第150話じゃけんの贈り物

「『蜜気魔薄組』の方はどうや。お前にごちゃごちゃ言う奴はおらんようになったんか」


「はい。伊勢さんがその辺は上手くまとめてくれてますので。それも全部小泉さんがしっかりと動いてくれたおかげだと感謝してます」


「伊勢はどうや。若林はどっちが殺ったんや」


「いえ、それはまた違う人間の仕業と聞いてます」


「まあええ。そういう『こと』で聞いとくわ。お前なりに次のことも考えてんのやろう」


「伊勢さんはさすがにそのままって訳にはしないみたいです」


(たぬき野郎が…)


 間宮は伊勢から聞いている。『蜜気魔薄組』の組長となった伊勢からも『身二舞鵜須組』には若林の時と同じ額の上納を収めていることを。それとは『別』で間宮からの『金』を個人的に受け取る目の前の男。小泉。『手渡し』の現金、大金ほど美味いものはない。


「そうなんか。まあなんかあればいつでもわしんとこに連絡せえよ。あとなあ。こんな『金』貰っといてあれやが。『これ』お前にやるよ」


 そう言って自分がつけていたブランド物の高級腕時計を外し間宮に手渡す小泉。


「いいんですか。ありがとうございます」


「お前から見たら安もんやろうけどな。それは懲役にいっとるわしの兄弟分から宅下げで買わされたもんじゃけんの。なんや特注らしいで」


「そんなものをいいんですか?」


「ええからええから」


「(どうせバッタもんだろ…。クソみてえなもんよこしやがって…)」


 そう思いながら小泉からの贈り物をさっそく腕につけてみせ、無邪気な表情を小泉に見せる間宮。豚は太らせてから食う。そんな言葉を思い出しながら。




「おい」


「はい。比留間さん」


「ちっとこっち来いよ」


「はい」


「テレビのチャンネル変えろ」


「はい。分かりました。どのチャンネルに変えますか」


 その言葉にブチ切れる元『模索模索』幹部の比留間。ビンタを繰り返しながら怒鳴る。


「舐めてんのか!?舐めてんのか!?舐めてんのか!?ああ!?俺が見たいチャンネルぐらい把握しとけやあ!いちいち言わなきゃなんねえのかああ!?無駄に疲れんだけだろうがあ!?あー!?」


 パンパンパンパン!


「すいません!すいません!」


「痛かった?ごめんなぁ。それからよお。俺はよお、『模索模索』割ったからよお。おめえら今日から俺が頭だから」


「え?比留間さん?間宮さんと揉めたんですか!?」


 パンパンパンパン!


「だからよお。めんどくせえのはきれえなんだよ。ごめんなあ。痛かった?いちいち説明せなああかんのかよお。ああ?」


「はい!分かりました!」


「チーム名は気が向いたら考えるからよお。とりあえず…、お前らレンガの大きいやつ。あれなんて言うんだっけ?」


「はい?ちょっと…、分かりません…」


 パンパンパンパン!


「疲れるからちゃんと答えろよ!舐めてんのか!?舐めてんのか!?舐めてんのか!?ブロック塀を作るやつだよ!積み重ねて作るだろお!?ああ?」


「ブロックですか?」


「ごめんなあ。痛かった?そうそう。ブロック。あれを夜中にその辺の民家に投げ込んでこい。ガラス狙え。ガラスな」


「は、はい!」


「あと、早くチャンネル変えろよ」


 間宮が世に放った悪党の一人である比留間。かつて『藻府藻府』宮部らと何度も殺し合った狂犬をも間宮は従えていた。

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