』に使えます。負けた奴には三択から選べと伝えてます。負けた相手の下につくか、不良を引退するか、もしくは伊勢さんの盃を貰って極道になれと。もちろん『シノギ』は没収しますが」
「おおこら!何勝手ほざいとる!とはまあ言わねえよ。俺の盃をやるやらねえは俺が決める。ただ、お前が『それなり』って言うからには『それなり』なんだろ?まあうちに来てえなら俺の好きに使っていいってことだろ」
「お任せしますよ。まあ、『ハッパ』ですよ。『ハッパ』。『それなり』ですが小沢さんよりは全然『それなり』っすよ」
「おめえ…。まあええわ。組織の若返りも必要やからのお」
剣山を装備した比留間。新藤の考えは変わらない。
「(剣山だろうと掌底だろうとまともに食らえばやべえんだよ。まあ基本カウンターをエンジニアでか)」
「逃げてんじゃねえ!逃げてんじゃねえ!逃げてんじゃねえ!」
「逃げてねえよ。この生け花野郎が。おしゃべりしてねえでかかって来いよ」
「死ねやあ!」
剣山を手にした比留間の突っ張りが繰り出される。それをしっかりと目で出来る限り見る新藤。ものすごい速さの突っ張りだろうが軌道と向かってくる剣山を見ながらそれを交わそうとする新藤。そして交わす。二発目、三発目も交わす。伸び切った腕を折るかと考える新藤。そんな中、四発目。新藤の体に叩き込まれた京山ら先代の教えが仇となる。交わされようとお構いなしで突っ張りを繰り出す比留間は剣山を手にした四発目の動きを変えた。
思い切り反動をつけながら繰り出された四発目は明らかに新藤を狙っていない。届くような軌道ではない。
「(ん?比留間の野郎。フェイントか?)」
と同時に比留間の手からものすごい力のベクトルが乗せられた剣山が放たれる。比留間は剣山を飛び道具として使ったのである。想定外の攻撃。腕でのガードも間に合わない。やべえ、当たる、そう思いながら顔面にものすごい速さで迫ってくる剣山をギリギリまで目で追いながら上半身と首を素早く回転させながら顔もギリギリまで交わそうと動かす。
シュッ!
回転させるも剣山は新藤の右頬をざっくりと捉えていた。右頬から血を流す新藤。
「逃げてんじゃねえぞお、新藤ぉ。『実弾(タマ)』はまだいくらでもあるからよお」
「比留間よお。おめえホントに『馬鹿』だろ」
新藤が攻めに転じる。
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