第161話文武両道

 突然の田所の『申し出』に驚く飯塚と宮部。田所は続ける。


「実は健司から話がありましてね」


「京山さんからですか」


 あ、さっきの電話かなあ、と思う飯塚。飯塚の部屋を汚さないよう丁寧にタバコを咥えて火を点ける田所。そして続ける。


「ええ。あいつは俺に『肉球会』を抜けて『藻府藻府』に復帰すると言ってます」


「…」


 京山の想いを想像しながら黙って田所の話を聞く宮部。へえー、健司の奴…、そんなこと考えてんだ…と思う飯塚。熱いお茶を一口飲み、「あちっ」っと言い、田所は続ける。


「つまりはこうっす。『肉球会』は『極道』であり『反社』なんすよね。今は『半グレ』の方が闇に潜りやすいんす。悪事を働きやすいんすよ。『蜜気魔薄組』がまさにそれをやってるんすね。『肉球会』のシマウチを自分らの手を汚さず半グレ『模索模索』の連中にやらせる。それに『模索模索』の頭の間宮って小僧はかなりの『文武両道』と聞いてます。いずれ『模索模索』は『蜜気魔薄組』も食うでしょう」


 『文武両道』?あ、頭もキレて腕っぷしも強いってことね、と思う飯塚。宮部が言う。


「田所さんのおっしゃってることは間違いないです。うちが『蜜気魔薄組』のフロントをぶっ潰したり、『模索模索』の幹部をさらってしめた時もそんなことを耳にしましたね」


「さらった?その話、ちっと詳しく聞かせてもらえませんか」


 田所の言葉に元『藻府藻府』中山忍をさらった時の話を詳しく話す宮部。宮部の話を聞きながら『藻府藻府すげえー』と思う飯塚。目を瞑って口にタバコを咥えたまま腕を組み、宮部の話を黙って聞く田所。そして落ちそうになったタバコの灰を飯塚の部屋を汚さないよう灰皿に落とし、熱いお茶に口をつけ、「あちっ」と言い、田所が言う。


「『蜜気魔薄組』の今の組長は伊勢って人間です。自分が思うに伊勢より間宮って小僧の方が危険ですね。うちの補佐をアイスピックでメッタ刺しし、それも最初はうちのおやじを狙ってです。それも単独で。それから健司のボーガンの件。『蜜気魔薄組』の先代若林殺害もまだ実行犯は捕まってませんし、それで伊勢から『肉球会』に茶番のケツを持ってこられてるようですが。健司は半グレに対抗するには『肉球会』若い衆京山より『藻府藻府』京山の方が動きやすく物事の早期解決にもなると自分なりに出した結論でしょう」


「京山さんはそういう考えで…、自分らが不甲斐ないばっかりに…」


「いえ。宮部君。これは決して名門『藻府藻府』を悪く言うつもりではありませんが。宮部君や新藤君、他の現役メンバーも『未来ある青少年』であり『未成年』ですよ。うちのおやじも最初から健司に『後輩たちに深入りさせるな』と徹底して明言してました。健司も相当悩んだと思いますね。おやじの教えである『とっとと止めたろう』っすね」


 田所の最後の言葉で思わずポカーンとする宮部。それを見ながら、うんうん、最初はみんなそうなるよね。神内さんの教えはすごいんだけどねと思う飯塚。そして飯塚が言う。


「つまり『肉球会』をすでに辞めている田所のあんさんは『堅気』であり、尚且つ、健司と同じぐらい強い。その田所のあんさんが健司の意思を継いで『藻府藻府』にってことですね」


「そうです」


 そう言って田所が宮部の前で正座に座り直し改めて頭を下げる。


「『藻府藻府』総長宮部さん、自分を『藻府藻府』の末端メンバーに入れてください」


 そこで飯塚も急いで正座し頭を下げる。


「田所のあんさん一人にだけいいかっこはさせません。僕も『藻府藻府』の末端メンバーに入れてください。お願いします!」


 二人の男から漢気を見せられた宮部は冷静に言う。


「とりあえずお二人とも頭を上げてください。大事なのは『とっとと止めたろう』ですよね」


 宮部の言葉を聞き、田所と飯塚は思わず頭を上げて顔を見合わせる。

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