第107話お客様はこのざまですか?

 間宮の『占い』発言から数日後、『蜜気魔薄組』の組長である若林は逮捕された。『蜜気魔薄組』の末端組員が『特殊詐欺』に関わっていたことで『使用者責任』が適用されたのである。


「あ?所詮あいつらは『そろばんヤクザ』だろ?」


「かしら。でもあそこは資金面でうちの大事な財布でしたが」


「ああ。分かっとる。すぐに新体制もしかれるやろ。問題ない。なんかあっても『わし』がなんとかするがな」


 『身二舞鵜須組』若頭・小泉と半グレ集団『模索模索』リーダー間宮の描いた『絵』がそのまま順調に進んでいく。


「なんでですかあ!おやじは引退したわけやないやありませんよ!」


「あ。若林はガラ持っていかれてその原因も下のもんの『不始末』やろうが。そもそも日頃から『教育』がなってないんが理由やろが。それとも残ったもんで今まで通りやっていけるんかい。今回の件はお前らの『シノギ』の大半を占め取ったんやろが。シマもシノギもじり貧のお前らに何が出来るんや?」


「だからって自分らのことは自分らでやりますよ!」


「あ。それはうちにこれまで通り変わらずってことか?そういう解釈でええんやな。今回、わしが『筋』通したってことは忘れんなよ。あとからわしの『メンツ』潰すようなことになったらどうなるか分かっとるな」


「それは…」


 『身二舞鵜須組』若頭・小泉の言葉に詰められ言葉を失う残された『蜜気魔薄組』の組員たち。


「別に『そいつ』の盃を受けろって言うわけではないがな。逆に受けられると困る。新しい組長でもねえ。てめえらのおやじはそのまま若林でええがな。ただ、今後の話や。若林が出てくるまでの我慢じゃ。まあ、その時までに考えが変わるのもええがな。おい。あいつを呼べ」


「へい」


 そして『身二舞須組』若頭小泉についている組員が携帯を鳴らす。


「どもー」


「てめえ!」


「え?『てめえ』?僕はお客様ですよ。それにしても…」


 『蜜気魔薄組』事務所のすぐ外で待機していた間宮の登場でブチ切れる『蜜気魔薄組』の組員たち。小泉がいなければ間宮へ襲い掛かろうとする組員たち。ものすごい形相で間宮を睨んでいる。


「小泉さん!こいつは!」


「あ。わしの大事な『友人』やが。お。わしの大事な『友人』に対してなんかありそうやのう。何ぞあったら言え」


「いえ…」


 そんな『蜜気魔薄組』の組員たちを挑発する間宮。


「へえー。お客様はこのざまですか?」


 手は出さないが一触即発の状況。ものすごい形相で間宮を睨みつける『蜜気魔薄組』の組員たち。


「今からお前らはこの間宮の下につけ」


「小泉さん!それはいくらなんでも!」


「そうですよ!こんな小僧の下って!」


「あ」


「いえ…。ただわしらも『極道』の看板背負ってますんで。小泉さんの大事なご友人だろうがこいつの下にいきなり『つけ』と言われましてもやれるもんとやれんもんがありますよ!」


「だーかーらー、別にこいつの『盃』を受けろとも言うてないがな。それにこいつがどれだけ使えるかもお前らは知っとるやろうが」


「ええ。よーく知ってますよ」


 ここで頭のいい『蜜気魔薄組』の組員が言う。若頭の伊勢である。


「小泉さん。こいつは使えます。その通りです。だからこそ言わせてもらいます。こいつはうちにすり寄ってきてこのざまです。うちのおやじが一瞬で食われました。こいつはいずれ小泉さん、そして『身二舞鵜須組』さんの反目に回りますよ。その時になってこいつを抑えつけれますか」


「誰に口きいとる」


 『蜜気魔薄組』若頭伊勢哲夫。後に間宮の片腕となる男である。


「『身二舞鵜須組』若頭である小泉さんにです」


「ほお。お前、名前は」


「『蜜気魔薄組』若頭伊勢哲夫と言います」


「伊勢か。お前が間宮と組め。五分や。でも盃は交わすな。まあわしものんびりしとる暇はないからのお。あとはお前らで話し合え。間宮もそれでええな」


「はい。お気をつけて」


 この場を仕切っていた大物・小泉と『身二舞鵜須組』の組員たちが引き上げる。


「お前ら。気持ちは分かるが手は出すな。頭に血を登らせとったらそのままこいつの思うつぼや。まあ座ろうや。間宮『さん』よ。おい、『お茶』や。『お茶』を用意せえ」


「へい」


 そしていつも若林が座っていた椅子にさっさと座る間宮。そして言う。


「あ。自分猫舌なんで。冷たいやつを自販で買ってきてもらえます?」


「…、間宮『さん』の言われたとおりにせえ」


 そして間宮の対面に置かれたソファーに座る伊勢。


「まあゆっくり話そうか。最初に言うとく。小泉さんの大事な友人だろうと俺は遠慮なく行く時は行く漢や。俺はおやじみたいに『優しく』はねえからな」


 そう言ってタバコを咥える伊勢に『蜜気魔薄組』の若い衆がライターを差し出す。


「僕も伊勢さんとお話がしたいとずっと思ってましたよ。財布扱いじゃつまらんでしょう。自分は本家のトップを狙ってますんで」


「ほお…」


 頭に血を登らせた『蜜気魔薄組』の組員たちも間宮の一言で冷静になる。

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