第102話あやぱん

「ただいまー。あれ、田所のあんさん。本当に真面目に頑張ってますね」


 ノートパソコンに向かって一生懸命と飯塚から教わったことを不器用ながらこなしていた田所。そしてそれを見てさすがだなあと思う飯塚。


「あ、お帰りっす。いや、おやじの教えなら『岡英里』ですね。『岡山』の『岡』に『高橋英樹』さんの『英』に『里芋』の『里』と書いて『岡英里』です」


 え?と思う飯塚。と同時にスマホをピコピコする飯塚。そして、ああ、そういうことですか、と思う飯塚。と、同時にそこは『高橋英樹』さんじゃなくて『英語』の『英』でいいんじゃないのでは?とも思う飯塚。つい先ほどまで怒髪冠を衝くがの如く7・3のパンチパーマがそのまま重力と強力なパンチパーマの薬剤に歯向かうかの如く怒りマックスだった田所も冷静さを取り戻していた。


「それで健司から受け取った動画を早速見ましょう。中身は何か聞かされてませんので。でも楽しみですね」


 そんなワクワク気分の飯塚の言葉を重い心境で受け止める田所。


「そ、そうっすね。早速見てみましょうか」


 何が映った動画かは分かっている田所。テンションが上がるわけがない。それを少しだけ察する飯塚。何か訳アリなんだろうなとも思う飯塚。そして健司から受け取ったUSBをパソコンに刺し、ファイルをパソコンに転送させる飯塚。


「へえー。フォルダーの名前が『29』って。『肉球会』の『肉』で『にく』じゃないですか?パンチが効いてますねえ」


「あ、それは恐らく学ですね。あ、山田です。自分の弟分の。あいつはパソコンとかにそこそこ詳しいんですよ」


「へえ。そうなんですね」


 そう言えば最初に『肉球会』事務所へ行った時も山田さんがノートパソコンとかを用意してたなあと思う飯塚。そして三本の動画を確認し、ひとつひとつを再生してみる飯塚。


「これは…。真っ黒で何も映ってないですね…。でも声は聞こえますね」


 とりあえず最後まで見るが何も映っていない真っ黒な画面のままの動画。神内さんと子供たちの声は聞こえる、うーん、これは誰が撮ったんだろう?もう一回使い方をちゃんと説明した方がいいかなあと思う飯塚。そして二本目を見てびっくりする飯塚。


「なんか平和的な動画ですね。お子さんにお菓子?ですかね。配ってますね。これが大事な動画なんでしょうかね。うーん、『肉球会』の皆さんも僕らに協力しようとしてくれてるんですかね。でもこれじゃあ…、え?なんか人が『刺されてる』みたいですよ!!しかも無抵抗で!やばいですよ!」


「…これは。刺されてるのはうちの補佐の裕木です」


「ええ!あの裕木さんですか!?」


 驚きながら編集もされていない、加工もされていない『ガチ』の凶悪動画を見てしまう飯塚と田所。そして三本目の動画も確認する飯塚と田所。そして言う。


「これは…、あの『間宮』って奴じゃないですか?変装してますけど…」


「ですね…。恐らく一本目がおやじの動画、二本目が二ノ宮のおじきの動画、そして最後のが補佐が撮ったやつですね…」


「しかしこれは!こんなものは『ユーチューブ』にはアップ出来ませんよ!規約で問答無用で『垢バン』ですよ!」


「え?あの元フリーアナウンサーの後に始まったあの番組に問答無用でなるんですか?」


 それは『アヤパン』でしょうと速攻で思う飯塚。


「いえ、そうではなくてですね。『仁義』チャンネルというアカウントを僕らは作るのです。そのアカウントが『バン』と言って強制的に使えなくなることです。この動画は地上波はもちろんかなり過激すぎるので通報されたら即『垢バン』になる可能性が高いということです」


「え?『通報』っすか?タレこむ奴がいるんすか?でも日本の警察はいくら『通報』しようがなかなか動かないっすよ」


 いろいろと説明するのがあれだなあと思う飯塚。


「いえ。『通報』とは警察じゃなくてこの『ユーチューブ』を管理している民間企業です。国家権力ではありませんので」


「そうなんですね。いやあ、飯塚ちゃんはいろいろと詳しくて助かるっすね。すごいっすよ」


 そう言いながら心を何とか落ち着かせる田所。ただ、意図的にボケているわけでは決してない。ガチである。そして田所が続ける。


「でもこの動画は意味もなくうちの連中がこっちに送ってくることはないと思います。恐らく何か『意味』が絶対にあるはずです」


「そうですね。まずこの動画で『間宮』が関わっていることが、つまり『模索模索』が関わっていることの証拠になりますね。それに他にも今後役立つ可能性も大いにあると思います。これは大事に保管しておきましょう。いずれ必要となる場面が来ると思いますので。これは編集も加工もせずに保管しておきます」


 動画を見て田所が怒りを必死で堪えていることを察する飯塚。だから自分が帰ってきた時、真面目に作業をしてたんだと思う飯塚。そして飯塚にも田所と同じ感情が。


「田所のあんさん」


「はいな。飯塚ちゃん」


「僕は今、こうやって平静を保ってますが心の中ではめちゃくちゃ『怒り』を感じてます。裕木さんはこんな僕にとても親切に接してくれました。そんな人をあの『間宮』が…。田所のあんさんの怒りは僕の比じゃないとも思います。こいつらをきっちり『潰し』ましょう」


「兄弟…」


 昔ヤンチャしてただけでつい先日まで真面目にサラリーマンとして働いていた飯塚が半グレに対し心の中で宣戦布告を誓う。

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