第190話ぱたぱたまま

 伝統ある『本物』の『藻府藻府』特攻服を着る三人。


「これを…。健司も昔は同じものを…」


 胸に込み上げるものを感じる飯塚。


「いいっすねえ。おやじの教えを思い出すっすよ。今日からオレオレっすねえ。あ、ダメダメ。オレオレはダメっすよ」


 田所の言葉に神内さんの教えは本当に幅広いなあと思う飯塚。


「宮部っち。ちょっと地味すぎじゃないなりか。もっと『赤』をメインに学ランとかをイメージしたものやサテン系の光る素材を使った方がカッコいいと思うでござるが」


 たなりん!なんてことを言うんだ!調子に乗ってると現役の方にぶっ飛ばされるぞ!と思う飯塚。


「たなりん。それは失礼だよ。このトップクはものすごく歴史のあるものなんだよ」


「あ、大丈夫ですよ。飯塚さん。たなりんさあ、ちょっと動いてみて。田所さんも飯塚さんもです」


 アクションに備え新しい特攻服でスムーズに動けるか確認する三人。ものすごい速さの蹴りやパンチを繰り出しながら鼻歌を口にする田所。


「パタパタママ、パタパタママ、パタパタ。かっこ。原文ママ。かっことじ」


 ものすげえ蹴りにパンチだ、と思う『藻府藻府』メンバー。と、同時に、え?と思う『藻府藻府』メンバー。ヤバい!と思う飯塚。そこで宮部が始める。


「ちょっとみんな聞いてくれ。お前ら、将来の『夢』はあるか?」


 いきなりのこの発言に黙り込む『藻府藻府』メンバー。そしてコージが口を開く。


「『夢』ってなんだよ。宮部ぇ。でもよお。俺は将来『サスケ』に出てえとは思ってるかな。それが『夢』なのかは分かんねえけどな」


「おお。でもコージの身体能力なら余裕じゃね?」


「ああ、やれると思う」


 コージの後に二ちゃんが続く。


「俺はまとめサイトの管理人とかかなあ。まあぼんやりとしか考えてねえけど」


 らしくない質問にらしくない胸の内を口にする若者たち。宮部は続ける。


「先代の京山さんからも『お前らはヤクザにだけはなるな』と口酸っぱく言われてる。まあ、ヤクザの京山さんが言うのもどうなのかと思うところはあるが京山さんなりの親心つうか、優しさだと俺は思ってる。他の先輩方を見てもそうだ。大体組関係に所属してる。俺らも族やりながら金は働いて稼いでるし、学校なんかとうの昔に辞めてる。行く意味がねえと思ったから俺は辞めた。不良ってのは学歴や就職には何の意味もねえ。むしろマイナスしかねえ。履歴書にケンカ無敗って書いても馬鹿だと思われるだけだ。けどよ。楽しいよな。俺は勉強はいつでも出来ると思ってる。まあねえと思うけど。この先生きててなりたいものが見つかったとしてよ。そのために勉強が必要になったらその時に勉強すればいいと思ってる。ただよお。十代ってのはその時しかねえ。後から後悔したくねえ。だから好きなこと、やりてえことをやってる。だから真面目坊や他の頑張ってる奴の足を引っ張ることや邪魔することはしねえとも決めてる。粋がった馬鹿がいればトコトンやる。そうやってきた」


 宮部の話を黙って真面目に聞く『藻府藻府』メンバー。田所、飯塚。そして「え?撮影はもう始まってるなりか?」と思っているたなりん。


「なんでもかんでも時代のせいにするのはダセえよな。今はヤーさんまで『暴対法』だ『使用者責任』だ、と。だったら組辞めて勉強しててめえで稼げって思ってる。オレオレとか薬とかダセえことしてんじゃねえと思ってる。そんな時に京山さんの『肉球会』の親分さんがアイデアを出した。『肉球会』は昔気質でいい極道だと思う。みかじめ料を取ったりしねえし、オレオレや薬もご法度。そして堅気の方に迷惑をかけないように新しいシノギとして『ユーチューバー』をやってみないかというアイデアだ。すごくねえか。田所さんはその先駆者として自分から組を『破門』してもらい、同じくユーチューバーであった飯塚さんと一緒にその活動を始めている。組チューバーだ。まだチャンネルは開設してないが、動画はすでに何本か撮られてる。違法なデリヘルを退治したり、ぼったくりバーを退治したり。俺は本当にすげえと思った。時代のせいにしないできっちりと対応する。俺の夢は『族チューバー』だ」


 宮部の話を真剣に聞き続ける『藻府藻府』メンバー。田所、飯塚。たなりんだけはモヤモヤしていた。


(たなりんの役とかセリフを聞いてなかったでござる…。いつ聞けばいいなりか?)

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