第100話すずめの兄弟
『肉球会』事務所を出た京山。まずは優先順位を敢えて考えず、先に田所へ電話を入れる。
「いやあ、飯塚ちゃん」
「なんですか。田所のあんさん」
先日の『取れ高最高』の動画を編集している飯塚と田所。最初に貰った一千万円でなんと『田所専用』のノートパソコンを購入した二人。飯塚に教わりながら『パソコンでの作業』を頑張る田所。言われたことはしっかりとメモに取りながらである。それでもせめて『明るい職場を』との飯塚の提言で作業中にも大事な会話も無駄なお喋りもする二人。
「兄弟。『すずめの兄弟』は何になるか知ってるっすか?」
「え?『すずめの兄弟』ですか?」
田所のあんさんは他にも兄弟分がいるのかと思う飯塚。と、同時にパソコンでネットをチャチャっと開き、グーグル先生に聞いてみる飯塚。あ、これですか…、と思う飯塚。
「実は『ペンギン』になるんすよ。すごくないですか!」
「でも、だけど大きくなってもすずめはすずめじゃないですか?」
「いえ。おやじの教えは絶対です。おやじが言ってましたから。まあ、『兄弟のいるすずめ』ってかなり希少だっておやじも言ってましたね」
なんてことを教えてるんだ…、神内さんは…、と思う飯塚。と、同時に、まあ、ほのぼのとして想像力も広がるし、固定観念にとらわれなくていいのかもなあとも思う飯塚。
「じゃあ『子猫の兄弟』は大きくなると何になるでしょう?」
得意げに問題を出してくる田所。そしてグーグル先生にチャチャっと聞く飯塚。
「さあ。トラかライオンじゃないですかねえ?」
「え?何で知ってるんですか!?」
ガチで驚く田所。そして飯塚を『只者ではない』との真剣な表情で口を開けた状態で見ながら恐る恐る次の問題を出す飯塚。
「じゃあ…、『めだかの兄弟』は大きくなると何になるでしょう?」
「鯉かクジラじゃないですか?」
即答する飯塚。めちゃくちゃ驚く田所。
「お、お、おやじの教えは…、こんなにも広く浸透してるんですね…。さすがうちのおやじ…。最高だと思いませんか!?でも惜しい。クジラは合ってますが鯉はブブ―です。正解は『カープ』です」
「そうです!最高です!え?『カープ』?」
とりあえず神内さんは最高だから最高だと同調する飯塚。と、同時になんてことを教えるんだ!とも思う飯塚。と、同時に『カープ女子』も最近はあれだよなあとも思う飯塚。そして田所のスマホが鳴る。
「あ、健司からです。ちょっと出ますね」
うーん、まあ、昨日の今日だし。いろいろとあるんだろうなあと思う飯塚。
「え!補佐が!」
あまり聞きなれない『補佐』との言葉にピンとこない飯塚。今のうちに作業を進めようと思う飯塚。
「ええ。それでその時の動画がありますんで。これから持って行っていいですかね。今は飯塚のところですよね」
「いや、直接会うのはまずい。前にそれで一回下手打っとる。うーん。ちょい待って」
そして飯塚に話しかける田所。
「なんか新しい動画があるみたいでして。それを健司が俺らに渡したいそうですが。直接自分が受け取るのはまずいんですよ。どうしましょう?」
「あ、それなら僕が受け取りに行きますよ。僕なら問題ないですよね。ツレに会うだけですし」
「いいですか。すいません」
そして再びスマホを耳にあて、話始める田所。
「おう。わりいわりい。飯塚ちゃんが取りに行ってくれるって。場所だけ教えてもらえるか」
そしてそのまま場所を声に出す田所。それをラインにメモする飯塚。
「じゃあ今からすぐに出るみたいなんで。あそこなら十分もかからんやろ。待っとってくれるか。じゃあ」
そしてスマホの通話終了ボタンを押す田所。
「田所のあんさん。さっき言ってた場所ですよね。すぐなんで今から行ってきますね。いやあ、健司と会うのも楽しみです」
「ええ。じゃあ任せます」
「田所のあんさん。僕がいないからってサボってちゃあダメですよ」
「了解でーす」
そしてすぐに準備をして部屋を出る飯塚。それを見送った後、いきなり鬼の表情に豹変する田所。
「補佐が…」
そして思い切り部屋の壁を殴ろうとするが飯塚の部屋であることをとっさに思い出し、拳を止める田所。やり場のない怒りをどこにもぶつけられない田所。奥歯を思い切り噛みしめ、両手拳を思い切り握り締めることで怒りを何とか抑えようとする田所。本音は今すぐこの部屋を飛び出して裕木の元へ駆けつけたい。裕木をそんな目に遭わせた連中は大体想像がつく。関わった人間全員を全殺しにしたい。そんな思いをぐっと堪える田所。
「今の俺はユーチューバー…。これが俺の『役』…」
『サボってちゃあダメですよ』
飯塚の言葉を思い出す。すぐにノートパソコンへと向き合う田所。慣れない手つきで飯塚から教わったことを一生懸命やる田所。組チューバー『仁義』にかける思い。その思いが気の狂いそうになっている田所を落ち着かせる。
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