第182話『デスライン』

「ええ、頭は鹿島って言う馬鹿が張ってますが、まあ『模索模索』の兵隊の三分の一ぐらいがその鹿島の兵隊です。間宮の下に付いたいきさつは知りませんが昔からよくつっかかってきてたチームです」


「ほうほう。数が多いところを最初に潰すってことっすか?」


「そうですね。それもあります。ただ」


「ただ?」


「まあ強い奴は数えるほどで本当に数だけのチームですが『無茶』するチームです」


「無茶?どれぐらい?」


 健司の後輩であり、『藻府藻府』頭の宮部っちをもってして『無茶』をするってどれぐらいなんだろうと思う飯塚。


「道具なしではケンカ出来ない連中の集まりって言えば分かりやすいかと」


「ほおー。エモノって一長一短なんすよ。飯塚ちゃん」


「そうなんですか。田所のあんさん」


「ええ。子供の頃に『泣いてから』強い奴とかいませんでした?」


「あ、いますねえ」


「それをイメージすれば分かりやすいっすよ。普段おとなしくて真面目な奴が突然切れて刃物振り回すってあるじゃないっすか」


「ありますねえ」


「まず普段から使い慣れてないから考えなしに振り回す。その辺の通行人なら『対処法』を知りませんから切られますがそれを知ってる相手には通用しません。力が入るから動作も大きくなる。だから軌道が分かる。だから簡単に避けることが出来る。それとエモノ持ってるとどうしてもそれに頼ります。金属バットでも刃物でもいいっすよ。それを持つと蹴りや拳なんか使わないでしょう」


「なるほどー」


 そこで宮部が付け足す。


「それを数で補ってるんですね。タイマンなら絶対もらわないようなのを乱闘だともらうこともあるんです。逆に数が集まってない時は弱い。数日前にもうちのメンバーがあそこのメンバー数人とかち合いましたけど瞬殺でしたんで」


 え?そうなの、勿体ない、動画に撮っていれば…と思う飯塚。そんな飯塚をワクワクさせるようなことを宮部が言う。


「まあ、鹿島のバカと『宇佐二夜』とは自分が中坊の頃からいろいろありましたし。個人的には言いたくないですが『よくあんなのを間宮は下につけたなあ』って思いますね。誰かの下につくような奴じゃないのは自分が一番知ってますんで」


「うーん、『あんとらーず』君かあ」


 田所の言葉にうわー、と思う飯塚。


「あ、それは鹿島の前では禁句ですね。中坊の時、ふざけてそう呼んだ奴がバットでぼっこぼこにされました」


「じゃあ、『艦これ改の』とか言うと?」


「さ、さあ…。それはまだ聞いたことないですね…」


 そう言いながら、田所さんってけっこう『いける口』だなあと思う宮部。


「まあ一気に『藻府藻府』を二手に分けてやりたいところですが、動画撮影がありますんで。一日一殺で行こうと思います。ちなみに鹿島は通称『マシマシ』って呼ばれてます。昔は『デスノート』ならぬ『デスライン』って呼ばれてましたが」


 え?と思う飯塚。興味を持つ田所。


「え?なんで『マシマシ』っすか?『デスノート』好きから『ラーメン』好きになったんすか?」


「『あんとらーず』は嫌みたいですが『中田氏』みたいなもんですかね。『鹿嶋市』で『マシマシ』だったような。あ、『デスライン』はあいつの『ラインメモ帳』に名前を書かれた奴は死ぬって意味からです」


 うわあ…、サムネイルに使いたい…、と思う飯塚。と、同時に『名前が書かれたら死ぬライン』をイメージし、そんな動画絶対見たい!と思う飯塚。


「それで明後日に『宇佐二夜』の集まりがあると。それを襲って幹部もまとめて潰す予定です」


「まあ、明後日って急な感じするけど全然いいですよね。田所のあんさん」


「そっすねえ。地域住民の方専用の連絡電話もまったく鳴りませんし」


「いえ。逆に急がないといけないのはうちの方でして」


「え?どうゆうことっすか?」


「間宮の野郎、うちの特攻服を『模索模索』の連中に着させて悪さしてるようなんです」


「え?そうなの?」


「でも市民の皆様用の駆け込みホットラインも鳴りませんし…」


「困って頼りたくても頼れないんじゃないですか?間宮ならそういうやり方をしますよ」


「なるほど…」


 え?と思う飯塚。と、同時に頭をフル回転させ、まさか…、と思う飯塚。田所が分かりやすく言う。


「飯塚ちゃん。いじめられっ子が大人に相談出来ない理由、恐怖でプレッシャーをかけるのがセオリーっすよね。大人が異変に気付いて普通に聞いてもその事実を隠すのに似てますね」





 その頃。


「おい。間宮。そろそろいいんじゃねえ。走んの疲れるし」


「あ?まだ百メートルも走ってねえじゃん」


「で、これからどうする」


 タバコを取り出し火を点ける間宮ら四人。そしてメインとは違うスマホを取り出す間宮。


「そうだなあ。とりあえず『こいつ』に爆弾のスイッチ入れてるからよ」


「爆弾?」


 三原の言葉に答える間宮。


「爆弾のスイッチな。爆弾はさっきチンピラのスマホの方に仕込んどいた。まあ、見つけやすいとこにぶん投げたからさあ」


「ああ、さっきの満喫でいろいろしてたあのスマホ?」


 江戸川の言葉に答える間宮。


「そ」


「なんだよ。ぶん投げたスマホとか爆弾とかよお」


「まあいいじゃん。後からゆっくり説明すっから。次は新しいペアで回るか」


 そしてその場で『グーパー』を始める間宮たちであった。

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