第108話びじんきょく

「ええ。間違いないです」


「分かった。そのままあたってくれるか。くれぐれも堅気の皆さんのご迷惑にならんようにな」


「はい」


 半グレ集団『模索模索』のシノギをどんどん探し当てては『肉球会』若頭である住友へと連絡を入れる『肉球会』組員たち。情報のプロは本当に仕事が早い。そしてそれらの情報はすぐに田所のところへと知らされる。


「飯塚ちゃん。どんどん来てますよ」


「はいな。田所のあんさん。ちなみに次の動画のターゲットとなりそうなのはどんなのでしょう?」


「えーとですね。『オレオレ詐欺』に『ぼったくりバー』、『振り込め詐欺』や『出会い系』…、これは昔で言うところの『美人局』ですね。『びじんきょく』です」


「え?『びじんきょく』?それは『つつもたせ』って言うんですよ。田所のあんさん」


「いや、おやじの教えでは『びじんきょく』ですから。局アナは『美人』な方が多いですよね?」


「はい」


「だから『びじんきょく』です。おかしなこと言ってます?」


 はい、言ってますよと思う飯塚。でも神内さんの言ってることも正しいとも思う飯塚。と、同時に「まあ、どっちでもいいや。それにしても悪いこといっぱいしてるなあ。これを全部退治していくのかあ。でも無敵の田所のあんさんがいれば余裕っしょ―。撮れ高、撮れ高」と思う飯塚。


「いえ。それよりもいろいろやってますねえ。あの『模索模索』っていうおこちゃま軍団は」


「ええ。シマウチの堅気の皆さんも大変ご迷惑被っていると思います。自分らも急いだ方がいいですね」


「ええ」


 動画の編集作業をしながら次のターゲットを決める相談をする田所と飯塚。



一方その頃。


「ほう。なるほどな。つまりは『暴対法』や『使用者責任』に問われねえお前がこの『蜜気魔薄組』を動かす。てめえんとこの半グレ集団『模索模索』が実行部隊になると。それならどんな悪さをしても『暴対法』には問われんちゅう解釈か。だから小泉さんもあれだけ『盃』に拘るなと言ってたのか。で。わしらは何をすればええんや?」


「そうですね。シマウチを守るだけでいいですよ」


「ほお…。シマだけまもってりゃああとのシノギはてめえや『模索模索』が全部やってくれるってか。それはええ話やのお。なあ、お前ら」


「ええ」


「そうですね」


 つい先ほどまで頭に血を登らせていた『蜜気魔薄組』の組員たちも間宮の説明を聞き納得する。しかし間宮も言う。


「あ、でも…」


「なんや。今全部言うとけよ。後になって『泣き』は通らんぞ」


「ええ。なので最初に言っておきます。皆さんには『シマ』だけを守ってくれていればいいと言いましたが。あれは軽率でした。他にもありましたね」


「なんや。他ってのは」


「ええ。ジュースを自販で買ってきてもらったり。マックを買いに行ってもらったりですかね。大事ことを忘れてました」


「てめえ…。素人のガキが『極道』をパシリ扱いか…」


「いえいえ。とんでもない。無償で金銭が発生すればいろいろと不味いじゃないですか。『タダより高いものはない』ことは伊勢さん、あなたが一番理解されてるかと」


「ほお。それで」


「ええ。いずれ『模索模索』は法人になります。『反社』が表社会に出るにはそれしかないでしょう」


「で」


「皆さんも『フリー』になった方がいいってことです。銀行口座も持てない、ローンも組めない、生活保護もうけられないじゃあ割りに合わないでしょう。それならいったん生業にありつけばいいってことです」


「あ?そりゃあ『蜜気魔薄組』の看板を一回抜けろと。おやじとの盃をいったん白紙に戻せってことか?」


「そうです」


「小僧。盃や組の看板を軽ぅ考えすぎじゃねえか?」


 間宮と伊勢の会話は続く。

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