第124話異色の『かけがえのない仲間』

「おおおおおおおい!飯塚せんぱああああああぃ!」


「あ、たなりん!先輩はやめてよお。飯塚でいいよお」


「それはダメです!飯塚さんは年齢もこの道においてもたなりんの師でありますから。本来なら『飯塚せんせえ』と呼びたいとこでありますよ。あ、それで話してました『もう一人の同士』と今日は一緒でして。今日は三人で素敵な時間を過ごせればと思っております!」


「だから『敬語』はやめろよ。『タメ口』でいこうよお」


「そう言うわけには。やはりこの世界は『縦社会』ですので!それでさっそくご紹介させていただきます!じゃじゃーん!たなりんの心の友、『宮部っち』です!ほらほら、宮部っち。こちらが話していた『飯塚先輩』でござるよ」


「あ、ども…」


 とりあえず初対面の人間に対して軽く頭を下げる飯塚。


「こちらこそ…、どもっす…」


 同じく軽く頭を下げる宮部。


「ごるあああああああああ!宮部っち!『っす』はダメでござるよ!『っす』は!『先輩にはしっかりと敬語を使う』は大事でござるよ!飯塚先輩はたなりんの『先生』なのですよ!我々など足元にも及ばないコレクションや知識の豊富さ、それに飯塚先輩はなんと!『ユーチューバー』としてご活躍されてらっしゃるのですぞ!」


 んだよ…。たりいなあ…。まあ、たなりんの顔を立てないと…。ただえばるだけの奴なら普段ならぶっ飛ばして終わりだけど…、ん?飯塚さん?と思う宮部。同時に、いやいや、僕はそんな大した人間じゃあないし、『ユーチューバー』と言っても『底辺ユーチューバー』だし…。たなりん君。ちょっと大袈裟に言うのはやめて欲しいなあ…、宮部君もそういう人相手にするのは『かったりい…』とか思っちゃうでしょ。え?宮部?と思う飯塚。


「………」


 お互い顔を向け見つめ合う飯塚と宮部。


 あれ…?どっかで…と思う飯塚。あ…!やべえ…!京山先輩の兄貴分の田所さんと一緒にいた『あの』飯塚さんだ!と思う宮部。


「あれ…?宮部君…でよかったかな?どっかで…」


「あれ?飯塚先輩と宮部っちは初対面ではないでござるか?」


「すいません!ちょっと二人だけに!飯塚さん!こっちに来てもらっていいですか!」


 そう言って飯塚の手を引っ張り、ダッシュでその場から駆け出す宮部。宮部のダッシュに精一杯ついていく飯塚。状況がまったく分かっていないたなりん君。


「悪い!たなりん!ちょっとそこで待ってて!」


 そしてたなりん君くんから遠く離れた場所で立ち止まり二人きりになる飯塚と宮部。


「ど、ど、どうしたの?宮部君?」


「飯塚さん。いいですか。驚かないでくださいね」


 そう言ってダサ坊よろしく下げた髪の毛をかき上げリーゼントを作る宮部。


「あ!君は健司の後輩の…!」


「そうです!改めてご挨拶になります。十代目『藻府藻府』頭やらせてもらってる宮部一郎です。今日は自分の『ツレ』のたなりん君、田中君と『コミケ』に来たわけであります。すいません!このことは誰にも言わないでください!!」


「ああ。やっぱり…。どっかで見たとは思ったんだけど、まさか『あの』宮部君だったとは。びっくりしたよ」


 本当に心からびっくりした飯塚。あの名門『藻府藻府』を健司から受け継ぎ、現役で頭をやっている人間がわざと『ダサ坊』の格好をして『コミケ』に来ているのだから。と同時に、しかし宮部の気持ちもすごく分かる!好きなものは好きなの!それは仕方ない!それにいちいち文句や批判するのは人として最低なこと!と思う飯塚。そして宮部の肩をポンっと叩き一言。


「大丈夫だよ。このことは誰にも言わないと約束しよう。だって僕らは素敵な趣味を持つ『かけがえのない仲間』じゃあないか」


「飯塚さん!」


 ここに飯塚、宮部、たなりん君と異色の『かけがえのない仲間』が誕生した。

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