第186話解釈

「比留間負けちゃったじゃん。それでもつええのかよ」


「ああ。新藤が比留間よりつええ。それだけだろ」


「なんだよ。えらく新藤を買ってるじゃねえか。軍紀」


「そんなんじゃねえよ」


「で、どうすんだ。間宮が戻るまでにきっちり仕事しとかねえと怒られるんじゃねえの」


「ああ…」


「比留間はここで脱落かあ。まあ所詮新藤に勝てねえ奴だろ。小手先の悪さして終わりかあ。弱い者いじめして女にいたずらして挙句の果てにタイマンで負けてりゃあ世話ねえな。次は世良か。鹿島か」


「忍。お前は動かねえのか」


「あ。俺は俺のやり方でやるぜ。たきつけてるつもりか。お前こそ新藤とやれんのかよ」


「やれるとかじゃねえよ。潰さなきゃあいけねえんだよ。やるのは比留間でも言えんよ」


「へいへい…。ま、世良や鹿島じゃあ無理だろ。お前が新藤、俺が宮部でいいか」


「やるのは『藻府藻府』だけじゃねえだろ」


「へいへい…。『肉球会』の方もだな」


「どっちにしろ。間宮は仕事がはええ。ちんたらしてっと俺らガキの使いになっちまうぞ」


「ま、こんなとこでのんびりタバコなんか吸ってたらな。江戸川たちが間宮と動いてんだろ」


 そう言ってタバコを中指で弾き忍と軍紀は別れる。




「正兄ぃ。『無料情報館』を潰すにゃあどうすればいいの?」


「あ?」


「街にたくさんあんだろ。風俗の『無料情報館』。あれの潰し方のこと。あれって『グレー』じゃねえの」


「お前、『無料情報館』を潰してえの。やり方はまあないこともない。でもこの街の『無料情報館』は『肉球会』のシノギ。お前…」


「うん。それを潰したいんだけど」


「…俺は反社と付き合いはない。過去に反社と付き合ってずぶずぶになって終わった人間を見てきた。そういうのはあんまりな。あと、『肉球会』は俺が言うのもなんだが今時珍しい『いい極道』だと聞いてる。『肉球会』の肩を持つわけじゃねえがそういうのはいくらお前でも教えられねえな」


「正兄ぃ。ちげえよ。冗談だよ。ちょっと知識として知りたいと思ってさあ」


 弟の義経を観察するように眺めながらタバコを咥え、火を点ける世良兄。そして独り言のように始める。


「ああいうのはすべて風営法で規制されてる。その風営法もコロコロ変わる。それに風営法自体、解釈次第でいくらでもひっくり返すことは出来る。例えばだ。無店舗型一号の条文にはこうある。『人の住居又は宿泊の用に供する施設において異性の客の性的好奇心に応じてその客に接触する役務を行う者を、その客の依頼を受けて派遣することにより営むもの』とある。お前ならこの文章をどう解釈する」


「ん?住居やホテルに女を派遣、デリの条文?」


「女とは書いてない。『異性』としか謳っていない」


「あ、男の娘ってやつ?」


「ああ、そうだ。同性ならハコを持って堂々とやれるってことだ。こういう知識を持つ持たないで今は大きく変わる。ハコを持ってやれるってのはそれほど利益が出しやすい。箱型のヘルスやソープなんざ既得権があるから存在している。届け出が法人ではなく個人のものだったらその権利も有限になってしまう」


「へえ」


「『無料情報館』、まあ基本として病院施設、ベッドのある病院や児童施設、まあ学校だ、それらが半径うんちゃらメートル以内にあればアウト。それは絶対だ。まあその辺は普通に営業を考えるなら行政書士あたりがしっかりとチェックしてるだろう。ただ『グレー』な部分も多い。『裏技』を使えばいくらでもってな」


「なんだよお。勿体つけずに教えてくれよ」


「勉強したいんだろ。ちっとは自分で考えろ」


 他の街なら暴力団がやれ『月会費』だ『組合費』だと法外な金額を吹っかけてくるこの業界で何も言ってこない、商売の邪魔をしない『肉球会』の邪魔は世良兄もしたくないのが本心である。

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