第125話『登園の誓い』

「おーい!とりあえず大御所山の幸先生のブースに行くでござるよ!ねえ、飯塚さん!」


「そこは当然でしょう。あの生『山の幸』先生に会えるなんて夢のようだなあ。いやあ、今日は十分に堪能しましょう。宮部っちも『山の幸』先生作品好き?」


「あ…、はい。単行本はやふおーくで全部揃えてます」


「さすが宮部っち!たなりんの『盟友』なだけのことはあるであります!」


「『B』ブースだよね。それよりみんな『小銭』持ってきてる?」


「コミケで小銭は『鉄則』すよ。万札なんて出すのは『人として』だめでしょう」


 だんだんと慣れてきたのか。自分の考えを主張し始める宮部。漢である。


「宮部っちの言う通りだよね。今日は同人誌メインだから小銭は必須。一冊五百円で万札なんか出してたら困らせてしまうからね」


「そうそう。飯塚さんの言う通りでーす。ルールを守って健全に『自分の趣味』に勤しむ。これぞ『オタクのマナー』でござるよ」


「ちょっといいっすか」


「ん?どうしたっすか?宮部っち」


「他にも自分からいいっすか。まず、『会場では走らない』。これは基本中の基本っす。『歩きスマホ』も同じく。『座り込み』や『赤枠内は荷物など置かない』!『コスプレは更衣室で着替える』!『撮影は相手の同意を得てから』!『スタッフさんの指示に従うこと』!『喫煙は決められたスペースで』!」


「み、宮部っち…?」


「おお!さすが宮部っち!たなりんの『盟友』だけのことはあるであります!ホント最近ていうか昔はあんまり知らないですがマナーを守らない人が増えたように思うでありまーす。レイヤーさんが不快に思うような撮影をしているマナー知らずを見ることも多いでーす」


「うーん」


 組チューバー『仁義』としてガンガン『無断撮影』をしているため心の中で嫌な汗をかく飯塚。と同時に、へえー、宮部君は『藻府藻府』の頭だけあってそう言う部分がしっかりとしているなあ。やっぱりその辺も健司から学んだのかなあとも思う飯塚。


「あと!『転売目的』や『違法なネットへのアップロード』!そう言うのは許せないっすね!」


 熱く『オタク』としてのルールを語る宮部へ思わず拍手を送る飯塚とたなりんこと田中君。


 パチパチパチパチ。


「たなりんは嬉しいでござるよ!宮部っちのような『盟友』と出会えたことに感謝の想いでいっぱいであるでござる!飯塚さんもそう思いませんか!?」


「あ、え、ああ。そうだね。宮部っちに出会えて感謝だね」


「いえ…、自分は当然のことを言ったまででして…」


「またまたあー。謙遜するところがまた!そうだ!この素晴らしい出会いを記念して三人で『登園の誓い』を交わすのはどうでござろう?」


「え?」


 思わず二人して同時に同じ反応をしてしまう飯塚と宮部。


「いやいや。『三国志』の『登園の誓い』でありますよ!あ、ちなみにたなりんは『許褚』派でありますぞよ!ここは長兄を飯塚さんに!次兄を宮部っちに!弟はこのたなりんに!『兄弟』の盃を交わすのであります!」


 え?え?え?と思う飯塚と宮部。それでもごり押しするたなりんこと田中君。そして止まらない。

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