第177話へた
「だとよ。兄ちゃん。今のは『蹴り』じゃねえから。で?」
江戸川に床へ倒された男が急いで後ずさりしながら上半身を起こす。
「おい。兄ちゃん。携帯貸して。どうせ上のもんを呼ぶんだろ。俺が呼んでやるからよ」
「シャレじゃねえんだよ!ガキらあ!」
スマホを要求された男が怒鳴りながら近くにあったウィスキーのボトルを手に取りその先端をカウンターにぶつけ割る。
「きゃああああああああああああああ!!」
「はいはい。お姉さんが怖がってるよ。そっちは任せたから。お姉さん。スマホ貸して」
割れて先端が尖ったボトルを手にした男を江戸川に任せ、新しいタバコを咥える間宮。仕事しろよと言わんばかりに女へ火を点けるよう右手で要求する。
「てめえら!死んだぞ!ごるあ!」
そんな男の怒鳴り声も二人には威嚇にもならない。ケンカが始まれば『口』より先に動かすものがあることを京山から叩き込まれていたから。
「兄ちゃん。下手や」
そう言って江戸川が男へ近づく。射程距離に入った江戸川へ何かを怒鳴りながら尖ったボトルの先端を刺す男。それをかわしながら同時に男のみぞおちへと安全靴の先端をめり込ませる江戸川。男が激痛で悲鳴をあげながら崩れ落ちる。そのまま男の手から割れたボトルを取り上げる江戸川。
「兄ちゃん。まずな、こういう道具は『タイマン』向きじゃねえんだわ。どうしても使うなら鈍器としてや。ドスとちゃうんやから。モデルガンと一緒やで。あと、エモノ持つとどうしてもそれに頼る。攻撃も単調になる。百回やっても刺さらへん。割るなら相手のどたまか固いところでや。それか投げるかや」
「おいおい。お姉さん。人にスマホ渡す時は『セキュリティー』解いてくれんと。接客業してんなら常識じゃね」
タバコに火を点けてもらい、女からスマホを受け取った間宮が言う。震えながらスマホのセキュリティーを解く女。そしてそれを奪い取るように手にした間宮が楽しそうに女のスマホを弄る。
「お、ツイッターやってるじゃん。へえー、アカウント五つ使ってんだあ。卵アイコンは裏垢ってやつ?お、なんか面白そうなアカウントあるじゃん。DM見ていい?てか見るけど。うわあー」
モザイク無しの男性器の画像や卑猥なやり取りのログを見て笑う間宮。
「ちょ!やめて!返して!」
「何を?」
その一言と間宮の表情で蛇に睨まれた蛙のように危険を察知した女は抵抗を止める。江戸川の授業も進む。
「こういうのは確実に刺せる状況で使うこと」
ザクッ。
「つうううううううううああああああああああ!」
躊躇することなく割れたボトルの先端を男の太ももに突き刺す江戸川。そして激痛で悲鳴を上げる男の頭を軽くはたく。
「これぐれえで大袈裟なんだよ。ほれ、お前も携帯出せよ。俺が『上のもん』を呼んでやっからよお。あとよお。エモノはお前が選んだんだぜ。刺すんなら刺される覚悟も当然あるよなあ。基本だぜ」
そう言って男の太ももに刺さったボトルを一気に抜きとる江戸川。またも男の悲鳴。
「がああああああああああああ!」
もう一度男の頭を軽くはたきながら血だらけなったボトルを男の顔面に突き付ける江戸川。
「うるせえよ。おさらいな。こういうのは確実に刺せる状況、不意打ちかこういう確実に刺せる時な」
「おいおい。江戸川ぁ。このお姉さんすげえぞ。ねえ、これ顔映ってないけどオナってんのお姉さん?」
「おいマジ?俺にも」
江戸川がそう言った時、集団の若い男たちが現れる。手にはそれぞれエモノを持って。
「何やってんだごるあ!死んだぞてめえら」
女のスマホから視線を男たちに移す間宮。江戸川が一言。
「下手」
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