第103話サキ
「おい。間宮よお」
「はい」
椅子に座った男と直立不動の間宮との会話。ここは『蜜気魔薄組』事務所である。
「俺はお前に『なん』つった?」
「はい。『肉球会』の人間を誰でもいいから一人殺ってこいと」
「あそこの補佐を殺ったんだっけ?」
「いえ。まだ確認はとれてませんが。アイスピックでめった刺しにはしておきました」
「あ?『しておきました』だ?」
「おい!おやじが聞いてるだろうが!質問に答えんかい!!」
間宮に怒声を浴びせる『蜜気魔薄組』の組員たち。
「おい。うるせーぞ。お前ら。黙っとれ。今はこいつとわしが話しとるんや」
「すんません」
「で。お前さあ。俺は『殺ってこい』って言ったよな」
「はい」
「裕木の野郎、生きてるじゃねえか」
「そうなんですか」
「てめえ!おやじに向かってなんだその口の利き方は!」
「だからうるせえって。今はこいつとわしが話しとる」
「すんません」
「で?」
「はい。最初はトップの神内を狙いました。裕木ってのが盾になりました。それでもそいつをアイスピックでめった刺しにしたんですが。途中で後ろから別の組員らしき方から拳銃を突き付けられまして。何とかその場から逃げるので精一杯でしたので。それでも致命傷は与えたつもりでしたが。あいつ死んでなかったんですか?」
ガン!
椅子に座った男が机を蹴り飛ばす。
「おい。俺はお前に『なん』つった?おんなじこと二回も言わすなボケえ」
「すいません。『殺ってこい』と言われました」
「だろ?生きてるじゃねえか。てめえはわしの言うことが聞けんってことか?」
「いえ。そう言うわけでは」
「ごるあああああ!おやじに向かって言い訳してんじゃねえ!ボケえ!」
「このガキ埋めてまうど!ごるああ!」
「だからうるせえって。今、会話してんのは誰と誰だ?」
「すんません」
間宮は表情を一切代えないどころか目の前の茶番に飽き飽きしている。そして言う。
「すいません」
「なんだ?」
「もう帰っていいですか?見たいテレビがありますんで」
「あ?」
「このクソガキぃ!やってまうど!ごるあああああ!」
「舐め腐りおって!こいついてもうてええですか!おやじ!」
「だからうるせえって。ふん。お前、おもしれえな」
「そうですか。初めて言われました」
「でもな。サキ見てモノ言えよ。生きれるもんも生きれんようなるぞ。お前はもうちょっと賢いと思っとったけどなあ」
「サキですか。ヘクター・ヒュー・マンローですかね。あれは面白いですね。見てますよ。『開いた窓』なんか最高ですね」
「あ?」
スマホを弄る『蜜気魔薄組』組員たち。
「このガキぃ!」
間宮に『蜜気魔薄組』組員たちが襲い掛かろうとしたその時、椅子に座った男の携帯が鳴る。
一方その頃。
「ええ、おやじ。なんか飯塚さんから預かったカメラの取り付け方が間違ってるみたいですね」
「そうか。学よ。ちょっと詳しく教えてくれんか」
「はい。失礼します。これはですね…」
昔気質で屈強な組員たちが揃った『肉球会』事務所では戦争の準備ではなく『撮影』のやり方をしっかりと勉強会を開いてそれぞれが二度と撮りそこないがないようにと確認し合っていた。
「道具も最近はかなり複雑になっとるのう」
「ええ、おやじ。でもおやじの教えが一番役に立ってますんで。これからも時代が変わろうとおやじの教えが絶対に必要だと思いますんで。これからもよろしくお願いします」
「馬鹿言うな。これからは若い人間が活躍せんとな。税金も若者にこれからは押し付けられていく。若い人間が引っ張っていかんとなあ。気張れよ」
「はい!」
「気張れっていうたが『クソ』する時に気張るんは体によくないぞ。『クソ』する時に力むのは『便秘』の始まりや。自然に出るようでないとな」
「はい!」
そして神内の言葉を真面目にメモへ書き込む昔気質で屈強な『肉球会』の組員たち。神内の教えは本当にためになる。
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