第160話あの有名な
「宮部です」
「あ、宮部っち。今大丈夫?」
「はい。飯塚さん。何かありましたか?」
「あ、ちょ、ちょっと」
飯塚の携帯を強引に取り上げて電話を代わる田所。
「ごめんごめん。田所です。分かります?『あの有名な7・3の』です」
「田所さんですか!?あの京山さんの兄貴分の」
「そっちの方で覚えられてんのかあ…。あ、ごめんね。ちょっと大事な話があってね。近いうちに時間取れません?連絡先知らなかったので飯塚ちゃんに仲を取り持ってもらいました」
「大事な話ですか?それなら今から行きます。どちらへ行けばよろしいでしょうか?」
「ちょっと待ってもらえます?」
そう言って、飯塚の携帯から耳を離し、飯塚に話しかける田所。
「飯塚ちゃん。今からここに宮部君を呼んでもいいっすか?」
「いや…、別にいいですけど…」
そしてすぐに再び携帯に向かって話始める田所。
「あ、すいません。お待たせしました。飯塚ちゃんの家は分かります?」
「いえ。会うのはいつも外なんで」
コミケや電気街で会っているとは言えない…、と思いながらそう答える宮部。と、同時に、たなりんや飯塚さんとも交流はいつも外かスマホだよなあ、そういえば『ツレ』なのに家へ遊びに行ったことがないのかあ…、とも思う宮部。
「じゃあ今から住所を言うから。あ、ラインの方がいいですよね?」
強引に話を進める田所。そしてすぐに飯塚の携帯からラインが宮部の元に届く。
『ごめんね。強引で。住所は〇〇市〇〇町〇〇ハイツ〇〇◇号室。バイクはマンションの駐輪所に停めていいからね』
短いメッセージに飯塚の気遣いを感じる宮部。そしてすぐに単車を走らせる。
「あ、バイクの音っすね。宮部君早いっすね」
「ちょっと駐輪所の場所とか詳しく教えてないんで。僕、出迎えに行ってきますね」
「じゃあ自分はお茶の準備をしとくっすね」
そして部屋の外に出る飯塚。
「宮部っちー」
「あ、飯塚さん。お待たせしました。バイクはここで大丈夫ですか?」
「あ、そこで大丈夫。それであのお…」
「どうされました?」
「いや…、田所のあんさんにはまだ僕や宮部っちの『趣味』のことは言ってないんだよね」
「マジっスか!よかった…。いや、自分もそれが一番気になってましたんで…。じゃあ田所さんの前ではその話はオフレコと言うことで」
「だね。まあ、頃合いをみていつかは話すことになると思うんだけど…。僕はいいけどたなりん君や宮部っちのことはやっぱり僕の判断で勝手にペラペラ喋ることも出来ないしね」
「飯塚さん…」
『藻府藻府』頭である自分のことだけではなく、たなりんのことまで…。飯塚さんの他人を思いやる心は素晴らしいと思う宮部。
「まあ、今日の大事な話って実は僕もまだ聞いてないんだよね」
「そうなんですか?」
そう言って話しながら飯塚の部屋へと歩き出す二人。
「田所のあんさーん。宮部っちが来てくれましたー」
玄関のドアを開けてそう大声を出す飯塚。そしてそのまま宮部っちを部屋にあげる飯塚。
「お邪魔します」
「あ、いいからいいから。だいぶ散らかってるけどごめんねー。こっちこっち」
飯塚の後ろを『ドラクエ2』のとんぬらのようについていく宮部。そして部屋のドアを開ける飯塚。すると。さっきまで散らかっていた部屋が綺麗になっているのに驚く飯塚。
「宮部君。いらっしゃい。急に呼び出してすいませんね」
そして『失礼します』と言いながら机の上に熱いお茶とおしぼりを置く田所。え?おしぼりなんかどこにあったの?と思う飯塚。
「いえ。全然大丈夫です。それよりこちらこそお構いなく…」
田所の出迎えに恐縮する宮部。
「田所のあんさん…」
「いえ、客人に失礼のないようにと。おやじの教えですから」
いや…、客人て…、ツレですよ…と思う飯塚。
「宮部っちも遠慮なく座ってよ。田所のあんさんもです。あと『客人』とかはよく分かりませんが僕が『肉球会』の事務所に行った時みたいなもんですよね。宮部っちは『ツレ』ですからね。宮部っちもそんなに恐縮しないで。ね、ね」
飯塚の言葉に深く反省する田所。
「そっすね…。宮部君。呼び出しといて気を遣わせて申し訳ない」
「いえいえ。京山さんの兄貴分である田所さんに」
そこで田所が宮部の言葉を、右手を上げて制する。
「京山さんの兄貴分とか止めましょう。自分は自分です。田所っすよ。宮部君」
そしてようやく『大事な話』が始まる。
「え!?」
田所の提案に驚き、思わず声を出してしまう宮部と飯塚。田所の言葉。
「自分を『藻府藻府』の末端メンバーに加えてもらえませんか?」
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